表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/172

95 プロローグ



 かつて、これほど充実していることがあっただろうか?

 

 ソロダンジョン攻略の反動か、得た経験か、それとも思いか。見える世界の日常が、より彩られて見えた。

 なぜ彩られているか、その理由はもう分かりきっていた。リュディが、先輩が、ななみが、姉さんが、皆がいるからだ。

 

 俺は世界を彩ってくれる彼女たちに渡さなければならな……渡さな……わた。

 ちょっとまて。


「学園前の広場よりも、校門すぐのところに設置するほうがより注目度が高いかと」

「確かに……!」

「ちょっとまて」


「どうされましたご主人様?」

「こうすけ?」

 真剣な表情の、ななみ、姉さん、そしてあきれた様子で見るリュディ。

 この状態にそこはかとない不安を感じたんだ。

 結構真面目な話があったんだが、その話を切り出す前にしっかり確認しておこう。


「いったい何をしているんだ?」

 見積書の文字とゼロがたくさん書かれた紙を前に、ななみと姉さんが話し合っている。姉さんはいつも通りの顔にしか見えないかもしれないが、俺にはわかる。今は真剣な時の顔だ。


「いえ、前人未踏の記録を打ち立てた記念に、銅像を建てようかと思っておりまして」

 ほっ、なぁんだ銅像か。もっとぶっ飛んだ想像していたから少し安心した。

「ばっか、お前何言ってんだ、銅像とか恥ずかしいだろ。金の無駄だし、要らない要らない♪」

 もちろん要らないけれど、銅像設置を検討するほどの実績を残せたって考えると、非常に嬉しい。頑張った甲斐があったってものだ。


「喜んで頂けて非常に嬉しいです。像の名前は、ななみグランドスラムが良いでしょうか」

「お前の銅像かよ、俺じゃねえのかよ!」

 記録打ち立てたのは俺だルルォ!? 何でななみの銅像を建てるんだよ。確かに見栄えは俺よりも良いだろうけど、そこは俺だろっ?

「ななみのは冗談、ちゃんとこうすけの銅像」


 よかった、安心したぜ。さすがにそこは俺の銅像だよな。

「そっかぁ俺の銅像か、嬉しい。でも、普通に要らないかな」

「ただ、学園への設置許可は下りているのですが、なにぶん費用が……」

 俺の話を聞こうか。というか。

「それが本当だったら、毬乃さんに文句言わなければならない案件だな」


 あの人って学園長と理事長兼任してる独裁者だからな。許可を取るならあの人だ。てかなぜ設置の許可出てるんだ。

 

「『学園長である私の像を、こうちゃんの隣に立てるなら、すぐに費用をだしても良いんだけど…』なんてほざいておりましたが、隣に立てるのは忠誠メイドである私であるべきでしょうに。もちろん拒否しておきました」


 それならすぐに費用降りるんだ。あとで毬乃さんに文句を言う。絶対。

 

「とりあえずダメだ。銅像なんぞいらないだろ」

 ななみは小さくため息をつくとヤレヤレと首を振る。

「……せっかく計画したというのに……残念です。今のでご主人様への尊敬ポイントが5減りました」

「へー尊敬ポイントね、そんなポイントあったのかよ……。ちなみに今何ポイント?」

「5億6千万ポイントですね」

「5ポイントとか誤差の範囲じゃねーか!?」


 お前5億6千万円持ってて5円玉無くなってて気が付くか? 絶対無くなったの気が付かないわ。


「心震える素晴らしいツッコミです、3000ポイント入りました」

「なにこの増加量、増える一方だぁ……」

「ちなみに100ポイントが上限値ですね」

「超限界突破してんじゃねえか!? 尊敬どころか崇拝や狂信レベルだよ!」

「照れますねぇ」

「褒めてねえし……」

 むしろ褒められるのはポイントを溜めた俺であるべきだし。

 

