表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/44

第11話 エピローグ

ボルターを警察署に送り届けたアール、その胸中は複雑なものであった。

組合にてグレイと再開を果たすも、途端に頭を悩ませる事態に陥る。

苦く貴重な経験と新たな出会いを残して、ボルターとの一件は幕を迎える。

 警察署を後にし、アールは組合へ向かう。

 その顔は晴れやかなものではなかった。

 まだ頭を切り替えられないままに、組合の建物へ入る。

 いきなり、唖然とする光景が飛び込んできた。

 グレイが2人の女性に、綱引きのように引っ張り合いにされている。


「絶対にダーメ! アール君が来るまで、グレイは渡せません!」

「姉さんは頭が固すぎる! 私がアールを保護してんだから、問題ないでしょ!」


 レティーとサチェットの師匠が、カウンター越しにグレイを引っ張り合っている。

 ボルターの事を引きずっていたアールは、頭が対応できずにショートした。


「お2人共いい加減に……ほら! アール君がきましたよ!」

「あ、アールだ! 良かった……無事だった! おーい」


 サチェットが2人を宥め、グレイはアールとの再開を喜ぶ、引っ張られながら。

 言われて反応した師匠がパっと手を離し、レティーは後ろによろめいた。


「遅かったねアール。コルトはもう逮捕されたが、お前がここに来たという事は……ボルターも見つかったのかい?」


 何事も無かったかのように、師匠がアールに向き合う。

 レティーは後ろから非難を飛ばしている。


「ボルターさんは、さっき警察で自首してきました。……ぇーっとレティーさんの、妹さんだったんですか?」


 師匠は少し首を傾げた後に、平然と告げる。


「名乗ってなかったか? ワシはエミールだ、レティーはワシの姉さんだよ」


 サチェットの師、レティーの妹。

 黒髪と青目を持つスラリとした褐色の美女。

 エミールは名乗るや否や、グレイを指差しつつアールに詰め寄る。


「ボルターの件が解決したなら、約束通りグレイと話をさせろ! ワシはグレイの為に協力していたのだからな!」

「ぇ? 約束? ……え? ……え?」


 アールは困惑しサチェットにSOSを飛ばす、言葉は出せずにアイコンタクトで。

 サチェットは直ぐに察して、アールに助け舟を出すべく、エミールに耳打ちする。


「師匠、アール君とは約束を取り付けていません。しかし誠実に頼めば、彼は断らないかと」


 エミールはサチェットを睨みつつ自身の記憶を辿った、直ぐにおや? っと表情が変わる。

 アールとサチェットは、少しびくびくしつつ反応を待つ。


「確かに、朝方はバタバタしてろくに話せておらなんだ。……ならば仕方ない」


 エミールは特に悪びれず、改めてアールに向き直った。

 自信と強い意志を感じる瞳で、アールに話しかける。


「アールよ、ワシはグレイから地下の事を聞く為にお前に協力した。見返りといってはなんだが、グレイとしっかり話をさせてはくれんか?」

「それは、俺にも仕事がありますから。グレイも連れて行きますので、その合間でしたら……」


 しどろもどろに答えつつ、グレイを持ったままのレティーに近付いていく。

 レティーは申し訳なさそうにアールに話す。


「アール君……今回の件は私にも責任があります。ボルターを簡単に信用してしまって、君を危険な目に……」

「いえ、俺が最初にボルターさんを信用してしまったんです。それで紹介されたんじゃ、仕方ないですよ」


 ボルターと初めて組合にやってきた時、流れでアールがボルターをレティーに紹介した。

 信用できると、良い人だと。

 そして実際に、ボルターは悪人ではなかった。

 悪人だから、犯罪に手を染めるのではない。

 犯罪に手を染めた人間が、悪人とされるのだ。

 レティーはアールにグレイを渡しながら続ける、顔は依然暗いままに。


