第21話 目標
1人でゴーレムを討ち果たし、何とか生還したアール。
エミールとサチェットに迎えられ3人はターレムへと戻る。
皆の無事に安堵しつつ一息ついたところで、話題はアールの目標へと移る。
アールはようやく決心のついた自身の目標を皆に打ち明けるのだが・・・。
上層 元食堂『ターレム』
地下から生還したアールは、エミールとサチェットに搬出口で出迎えられた。
無事を喜ばれ、グレイを助けたのを褒められ、穴へ飛んだのを怒られ、ゴーレムを倒した事を驚かれ、何とも賑やかで騒がしい再会となった。
救助隊への感謝と諸々の手続きを済ませ、一行はターレムへと戻った。
「…ほぉー、それでゴーレムに挑んだと? 何とも無茶をしたもんだな、しかし無事に勝ったのならば褒める以外にないか」
「いや、本当に他に道も無かったんで…倒して通る以外に無かったんですよ」
「穴に飛んだ時は肝を冷やしましたが…私の想定以上にアールは力をつけていたのですね、おめでとう御座います」
聞けば、サチャットはアールを追って穴に飛び込もうとしたとか。
エミールが鎧で担ぎ上げて逃げなければ蛙の群れに突入する所だったらしい、自分の事は棚に上げて、無茶をするものだとアールは思った。
「でもこれでエミールもアールを認めてくれるよね? 仲間になってくれるよね?」
「ん? …ぉお、それは吝かでもないが…お前の目標は固まったのか? それともそっちは未だだったかな?」
目標、思えば随分と悩んできたことだ。
少し前から答えの様なものは得ていたが、なかなか認める事ができなかった。
ゴーレムとの戦いを通して何か価値観でも変わったのか、以前の様な妙な抵抗感は跡形も無く消えていた。
「いえ、目標ははっきりしました…ちょっとストレートな…いや、曖昧なやつですが…」
「ほぉ、面白そうじゃないか、では聞かせてみよ…お前の目標とは何なのだ?」
アールは軽く深呼吸をして頭を整理する、目標の中身にはもう躊躇はない。
上手く説明できるかが今の心配事だった。
「俺はサークルに来るまで、凄く退屈で何もない日々だった…母親は俺を生んですぐ死んで、親父は俺が赤ん坊の時に祖父母に俺を預けてどっか行っちまった、それからは畑仕事と簡単な読み書きだけの日々だった…ほんと、何も無かったなあ」
エミールとサチェットとグレイは黙って聞いている、アールは少しずつ言葉を続ける。
「サークルの話を耳に挟んで、反対されたけどサークルに転がり込んだ…ディガーってもの事態を知ったのはそれからだ、漠然と憧れて、俺でもできるモグラ仕事で金を稼いだ…サークルに来て2年経ってからグレイと出会えた、ほんと唐突で今でも変な感じだよ」
心なしかグレイはえっへんと胸を張っている様だ、勿論ひし形のままで。
「グレイに会って…それでいきなりディガーになれて、宙ぶらりになっちまったけど……思い返してみれば泥臭くモグラ仕事を頑張ってた時、確かに思ってたんだ…「いつか絶対に成り上がって見せる」って…」
「ふむ…ではそれがお前の目標というわけか? 何ともストレートじゃないか、私はそういうのは好きだぞ」
「はい、誰しも富や名声を求めるものです、胸を張って良いかと」
「…ぁ、いやいやちょっと待った! 成り上がりたいのは成り上がりたいんだけど、ちょっと理由が…というか…」
エミールとサチェットは首を傾げる、グレイも首を傾げ…いや、よく解らない。
アールは咳払いをしてから話を続ける、ここから先の説明に自信がなかった。
「俺は、俺を捨てた親父を、後悔させてやりたい…俺を捨てなければ良かったって! だから、捨てられた俺がディガーとして大成して名を上げて幸せになれば! …いや、これはオマケなんだ…あくまで俺は俺のために成り上がりたい、そのついでに親父を後悔させたいって意味で…」
アールは依然整理のつかぬままに胸の内を曝け出す。
目標に対する羞恥の思いは消え去ったはずだが、何か別のまだ解らない思いがアールをはっきりとはさせない。
エミールとサチェットは少し悩んでいる風だった。
「つまりお前は、成り上がって父親を見返してやりたいのだな? 肝心の父親は今どこにいるか知っているのか?」
「…いや、全く…俺が赤ん坊の頃に消えちまったから、20年近く消息不明って事になるのかな」
エミールの質問に頭を掻きつつ応じるアール、歯切れの悪い回答しかできない。
「アールは、父親を恨んでいるのですか? …何か悪い記憶でも?」
「殆ど覚えてないよ、断片的で顔もボヤけてる…でも、恨んでないって事はない、はずだ」
目標に関して説明はしたが何とも微妙な空気になってしまった。
3人は腕を組み、悩み顔をつき合わせている。
不意に、グレイがはい! っとチューブを伸ばして注目を集める。
「アールは、成り上がって有名になって、お父さんに会いたいんじゃないかな?」
アールは一瞬ビクっとするが、また悩み顔で首を傾げる。
