第15話 歓迎
改めてグレイとサチェットと正面から向き合ったアール。
ターレムの大掃除はほぼ完了し新生活への準備は着実に一歩を刻む。
掃除を終えたアールは夕食の買出しに行っていたエミールを出迎えるのだが・・・。
上層 元食堂「ターレム」 掃除後
「自己紹介? なるほど、それは必要だな…だが、まずはお前ら風呂に行って体を洗ってこい」
大荷物を持って帰ってきたエミールに外へ蹴り出されるアールとグレイとサチェット。
当然ながら元食堂のターレムに風呂は無い、今の所は風呂屋を利用している。
風呂に行っている間に、エミールが掃除のチェックと晩飯の仕度をするという。
グレイもたまに水浴びをせがむので風呂に持ち込む、黙っていれば只の置物として何とか誤魔化せる。
「お2人はごゆっくりとどうぞ、私は用事があるので先に戻りますね」
体を洗いゆっくり湯船に浸かっていたアールとグレイ、サチェットはすぐに出て行ってしまった。
「何の用だろう…?」
「さあねー? アールはゆっくりしてると良いよ、掃除で疲れたでしょ?」
サチェットの用は解らないが、アールとグレイは湯船でしっかりと寛ぐ。
…グレイが喋ったのは湯船で何とか誤魔化せた、面倒は避けたい。
ターレムの前まで戻るとサチェットが軒先に見えた、アールを見るや手を振って出迎える。
「おかえりなさいアール、申し訳ないのですがこちらをして頂けますか?」
「これは…目隠し? 一体どういう?」
帰ってくるや否や目隠しを渡される、不審にしか思えずアールは狼狽えた。
目隠し…地下で拘束された事を否応無く思い起こしてしまう。
躊躇っているアールに腕の中のグレイが囁く。
「アール、詳しくは言えないけど大丈夫だから安心して」
グレイは何かを知っている?
サチェットも薄く笑みを浮かべているのみで不審な様子は無い。
無言で頷き手荷物とグレイをサチェットに預け、アールは目隠しをつける。
「ではアール私が先導します、段差に気をつけて下さい」
サチェットに手を引かれていく、どこに連れて行かれるのかと不安だったが、ターレムに入っていっているようだ。
「…そこまでする必要があるのか?」
「師匠、こういうものはとことんやってこそですよ! アールはもう1歩前に…はい、そこでOKです」
何も見えないがサチェットの指示通りに移動する、一体何の立ち位置なのか?
「皆持ちましたか? …OKですね、ではアールどうぞ目隠しを取って下さい」
言われて目隠しを取る…やはりターレムのホールだ、掃除をしたばかりで綺麗になった。
しかし目の前の大きな机にはちょっと豪勢な料理が並び、アールの目の前にはwellcome Earle & greyと飾られたローストチキンが置かれている。
「これ、俺の…歓迎会?」
面食らったアールは目を白黒させている、サチェットは満面の笑みでコールをする。
「歓迎しますよアール、グレイ…ようこそターレムへ!」
サチェットの合図で3人がクラッカーを鳴らす、グレイも2本のチューブで上手いこと持っている。
「本当はケーキが良かったのですが、師匠に肉を食わせろと押しきられまして」
「そもそもここまでやらずともよかろうに、まあ歓迎会自体はワシが漏らしたのだが…」
「ようこそアール! と私! 私も歓迎される側だけど流れでこっちになっちゃった」
三者三様の歓迎の祝福を受ける、アールは目頭が熱くなり顔を覆っていた。
「まあ、ここまで良いリアクションをするのなら買出しをしてきた甲斐もあったというものよな…いつまでも感動しておらず、しっかり食って飲むが良い」
エミールに背中を叩かれる、人付き合いを殆どしてこなかったアールは当然こういうものも初めてであった。
嗚咽混じりの声で返事をして歓迎の食事に手をつけ出す。
大いに飲み食らい語らい、一頻り落ち着いてから、エミールが話しを切り出す。
アールとサチェットは食いがメインだが、エミールは酒がメインだったせいか少し顔が赤い。
「そういえば、自己紹介だったか? ワシにせがんできたという事は、もう他は済ませたのか?」
「はい、掃除の時に…エミールさんともちゃんとやっておくべきかなと」
エミールはふーむと何か思案している、話し辛い事でもあるのだろうか?
