第20話 試練 《後編》
地下深くで始まったアールとゴーレムの一騎打ち。
アールはゴーレムの背中の核を狙うが、動きや考えに精細を欠く。
覚悟を決めたはずだったが、それは余りにも甘いものだった。
そして、自身に業を煮やしたアールが取った行動とは・・・。
ゴーレムの攻撃をいなし、或いは避けてアールは何とか食らいつく。
しかしいなす度に両腕は痺れ、チャンスと見て背中へ回ろうとすれば、蹴りや空いた手で打撃を食らう。
ゴーレムの攻撃は大振りで乱雑だが、それでも余りに体格差がありすぎた。
「っはぁ…はぁ…ぁっ…っ!」
何度目かの交錯、アールも闇雲に背中は狙わずあの手この手を使うが、どれも後一歩届かない。
アールにも原因は解っている、ゴーレムの攻撃を怖れるあまり、回避が大きくなっているのだ。
大きく確実に回避してから背中を狙う、当然ロスが大きくゴーレムが対応できてしまう。
「(ビビっててもジリ貧だ…次、やってやる!)」
覚悟を決めて、次の攻撃を最小で回避する事を腹に決める。
一挙手一投足を見逃すまいと眼に力が宿る。
「アグァヴァアア! ヴォグォオオオ!!」
殺意を満載した大振りの横薙ぎが迫る。
アールは体格差を逆に利用して、身を低くしたまま脇に飛び込む。
派手に空振ったゴーレムは体制が崩れたまま、アールは遂に背中を捉えた、が。
「核…あれか!? いやでも…」
懸念だった偽装された核は、サチェットのアドバイスに従い盛り上がりを探す事で直ぐに解ったが。
届くかどうかはギリギリの高さだった、全力で飛んで片手で剣を振るっても難しい所である。
「グゥ…ゴオォ、ヴァアァ!」
迷っている内にゴーレムはアールに向き直る、こうなればまたやり直すしかない。
「(どうせなら飛んで試すべきだったか? …いや届かずに隙を晒せばそれこそ致命的だろうが!)」
一つの行動が一つの後悔を呼び、連鎖的に頭の中がグチャグチャになる。
覚悟していたつもりだったが、余りにも甘過ぎたようだ。
纏まらない頭のままに再びゴーレムと向き合う、頭を振って雑念を払いのけようとする。
「っ! …くっそ! …!?」
集中力が散漫だったのか、単に予想外だったのか。
ゴーレムの剣にばかり目がいっていたアール、ゴーレムは振り向きざまに素手で横払いをしていた。
「っごぁ!? …あぁ!」
すんでの所で剣と腕を割り込ませガードするが、全くいなす事も出来ずに受けてしまった。
アールは受けるがままに数m打ち飛ばされ、地べたに横たわる。
「アール!? …アール大丈夫!? アール!!」
幸いにも壁や岩等には激突しなかったが、全身に衝撃が走った。
剣を杖のようにして何とか立ち上がる。
「…ごふぉっ……っぜ…っぅ……ぬぅぁっ!」
立っているのがやっとと言った体で剣を構え直す。
もし、素手ではなく岩の剣であったなら…致命傷であったろう。
最悪の想像が頭を過ぎるが、すぐに頭を振って現実と向き合う。
「(アホな事考えてる場合じゃない! もう次は絶対に飛ぶ! 絶対に届かす!!)」
「ヴォォオ…ヴ、ヴァアガァア!!」
再びゴーレムは距離を詰め、アールに向かって暴風の様に剣を振り回す。
大振りの攻撃を狙うアールは、避けつついなしつつ辛抱強くチャンスを待つ。
ここまでの戦闘で、ゴーレムは痺れを切らすと、どんどん雑に大振りになるのを掴んでいる。
「ゴォ、グゴァ…ガァヴァアァアア!!」
大きく振り被っての両手での縦斬り、まさに待ち望んでいた攻撃だ。
最小限の動きでギロチンを避ける、冷や汗など、もはや出している余裕もない。
ゴーレムの背後へと回りこみ、間髪入れず全力で飛び、核へ向けて剣を振るう。
果たして、剣は届かなかった。
ゴーレムの核へはあと数十cm、アールの剣はゴーレムの背中を少しだけ引っ掻くだけに終わった。
「!? …くっ…っそがあぁあ!!!」
後悔を含んだ叫び、しかし叫んだ所で腕も剣も伸びはしない。
着地と同時に、振り向きざまのゴーレムの横薙ぎが迫る、今度は岩の剣である。
飛ぶ事にだけ集中し全力だったアール。
先程と同様の攻撃とは言え、この攻撃に対応できない。
ガードも何もできずに致命的な一撃を受ける、はずだった。
本当にアールは、飛んで剣を振る事しか頭になかった。
剣を振った勢いのまま、まともな着地もできずに、うつ伏せに地面に突っ伏す。
ゴーレムの剣は、轟音を立てて空を切った。
「!? …アール! 早く立って!! 立てアール!!」
「解ってるっての!! 有難う! うるさい!!」
グレイに感謝と非難を飛ばしつつ、ゴロゴロと転がり一旦離れて立ち上がる。
やらないよりはやるべきと思っていたが、結果は良くなかった。
アールは何か利用できるものはないか周囲を見回すが、飛んで届かなかった結果は、否応にも頭に熱と焦りをもたらす。
「(何か…何か登れるとこ、いやそれじゃダメだ時間が掛かる! 時間を掛けずにパっと使えて…都合良くゴーレムの核を狙える…何か!!)」
「ボォオ…グバォ…ガォヴァアアガ!!」
当然ゴーレムは待ってなどくれない、直ぐにアールに襲い掛かる。
アールはそれを凌ぎながら何か無いかと周りをきょろきょろと見るが、まるで何も目に入ってはこない。
焦って目に入るものは全て抽象画のようにぼやけていた。
「(何か、何か無いのか!? いやあるだろ!? ある筈だろ!?)」
焦りながらゴーレムの攻撃を凌ぎながら周りを見る、頭がぐちゃぐちゃになる。
頭を振って自身を落ち着かせようとするが、それで落ち着けば苦労もない。
ゴーレムの大振りの攻撃がくる、背中を狙うべきかと一瞬頭を過ぎるが。
「(大振り…いや今は背中に周っても何もできないだろ!! バカか俺は!!)」
ドタバタと不恰好に避けて離れるだけで一旦距離を取る。
雑念の混じった回避はギリギリだった、紙一重で風圧と轟音を肌で感じる。
まとまらない頭に苛立ちが募る、このままではうっかり致命傷を受けかねない。
「…いい加減に…しろっての、このバカがああ!!」
焦りの極地か、或いは冷静な判断か、いい加減に喝を入れる為に自分の頭を殴り飛ばした。
ふと、アールの中で何かが燻った、押し込めていた厄介モノが首をもたげる。
夢に出てきた「黒アール」がここぞとばかりに顔を出しアールに纏わりつく。
「いつまでウジウジしてんだよ? いい加減俺を認めてゴーレムに集中しようぜ? 勝てるもんも勝てねえぞ?」
「なんだよお前は!? 邪魔すんな! お前なんか相手にしてる場合じゃない!」
ぶんぶんと剣を振り回すが、黒アールはまるで手応えがない、煙か幻のようだ。
黒アールは溜息を吐いて更にまとわりつく、それが必要であるかの様に。
「迷いがあるから動きにキレが出ないし、雑念があるから周りも見えずにジリ貧なんだよ、いい加減にお前の「目標」を認めてやれよ」
「はあ!? 目標!? そんなもん知るか!俺は目の前の事に精一杯だ! その結果が勝手に目標に繋がるだけだろうが! 勝手にしとけよ!!」
黒アールは唖然とするが、眼を背けられ否定されていたよりは進歩を感じた。
とりあえずはこんな所で妥協しておくかと頭を掻く。
「なら、お前の頑張りの先に俺がいても良いんだな? 恥ずかしいとか後ろめたさとかもう無いんだな?」
「そもそも目標なんて今まで考えて立てた事なんて無いんだよ! 勝手にしろって言ったろうが! …でもお前はオマケだ! オマケとして認めてやるよ!! お前が本命なわけあるもんか!!」
「そーかい、なら勝手にさせてもらうさ…もうウジウジしてんなよ、俺らしくもないっての」
煙の様に出てきた黒アールは、煙の様に消えていった。
アールは何か頭の一部がボーっとしていた様な感覚だったが、少し強く殴りすぎたかと頭を振る。
気のせいか、さっきより頭も体もすっきりしている。
「ゴオオ! バグォヴァアアア!!」
ゴーレムの大きな横振りが来るが、背中は狙わない。
一旦余裕を持って回避し距離を取り、今更ながらに色々と確認する。
自分の体は、全身がまだ少し痛むが、体力に余裕もあるしまだまだ戦える。
