94 エピローグ③ - 三会会議 -
先輩視点です。
登場人物
■生徒会
□会長 モニカ・メルツェーデス・フォン・メビウス
□副会長 フランツィスカ・エッダ・フォン・グナイゼナウ(初登場)
※略称フラン
■風紀会
□隊長(会長職)聖女ステファーニア・スカリオーネ
※略称ステフ
□副隊長(副会長職)水守雪音
■式部会
□式部卿(会長職)ベニート・エヴァンジェリスタ
□式部大輔(副会長職)姫宮紫苑
驚天動地とはまさにこのことを言うのだろう。
学園内はこの話題以外無いというぐらいに、彼の噂で持ちきりだった。ファンクラブ持ちの彼女達以外に、これほどまで噂になることは今まであっただろうか?
切っ掛けは一年の順位表。それを見た一部の人々が噂を拡散、そして夕方頃に総合情報端末へ配信された新記録のお知らせで、学校全体が知ることとなった。
私は知っていたとはいえ、ツクヨミトラベラーに数字として表示されると、やっぱり目を疑ってしまった。
----
■一学年順位
第一位 瀧音幸助
学科試験 0点
実技試験 0点
合計点数 0点
攻略階層 40層 (ソロ)
----
樹立記録
10層 約1日
20層 約2日
30層 約4日
40層 約7日
※ツクヨミダンジョン攻略開始日からの、経過日数
----
ツクヨミ新聞のページでも確認したが、記録はおかしすぎた。四十層なんてばかげてる。たった七日で、しかもそれをソロでしているという事が、何よりも私達を戦慄させる。
これを見た二、三年の生徒達の大多数は誤送信だとか、バグと勘違いしたことだろう。だが。
瀧音は、本当に成し遂げたのだ。
これが本当だと知って、とても驚いたのは一年生だけではない。むしろ私達二、三年や教師達の方が驚きは大きかったことだろう。
四十層のつらさは、二、三年生なら痛いほど理解していた。
四十層など一朝一夕で行ける場所じゃ無い。モニカ会長が付いていたとはいえ、私達ですら苦労してたどり着いたのだ。今の瀧音ではボスには勝てるかもしれないが、道中でギブアップするのではないかと思っていた。
数回のノックがあり、一人の女性が会議室に入ってくる。
「どうやら私達が最後の……いえ、先生がいらっしゃってませんね」
モニカ生徒会長は私達の顔を見てそう言った。
室内に居るのは私と風紀会会長の聖女ステフ隊長、そして式部会会長職ベニート卿、式部会副会長職の紫苑。そして入室したモニカ生徒会長にフラン副会長。
三会の会長職及び副会長職がこれで全員そろった。
まあ、本来ならあと一人居るべきなのだが、あの人が遅れてくることはいつものことだ。モニカ会長もそれは承知の上なのだろう。
彼女達が着席したのをみて、私は二人に用意していたコーヒーを出す。
「さて、今回緊急で集まった理由は……言わなくても分かるわよね?」
「彼の一件、だろうねぇ」
ベニート卿はそう言って、はははっと笑う。議題は、ここに来た誰もが理解しているであろう。
「瀧音幸助。ダンジョン解禁と同時にダンジョンへ突入。二学年の目標である四十層をソロで、それもたったの一週間で攻略。化け物としか言い様がありません」
フラン副会長は眼鏡をクイッとあげると、手に持った資料を皆に配る。
書いてある内容は瀧音に関する個人情報だった。しかし。
「なんでしょうね、これ。ほぼ不明ではありませんか。見る価値もありませんね」
「それを言ったら貴方もでしょ、聖女ステファーニア」
モニカ会長にそう言われたステフ隊長は、紙をぽいと投げると、椅子に寄りかかる。そして席の前に置かれていたコーヒーに口をつけた。
普段から猫を被っているステフ隊長も、ここでは素のトゲトゲしさが出てくる。この変わり様を三会以外の生徒達が見たら、間違いなく幻滅するであろう。逆にこの会長達の中で一番空気を読んで気を使ってくれるベニート卿を見れば、学園内で蔓延している悪評が消え失せるに違いない。
「ですが口頭で伝えられるより、紙で見た方がより意識してくださるでしょう?」