「こういう事は実際に組んでからと考えておったが、まあよかろう…ワシの名はエミール、トゥーサトルの出身だ、レティーはワシの姉さんでワシとサチェットの担当も姉さんだ、組むのなら好都合だのお」
担当が一緒、担当が違えば担当間での意思疎通も必要になるが、一緒ならばその必要はない。
尤も、レティーの仕事量は増えることになるが。
「ワシがディガーになったのは、地下に関しての研究を進める為だ、ワシ独自のな…そういえばアールよ、今のお前と組む気がないのは、それが不明瞭なのが理由の一つだ」
それ? アールは豆鉄砲を食らった様に固まる、それとはつまり何の事なのか?
エミールは手酌をしつつ話を進める。
「つまり、お前がディガーになりたいというのは解っておるのだが、それでお前はどうしたいのかが解らんのだよ、ただディガーになりたいだけという奴もおるが、お前はどうなのだ?」
アールはつまらなそうな農夫が嫌でサークルに飛び込んできただけであり、サークルで花のありそうな仕事がデイガーだから何となく目指していたモグラである。
その先の事は特に考えが無く、エミールの質問には窮するしかなかった。
察してくれたのかエミールの方から話し出してくれる、先程手酌したグラスは既に空でありサチェットが酌をしている。
「まあ今すぐ目標を決める必要はない、だが明確な目標があった方が人は強くなれる、ゴーレムに挑む前までには固めておくとよいぞ」
明確な目標、以前までは採掘道具や鎧を買う事が目標であった。
だが幸運にもそれらは達成されてしまった、幸運を嘆く訳ではないが、アールは本来経るべき過程を飛ばしてしまっている。
それらが「ぽっかりと目標を失いつつあるアール」を作っている。
「サチェットは何か目標があるの? 俺にはまだちゃんとしたのがないから、良ければ参考に聞かせてほしい」
サチェットは難しい顔をしつつ酒瓶を置く、そういえば自己紹介の時にもディガーになった理由は明言されていなかった気がする。
「アール、申し訳ありませんが私の目的は言えません…誰かを害する様な事ではありません、言えないのは貴方に非はない事は解っておいてほしい」
サチェットは神妙な面持ちで答える、何か個人的な事か後ろめたい事なのだろうか、サチェットに限って?
すぐに顔をパっと改めアールにも酒を薦めてくる。
「さあさあ辛気臭い顔は止めましょう! 暗い顔では暗い考えしか出てこないものです! グレイも飲みますか? このミードでしたら初めてでもお薦めで…」
サチェットに促され一先ずは頭を切り替える。
ディガーになるのは何の為か?
ディガーになることしか頭になかったアールには難しい質問であった。
「目標がある方が強いと言ったがそれは心から想う目標だけだ、いい加減なものは逆にお前を危うくしよう…焦らず見つける事だ、お前の自己紹介はそれが決まった時にするといい」
エミールはアールを諭しつつグラスを空にする。
アールは思い詰める程ではないが『自身の目標とは何か?』を考えていた。
宴もたけなわに夜は更けていく。
アールのディガーとしての始まりは、恐らくはこの夜の、この歓迎会からだったのだろう。
ここまで御覧頂き、まことにありがとうございます。
※こちらからは《メタ話、顔文字、ゆるい話等》となっております
※また、後書きは推敲を行っておりません、悪しからず
という訳でアールとグレイの歓迎会&アールにちゃんと目標持て! という回でした
エミールさんは別にアールの事を嫌っているわけではありません
ただ「組む理由がない、組む価値がない、でもグレイには興味ある」というだけなのです、なので友人や隣人としては普通に歓迎するわけです、地下研究にしか興味がない怖いお姉さんではないのです
アールに組む価値=強さが備われば、組まない理由もないのでアールが仲間欲しい! となってる以上は組んでも良いとなるわけですな
そして追加注文で目標(目的)を持て、ぷらぷらしてんじゃねえよという事です
実際アールはプラプラしているわけではないですがディガーにはなったけどこれからどうするか? は漠然です、エミールさんとしてはそこんとこハッキリしろという事ですな
アールはどう考えてどんな結論を出すのか? 今後のキーポイントの一つかと
次回も是非御覧下さいますよう、御願い申し上げます