ここまで何度もゴーレムの攻撃をいなしたが剣にも問題はない、良い剣を貰えたようだ。
ゴーレムは、右手に持った剣を左へ大振りし体制を崩している、自分をしっかりと睨んだままに。
ここまで有効打もなくダメージも体力の減少なども見て取れない。
周りの状況は、グレイはもうリュックを漁ってはいない、たまにこちらに激を飛ばしてくれる。
落ち着いて見れば段差や足場に出来るものはそこら辺に点在していた。
焦った頭とは、まるで立っている地点が違うようだった。
アールは手頃な段差に駆け寄ってゴーレムが近付くのを待つ、自力で届かない以上は何か踏み台が必要だ。
「ゴォゥ…ゥ、ガァヴァゴァ!」
ゴーレムが振り被りつつ向かってくる、まずは避けていなしてゴーレムの背中を段差に合わせる。
派手で無軌道な攻撃だが、一つ一つは乱雑で、落ち着いていれば今のアールなら充分捌ける。
段差と背中を合わせたら、あとは大振りを…できれば両手の縦切りをして欲しいと念じながら凌ぐ。
「ゴォッ…ガァ、グ…バヴァアグアァア!!」
大上段に構えてからの両手斬り、出来る限り最小の動きで避ける。
岩の剣の風圧と地面に叩きつけられた際の破片を受ける、構っている暇はない。
首筋を冷や汗が伝うのを感じつつ、ゴーレムの股下をすり抜ける。
背後に周り、段差を使って体を捻りつつ全力で飛ぶ。
狙うはゴーレムの核の一点、最早そこだけに意識を引き絞る。
狙いを重視して振りは小さく、しかし千切れる程に腕は全力で伸ばす。
「いっ…っけええ!!!」
振るわれた銀の剣は、狙い通りの箇所を捉えた…明らかに岩とは違う感触。
「ォオォ……ヴォォ…ゴ」
ゴーレムは僅かに唸ってから、その体を瓦解させた。
核を捉えてみれば何とも呆気なく、ゴーレムは土と岩に還った。
「!! ……アール!? 大丈夫!? アール!」
「大丈夫だっての…気がゆるんだら、体中痛え…やっぱきついわ」
ゴーレムだった土や岩に若干埋もれつつ、アールは仰向けになっていた。
飛んで核を攻撃するのに全力だったのだ、またしても着地の事は頭になかった。
「しっかし…のんびりはできないな、グレイ先を急…ぉお」
元ゴーレムの岩土の山の頂上には、青く大きな鉱石が転がっていた。
モールベアの背中の鉱石の3倍以上の大きさである。
「そうか…俺、勝ったんだな、よし、うん…見たかこんちくしょおおおおお!!」
地下で天に向かって勝利の雄叫びを上げる、アールにとって本当に激戦だった。
一頻り叫んだ後で、蛙がこないか少しびびってきょろきょろとするのはご愛嬌。
「そういえば…グレイ、鉱石で修復が早く進むんだよね? これ使ったら鎧使えるかな?」
「ん゛ー…ちょっと無理ね、修理に使うために取り込んでも今すぐはちょっと…」
「ならしょうがねーか…了解、徒歩で頑張ろう」
荷物を再び背負い、ゴーレムの核を両手で抱え持つ、捨てていくという考えは全くなかった。
「これでエミールにも認めてもらえるね♪ ぁ、あとは目標だっけ?」
「ぁーそれね…まあそっちはどうにか、もうなるようになれって感じだよ」
「?? …よく解んないけど、まあ解決したなら良い事よね♪」
戦利品を両手に抱え、ゴーレムが立ちはだかっていた通路を行く。
一本道を暫く行くと救助隊に保護された、先に脱出できたエミールとサチェットが手配してくれたとのことだ。
搬出口ではエミールとサチェットが待っていた、生還を喜ばれつつゴーレムを倒した事を驚かれる。
こうしてアールの最初の試練は幕を閉じた。
輝かしい戦果と、開き直った目標と共に。
激戦を制し生還したアール、そして戦果は目に見える物だけではなかった。
追い込まれた果てに何とも乱暴ではあったが、アールは自身の目標と向き合い、遂にそれを肯定した。
この二つの戦果が彼に何をもたらすのか?
アールの予想通りのものだけだろうか?
はたまた、彼には予想外のものまでもたらすのか?
是非次回も御覧下さいますよう、御願い申し上げます。