「こうすけ、安心して」

 小さくため息をつく。

 姉さんかぁ……姉さんの安心は、安心できた例しが無いような気がするんだが。


「……何を安心するんだい姉さん」


「お姉ちゃんポイントも8億ポイント突破してるから」

 やっべぇ二人そろうとツッコミ追いつかねぇ……お姉ちゃんポイントって何? しかも『ちゃん』ってなんだよ、『ちゃん』って。前も『ちゃん』言ってたし、『ちゃん』で呼んで欲しいのか。恥ずかしいんだけど一度呼んでみるか。

 

「そっか……ありがとう、お姉ちゃん」

「!! 今お姉ちゃんポイント10億入った」

「今のでご主人様への尊敬ポイントが5万減りましたっ」


「なんでっ!?」

「下がったのは冗談です……はぁ」

 冗談っぽく聞こえないんだが。まあいいや。

 それにしても……なんて言えば良いんだろう。日常がこちらに向って全力疾走してきたとでも言えば良いのか。このアホな生活が懐かしい。1週間ダンジョンだったからな。

 

「リュディも何か言ってやってくれ」

 ひっそり話を聞いていたリュディに振ってみる。

 

「銅像は自己顕示欲が高くてどうかと思うわね」

 おう、その通りだ。リュディはすばらしいな。頼む、もっと言ってやってくれ。

「デフォルメした人形とかだったら……」

「そうそう、デフォルメした人形だったら…………っていらないわ!」

 どう考えても要らないだろ! ななみの影響受けたのかな? どうしてボケてしまった、それよりもツッコミに回ってくれ。


「そ、そうよね。じょ、冗談よ!」

「まあいいや、そういえば先輩は?」

「風紀会の何かがあるらしくて、毬乃さんと帰ってくるらしいわよ。何でも一年生が無謀な事をしでかす前に、色々対策しておかなければならないんですって」

 

 へぇ、無謀なことをしでかすヤツね。そんなヤツいるのか……なんだか身に覚えがありまくるような。

「多分幸助の所為よ」

「だよな。後で謝っておく」

「雪音さんは気にしてないでしょうけどね。楽しそうにしてたし」

 

 と俺らが相談していると、またもや真剣な表情で話し合っているななみ達。

「……それで、ななみ達は何の相談をしているんだい」

「正直、目から鱗でした。デフォルメ人形を作るべきでしょう」

「欲しい、売れる」

「いや、売れないだろ」


 俺のデフォルメ人形をほしがるヤツなんて……いるのか? いないだろ。むしろ。

「リュディとか、姉さんとか、ななみのヤツを作ったほうが良い気がするが。俺欲しいし」


「わ、私の!?」

「お姉ちゃん……」

「デフォルメ以前にここに本体が有るではありませんか」


 三者三様の反応だぁ。そして何が言いたいのか分らんのが混じってる。

「リュディとかすさまじい勢いで売れると思うぞ。LLLとかに」

 実は写真とかが高値で取引されてるんだよな。

「ああ……」

 なんだかすごく嫌そうな顔だ。そういえばLLLを毛嫌いしてたな。

 

 俺がリュディと話していると、ななみ達がこそこそ話しながら、立ち上がる。そして部屋を出て行った。

 

「そういえば……」

 俺が部屋を出ていく二人を見ていると、リュディからそう切り出された。

「さっきポイントの話してたじゃない?」

「ああ、してたな」

 彼女は下を向きながら、なぜか少しだけ顔を赤くしている。そして髪を右手でいじりながら、急に明後日の方向を向くと、コクリと小さく唾をのんだ。


「その、ね。私に信頼ポイントみたいなのがあれば、幸助は、さ、最大だからっ!」


 そう言ってリュディは勢いよく立ち上がる。


 そして足早に部屋を出……出ようとして扉に肩をぶつけ、痛そうにしながら部屋を出ていった。


いつもの不定期更新です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミック版も応援よろしくお願いします


― 新着の感想 ―
[一言] ツンデレラ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