「それでも事実として、私の担当下で君を危険な目に遭わせました。君が望むなら担当を変える事もできます。……どうしますか?」

「……今回の一件、誰が担当でも防げなかったと思います。寧ろこうやって、誠実に向き合ってくれるレティーさんを、俺は信用したいです」


 レティーの顔が少し明るくなる。

 まだ負い目を感じているようだが、一先ずはアールと笑みを交わす。


「ところでアール? 私を地下に連れて行く合間に、エミールさんと話すとかの事だけど」


 腕の中からグレイが話し掛けてくる、一先ずはカウンターの上に置く。


「別に問題ないだろ? 命の恩人だし、ちゃんと報いないと」

「それは、問題無いんだけどさあ……?」


 グレイはチューブを伸ばし、ツンツンとレティーの肩をつつく。

 レティーは咳払いをして、いつもの毅然とした調子に戻り、アールに話しかける。


「今回の件で、ボルターのディガー登録は抹消され、ギルド『クレメント』も同じく組合から抹消されました。……君もそこから脱退となっています、なので」


 言われてアールは石の様に固まる、つまりは振り出しに戻ったのだ。

 ボルターに出会う前の、無所属ぼっちアールに。

 更にグレイが悪気も無く追い討ちを掛ける、本当に悪気は無い。


「ぇーっと、アール? 仮に仕事ができても。……私暫く、鎧はちょっと無理よ?」


 表情筋が固まったアールは目だけで、それは一体どうして? と、グレイに納得のできる説明を求める。


「ゴーレムから滅多打ちにされて、私自分で修復はできるけど。……ザっと2ヶ月くらい掛かるわね」


 瞬間、アールは膝からその場に崩れ落ちた。

 レティーから見れば、アールはカウンターの下に消えてしまった。

 精根尽きたアールは、最後の足掻きをする。

 まだ辛うじて瀕死の脳みそで家賃、部屋の修繕費、諸々の生活費と、ちょっと足りそうにない貯金との計算を始めていた。

 埒が開かないとばかりに、見守っていたエミールがレティーに話し掛けてくる。


「このまま放置もできんし、姉さんも更に忙しくなるだろう? とりあえずこいつは私達が預かる、グレイを奪う様なことはせんよ」

「御願いねエミール。立て続けで疲れてるだろうから、ゆっくり休ませてあげて」


 サチェットが伸びているアールを、エミールはグレイを運び、今朝方アールが目を覚ました彼らの住処へと戻っていった。



 こうしてボルターとの一件は、一先ずの幕となった。

 アールは先達からの心からの助言と、決して多くとは言えないが、貴重でなんとも苦味のある経験を得た。

 まだ整理しきれない感情と、胸に小さく空いた、心の喪失感を引き換えにして。


 これらを糧にして、アールのディガーとしての真の幕が開くのは。

 もう少し後の事である。

ここまで御覧頂き、まことにありがとうございます。


※こちらからは《メタ話、顔文字、ゆるい話等》となっております

※また、後書きは推敲を行っておりません、悪しからず










というわけで、ボルターさんとの事件は一旦お終いとなりました

アール君にとっては何とも言いがたい経験となりました、今後の彼の形成にも大いに関わって来るでしょう

ボルターさんの話していた内容はモロに孫氏ですね、自分と相手を知れってのはほんと何にでも精通することかと

勿論作者も「それができれば苦労しねーよ!」ですが、客観的視点ってのは難しく重要でちゃんと出来てるのか?も解りにくいものです

三国志やif歴史ものもいつか書いてみたいなー・・・書きたいと思うものは増えても脳みそと時間と手は増えない、悩ましいことです


一先ずはボルター編は幕を閉じました。

今回の件によりアール君はどうなるのか?ぼっち脱却はちゃんとできるのか?グレイは2ヶ月ぽんこつですがお金どうするの?

次回からは新たな幕開けです、どうか御一読頂きます様、御願い申し上げます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