フラン副会長はそれ以上言わなかったが、後に多分こう続くだろう。「彼が色々特殊であることが」と。
学園生の情報は、三会メンバーにある程度まで情報が公開される。もちろんプライベートに踏み込みすぎない程度にだが。
しかし一部の人間はそのある程度すら公開されず、本当に最低限しか見る事ができない。それは各国の要人(VIP)であったり、その子供だったりすれば、その可能性が高い。
皇女であるリュディなんかは、瀧音とほぼ同じくらい不明になることだろう。
コホンとモニカ会長が咳払いする。
「情報は公開しました。では、まずは真っ先にしなければならないことから相談しましょう」
「一年への注意喚起だろうねぇ!」
ベニート卿が楽しそうに言う。
「自分も出来るなどと戯言を抜かす、愚か者が氾濫しそうじゃな」
扇子で自身を仰ぎながら、紫苑はそう言った。
アイツもできるなら、俺もできる。そう思うヤツは少なからず居るはずだ。しかしその結果最悪の事態になったら……目も当てられない。
「僕たち式部会が言うのは確実に悪手だね。それらは生徒会に任せるよ」
「ええ、もちろんね。ベニート君が言ったら逆に突入しちゃう子が出そうだし」
会長が笑いながらそう言った。
「だろうねぇ、僕たちは少し活動を自粛しようか」
「そうじゃの」
ははは、ほほほ、と笑う式部会メンバー。
「本当に止めなければいけないのかしら?」
そういったのはステフ隊長だった。笑い声が途絶え、場がしんとする。紫苑やフラン副会長の鋭い視線がステフに突き刺さる。
「いいじゃない、挑ませれば。いい教訓でしょ?」
「それで命を散らしでもしたら、そちはどう責任取るのかえ?」
「紫苑さんと同意見です」
はあ、と思わずため息をつく。このやりとりを見て思うが、式部会に一番向いているのは間違いなくステフ隊長だろう。聖女というメンツもあって、こちらに来てしまったが。
「まあまあみんな落ち着いて、目の前においしいコーヒーが有るよ。ステファーニア様、一理ございますが、もう少しお優しいお言葉でお願いいたします」
「一年生が無茶な攻略をしないように、注意喚起は私達生徒会がするわ。もしもの時は風紀会、式部会にも協力を依頼するから。よろしくね」
荒れそうな場をベニート卿とモニカ会長がすぐに沈静化させる。
そしてモニカ会長はすぐに話を変えた。
「次の問題は、彼の扱いね」
「うーん、三会に推薦は確実だね。来る前にちょっと噂を聞いて思ったんだけど、個人的には式部会が一番いいと思うんだ。こちらに来て貰いたいんだけどなぁ」
「ま、それは本人次第じゃな。我らは特殊な立場じゃしの。まあ式部会を選ばないにしても、妾としては彼に興味があるし、どこかの会には所属して貰いたいものじゃ」
そう言って紫苑は扇子を広げると、口元を隠しながら私を見つめた。紫苑のことだ、どうせ私が付き合いがあることを知っていて、にやけているのだろう。いや、ここに居るメンバー全員が、彼と付き合いがあることぐらいは調べていそうだ。
「式部会は難しいのではなくて? そもそも彼にはそれ相応の権力とか地位はあるのかしら?」
瀧音がらみで仕事が増えそうだからか、少し面倒くさそうに言うステフ隊長。
「風紀会に所属も難しいのでは? 彼は授業にほとんど出席していないと申しますし。来るとしたら生徒会ですか?」
資料を目にしながらフラン副会長はそう言う。
「なら、分かりそうな人に聞いてみましょう」
モニカ会長が私に視線を向けると、つられるように全員の視線が私に集まった。
わざと黙っていたけれど、聞かれてしまったし、答えてもいいことを答えるとしよう。
「瀧音なら生徒会も風紀会も式部会も、どれでもこなせるだろう。あいつは根が真面目な人間だ」
「でも式部会は地位も必要よ? 無いと相当ツライでしょう」
モニカ会長の言うとおりだ。
「それこそ全く問題ない。彼に手を出すことは、複数の国にケンカを売ることだ。その保護者もこの学園にいるしな」