対照的にエミールとサチェットはそれだ! と顔を明るくする。
「なるほど…成り上がって名を馳せれば消息不明でもアールの事を報せれると…ふむ、良い目標ではないか、ワシは応援するぞ」
「…家族は大事にすべきですね…愛憎は表裏一体のもの…勉強になります」
「…会いたい? いや、それは…どうなんだ? 俺は会いたい、のか?」
アールは、成り上がって自分を捨てた父を見返したいとしか考えておらず「会う」という事は全く頭になかった。
グレイの発言は奇襲となってアールを揺さぶった。
「本人はまだ結論が出ぬか…まあどちらにせよ「成り上がりたい」というのは変わらぬな、今はそれで良いのではないか?」
「アール、見返すにしても会いたいにしてもやる事は変わりません、それは会えた時に自ずと解りますよ」
アールは思案するが、やはり答えは出ない。
以前のアールであれば、この悩みを引きずって足枷にしてしまっただろう。
「そう、だな……うん、今は解らない…なら、今うだうだ考えるのは止めよう、やるべき事は決まったんだ」
やるべき事は決まった、ディガーとして大成し名を上げて、どこにいるかも解らないが父の耳に入るまで名を広める。
その後の事はその時に考える、実際に父と会ってみなければ解らないと。
今のアールは割り切る事ができた。
「よしよし…ならば約束通り、ワシもお前と組んでやるとしようか…改めて宜しく頼むぞアール…組む以上は敬語は止めよ、堅苦しいのは好かん」
「了解、ありがとうエミール、こちらこそ改めてよろしく…これで3人、組合の仕事も受けれるようになったわけか」
デイガーとして名を上げるのであれば、正規の仕事をこなすのが一番である。
アールはようやく、そのスタート地点に辿り着く事ができた。
「ん? …いえ、組合の仕事をこなすのでしたら、ギルドへの加入も必要ですよ? そちらはまだ未着手では?」
「…え゛? ギルドは…いや、2人はギルドを組んで…」
「ワシらは無所属だしギルドを作ってもおらんぞ、組んではおるがギルドは必要もなかったしな…まさか勘違いしておったのか?」
アールの顔が凍りつく、完全に勘違いをしていた。
エミールとサチェットはギルドを組んでおり、エミールに認められればそこに入れてもらえるものと。
思い返せば2人共、今までギルドなんて単語すら口にしていなかった。
「…まぁまぁ、気を落とさずに…新規ギルドの登録もそこまで手間が掛かると言うわけではありませんよ、多分…」
「やった事は無いが、3人分の記載を済ませて組合に書類を提出するだけだったと思うぞ? 記載内容も頭を抱える様なものでもなかろう、そう大げさに驚くな」
エミールに小突かれ我に帰る、確かに大してショックを受ける事でもなかった。
むしろ自分達に合ったギルドを作れば良いと、前向きに考える。
「そう、だな…今はさっさと…組合行って書類貰ってくる! それが無いと何も始まりらないもんな!」
言い終わる前に、アールは組合へとすっ飛んで行った。
悩みが消えすべき事が明確に定まったからだろう、顔にも行動にも淀みがない。
「今日の所はもう休…威勢の良いことだ、何とも頼りがいがあるねえ…ところでお前は、まだアールには伝えないのか? お前のディガーとなった目的を」
「…師匠こそ、全て話したわけではないでしょう、私の目的は…彼に伝えずとも良いでしょう、少なくとも今の所は」
「2人共、アールに話せない事があるの? …何か悪い事?」
アールが飛び出した後のターレムで、後ろめたくはないが、聞かれたくない事について2人は話し出す。
誰しも、生きていれば他人に言い辛い事は背負ってしまうものである。
「いえ、悪い事…ではありません、それだけは誓えますよグレイ」
「ワシのも、悪いものではないが、突拍子が無いというか…まあアールには本当に害意はない、それだけは信じといてくれ」
「ふーん…解った、2人を信じるよ、アールの事宜しくね」
エミールとサチェット、2人はアールにはまだ話せない事を隠したままアールと協力体制に入る。
だがこれは何も特別な事でもない。
全てを曝け出した上での人間関係なぞ、この世のどこにあるというのか。
ここまで御覧頂き、まことにありがとうございます。
※こちらからは《メタ話、顔文字、ゆるい話等》となっております
※また、後書きは推敲を行っておりません、悪しからず
という訳で、アール君はようやくうじうじモードから脱却、目標をしっかりと?語り3人で組む事になりました
しかしながら彼の頭の中には「成り上がって父親を見返したい」しかなく恨んでるかは少々あやふやでした、そこにグレイの言葉がヒットしますがそれでもよく解らず
ちょっとばかし成長したアールは「今は解らなくてもいい」と割り切る事ができました、うじうじアール君は卒業したのですから
次回から3人が組む上での話しなどが展開されていきます
是非次回も御覧下さいますよう、御願い申し上げます。




