98 可能性の種③(花邑親子)
2019/05/11 更新1回目
「どうしたのこうちゃん、夜這いの相談?」
「どうしてこの家の住人はおかしな思考回路してるんですかね」
いや、とある二人が異端なだけなんだろうけど。
「冗談よぉ、それでどうしたの」
ななみは後で話をつけに行くといっていたが、こういうのはどう考えても自分で言った方がいい。
渡さないとなれば、特にそうだろう。
俺は毬乃さんの前に三つの可能性の種を出すと、毬乃さんはすぐに「あら」と声を出した。
「へえ、すごいものを持っているのね」
「ええ、持っているんですよ」
毬乃さんはそれを見て笑みを崩さなかった。それが何かを理解した上で、微動だにしなかった。
「これが何かを理解して、驚かないんですね」
「いくつかあった予想の中では、一番大きいものよ。こう見えてもとっても驚いてるんですからね。冗談言う気はなくなってしまったもの」
「……驚いているように見えないんですが」
「驚いてるわよぉ? まあいろんな意味で驚いているんだけど……」
「いろんな意味……?」
「いろんな意味よ。本当は今すぐにでも詳しく話してみたいんだけどね、私の一存で決められる問題ではないから」
答える気はない、と。
「それで? 話があるのでしょう?」
小さく頷く。
「これを誰に渡すかで迷っていて」
「ふうん、確認だけど自分はもう使ったのね?」
「使いました。俺と、ななみが」
「へぇ……」
そこでようやく毬乃さんに驚きが見えた。
「ななみちゃんね。それで残りはどうするの」
ここにななみが居たら怒りそうな呼び方だ。
「それが話したい内容ですね。皆に渡そうかと思ってます」
「ふぅん、三つね」
「ええ、三つなんですよ。三つしかないんですよ」
すっと毬乃さんの目が細くなる。
「あなたの考えを聞かせて頂戴。実は渡す相手はほぼ決めてるんでしょ?」
「まあ、ある程度考えてはいたけれど……よくわかりましたね。もう考えていたって」
「だってこうちゃんって、そういうのしっかり考えて、それから相談するじゃない」
まあ、相談する前にある程度の結論は出すのが普通だと思うが。まあ、それはいいや。
「それで種をあげる人なんですけど」
「うんうん」
「先輩とリュディは確定として、あとは姉さんかクラリスさんに。それで渡せなかった一人と、毬乃さんには後ほど入手したら渡そうかと」
そこまで話すと毬乃さんは頬に手を当て、あきれたようなジト目でこちらを見た。
「まって……まだ入手するつもりなの?」
「ええ、入手するでしょうね」
いくつか入手経路はある。一番狙いやすいのはスサノオ武術学園イベントのダンジョンだろうか? アマテラス学園イベントでも入手はできるが、それはかなり先だ。
もちろんすぐにでも行ける場所もある。ただ、先輩たちを誘ったとしても、学園ダンジョンソロ四十層より苦戦することは間違いない。またそれ以外にも入手できる場所はある。
毬乃さんは目を閉じると、目頭を押さえふぅと息をついた。少しして顔を上げるとにっこり笑う。
「ありがとう、こうちゃん♪ でもね、私には不要よ。なんせ、今の私は使っても意味がないから」
その言葉が頭の中で反芻する。使っても意味がない? それは……。
深く考えようとするもそれは近づいてきた毬乃さんにハグされたことで、すぐに霧散した。
毬乃さんはすぐに体を離すとにっこり微笑む。
柔らかかった。
「私にくれようとしてくれたことは、本当にうれしいわ。それね、値段が想像もつかないほど高価なものなの」
「……そうなんですか」
「ええ、だからこそ受け取ってもらえず苦労すると思うわ、いっそのこと黙って飲ませるのもありかもしれないわねぇ」
「黙って飲ませるですか? いや難しいでしょう?」
「その種ってそこまで大きくないでしょ? 何かに混ぜれば行けるんじゃないかしら」
まあ、いけそうではあるが。
「もしカモフラージュが必要なら、私が何とかするわよ?」
「それはとりあえず保留で……あとは姉さんとクラリスさんのどちらかに渡したいんだけど……」
「ああ、そうだったわね。クラリスにあげればいいわ。はつみは……多分要らないとか、後でいいと言うでしょうね」
「……姉さんが?」
「私もはつみに渡すのは、あとでいいと思うわ」
「なぜ?」
「はつみがあまり強さを求めていなさそうだからよ。まあ最近ちょっと考え方が変わってきてるようだけど」
確かに、強さを求めているようには、あまり見えない。
「それに、こうちゃんはまだ知らないかもしれないけれど、はつみはとても強いわ。クラリスや雪音ちゃん、こうちゃん、リュディちゃん達皆が束になったところで、本気を出したはつみにはまだ勝てないでしょうね」
聞き間違いかと思った。
姉さんに勝てない? たしかに現状の先輩はマジエロ三強と呼ばれるほどの力を得ていない。仲間になった時点でクソ強いモニカ会長や、仲間になった時点から色々おかしい初代聖女とは違い、そこそこの強さだ。
しかし現時点でもそれなりの強さがあるはずだと、俺は思う。そんな先輩が、クラリスさんと一緒に姉さんに挑んで負ける?
確かに姉さんと何度か手合わせしてもらって、魔法の雨にさらされて負けたことはある。しかしそれだけではクラリスさん、先輩、俺、リュディに勝てるか?
「はつみは強いわよ? 冗談じゃなくて、本当に。私に比べたらまだまだだけど」
姉さんはヒロインではない。だからこそゲーム内ステータスは分らない。
いや、しかしだ。姉さんはゲーム中、伊織にあの魔法を伝授するという重要な役割を担っていた。あのチートとしか思えない魔法を。
それを伝授するというのに、姉さんがその魔法を使えないのだろうか?
そもそも姉さんは……。
「だから渡すならクラリスがいいと思うわ。受け取るかはわからないけれど。もしはつみが気になるなら先に聞いてみなさい」
「はい……」
考えることが多すぎる。毬乃さんのこと、姉さんのこと、そしてその二人に共通する花邑家のこと、そしてもしかしたら俺に関係があること。
「ああ、そうそう。夜這いなんだけど」
「はい……は?」
「はつみは最近は自室じゃなくて別の部屋で寝てることが多いらしいから、気をつけてね」
思わずため息をつく。
部屋に行ってもいないことが多いのよねぇ、とニヤニヤしながら言っていたが、知っていてわざと言ったのだろう。そうとしか思えない。
姉さんはたいてい俺の部屋にいるよ……。
それから少し話をして、毬乃さんの部屋から退出する。そして考えをまとめるため、いったん部屋に戻ろうと階段を上り、自分の部屋へ行く途中だった。ガチャリとななみの部屋の扉が開き、そこから姉さんが出てきたのは。
…………ななみの部屋?
「あ、姉さん」
「ん」
姉さんは無表情だが、いつもよりどことなく眠そうで、部屋に戻ったらすぐにでも寝てしまいそうだった。ならば、先に姉さんに話してしまった方がいいだろう。
「姉さん、寝る前にちょっと話して大丈夫?」
「構わない」
「じゃぁ……ここじゃなんだし部屋に行こうか」
うん、と姉さんはすたすたと歩き、迷いなく俺の部屋の扉を開ける。そして椅子を陣取っていたシャチ人形マリアンヌをベッドに置くと、姉さんは飲み物を淹れようとケトルに手を伸ばした。
俺は姉さんに俺が入れるよと制止しながら、ふと思う。
あれ、ここ俺の部屋だよな。
リュディやななみもそうだが、部屋でくつろぐ彼女たちは、俺の部屋が自分の部屋になってないだろうか。まあ、良いんだが……。
「話って何?」
姉さんにそういわれて、我に返る。
「そうだった」
カモミールティーを淹れて姉さんに出すと、俺は可能性の種を取り出す。
「きれいね、初めて見た」
「うん……可能性の種っていうんだ」
姉さんの表情が一瞬揺らぐ。
「すごい、良く見つけた。どこで?」
「うん、学園ダンジョンで……それで姉さんに謝らなければならないことがあって」
「謝る? なに?」
姉さんとの会話は伝えたいことは種を後で渡すから、今は待っていてほしい。それだけだったはずだった。しかしその会話は多岐にわたった。
俺が伝えてたのは感謝だったはずだ。
姉さんは直接ではないけれど、いつも間接的に手伝ってくれたり、いろいろ面倒を見てくれたりもした。
その話をしている間に、不思議と話が弾んでしまい、いろんな話をした。姉さんの好きな映画、本。逆に俺の好きな映画、本なんか。
えらく長い道のりを経て「俺は姉さんにも種を渡したい。次に見つけたら必ず渡すから、待っていてほしい」そう伝えると、姉さんはほんの少し目じりを下げた。
カモミールティーを飲み干すと、立ち上がるとゆっくり近づいて俺の隣に座る。
そして俺の首と頭を引っ張った。
「ありがと、でもお姉ちゃんは後でいい。さほど欲しいものじゃないから、別になくてもいい」
「え、でも」
「幸助がいるから、なくてもいい」
そして抱きしめられながら頭をなでられていたが、やがて「寝る」と言って薄着になると、マリアンヌを抱えてベッドに入った。
胸と衝撃が大きくて呆然と見送ってしまったが、ツッコミを入れさせて欲しい。
姉さん。そのベッドもマリアンヌも俺のだ。
姉さんイベント考えてはいるんですけど、
メインシナリオをある程度進めたいのでその後にやる。
借金先生とも絡ませたギャグもやりたい。