「えぇ、本当かい? 複数の国にケンカって聖女様やリュディヴィーヌ様並の重要人物ではないか。そんな大層な人が……? いや、そうか……でも、まさか?」
ベニート卿は察したらしい。
「今から来るだろうから、直接彼の事を確認するといい」
フラン副会長が目を見開き立ち上がる。
「今から来るってまさか!?」
ちょうどそのときだった。タイミングを見計らったかのように彼女が入室したのは。
「ごめんねー遅くなって」
現れたのは最近家で毎日のようにお会いしている、花邑毬乃学園長だった。
「緊急会議ですってね、予想できるけど、議題は?」
その問いに私が答える。
「瀧音の事です」
カラカラと笑うと、毬乃さんは席に着く。そして
「やぁっぱり、そうだと思ったわ。すごいでしょ、うちの子」
なんてさらりと言った。
その言葉と同時に場の空気が凍り付いた。それを見て毬乃さんは笑う。だから私がしっかり言葉にすることにした。
「瀧音幸助は、花邑家の血を引く人間だ」
皆が絶句し、口を半開きにする者もいる。しかし私と毬乃さん以外に一人だけ、普段と変わらない様子の女性がいた。
彼女、モニカ生徒会長は小さく息をつくと、私に視線を向けた。彼女だけはその場の雰囲気とは真逆で、普段どおり悠然としていた。
「雪音。貴方に問うわ。瀧音幸助はどんな人? 彼をよく知っているであろう、貴方の言葉で聞かせて」
そう問われてふと考える。
瀧音幸助か。
彼はいったいなんなんだろう。努力家で、研究家で、たまに馬鹿でちょっと視線がいかがわしい所があるが、一応誠実で、何より他人を大切にするヤツだ。それで私と同じで抹茶が好きで、意外に料理もできて、一緒にいると楽しくて…………。
ふふっ。何を考えているのだろうか、私は。
どう考えても、モニカ生徒会長はそんな言葉を求めていない。
まったく、不思議なヤツだ。私達とは見ている視点が違うような気がする。一体彼はどんな世界を見ているのだろうか? 私が同じ場所に立っても、同じ世界は見えるだろうか。彼の見る世界を見てみたい。
なんとなくだが、金銀宝石のある煌びやかな世界では無さそうだ。
それは広大で、あたり一面に美しい草花に溢れているような気がする。それに美しい滝があって、それを受け止める小さな池があって。
ふと、あの滝での出来事を思い出した。
そのとき瀧音が冗談交じりで言った言葉を思い出した。そういえばこのダンジョンに挑む前にも、同じような事を言っていた。
そうだ。とてもぴったりな言葉があるじゃないか。そもそも瀧音が自分自身で言っていたではないか。
それは荒唐無稽で抱腹絶倒の言葉かもしれない。昔だったらその言葉を笑い飛ばした。しかし今なら……。
こういう言葉が思い浮かび、そして彼に似合うだなんて思うのは、私も彼に毒されてしまったからなのだろう。
でも、悪い気は全くしない。むしろ心地いいだなんて、毒されているのに喜んでいる自分がいる。そして、もっと毒されてみたいと思うなんて、これはもう取り返しがつかないな。
さて、どうせなら瀧音になったつもりで、言ってみようか。彼は大事な場面では、自信に満ちあふれた様子で、さらりと言ってしまうんだよな。
「瀧音幸助は……」
現時点で学園生最強のモニカ生徒会長に顔を向けると、不敵な笑みを浮かべる。
「この魔法学園で最強になる男だよ」
2章 マジエロ★シンフォニー -美少女遊戯学園の劣等生- 完
ようやく2章が終わりました。
次章では可能性を得た瀧音君が、ヒロイン達と共に強くなります。
また物語初期から話題を出していた生徒会、風紀会、式部会の三会メンバーや、伊織の義妹、エッロサイエンティスト等々、名前だけ出ていたキャラクター達が瀧音達と深く、楽しく、そして一部キャラはエッロく絡んでいきます。
無論それだけではなく花邑家や毬乃さんの秘密についても、少しずつ明かされていくことになるでしょう。また伏線を投げていたイベントの、どれかを発生させるかもしれません。
3章タイトルはもう決まっています。
3章 マジエロ★ワルツ -三会編- です。





