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マジカル★エクスプローラー エロゲの友人キャラに転生したけど、ゲーム知識使って自由に生きる  作者: 入栖
■2章 マジエロ★シンフォニー -美少女遊戯(エロゲ)学園の劣等生-
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86 学園ダンジョン④


 ネトゲによく言えることだが、単純なLV上げで一番重要視されるのは「所要時間」であると個人的に思っている。一回の戦闘でかかる時間、モンスターに出会うまでの時間、戦闘終了後にキャラクターを回復させるなどの準備時間。全てを計算し、一番効率の良い場所へ行くのが良いだろう。まあドロップアイテムによっては狩り場を変更することは多々あるのだが。

 

 しかしRTAにおいては少し違う。エンディングまでの道筋がしっかり見えているのだから、その最後まで見越した上で、最適とも思える行動を取らなければならない。


 現実でも工場みたいなところでは、RTAっぽいことをしているのではなかろうか。完成品が決まっているのだから、それをどう効率化していくか、だなんて。まあ現実の場合、不確定要素が凄まじく多いので安全マージンを取らざるを得ないであろうが。


 今回の目指すゴールは一週間以内の四十層攻略及び、三会入会である。

 それは何よりも優先すべき事柄であると思っていたから、お金のほとんどをぶち込んで準備したし、攻略出来るように特殊な訓練もした。何よりわざわざパンツを捧げたのは、ここに来るためだ。


 その四十層攻略の過程で必ずしなければならないことに、魔素集めがある。二十一層はトレントが出るからそこで狩りたい! なんて思っても毒蛙がいる。じゃぁ毒蛙がいなくなる、二十四層からは狩りだ! といきたいところではある。


 しかし二十四層からはトレントもいなくなってしまうのが、残念でならない。ただしインプはそのまま出現するので、制作者はいろんな意味で分かっているなと言わざるを得ない。光属性の遠距離魔法なんかが使える、もしくは、ななみのように遠距離が使えれば、インプも非常に良い収入源ではあるんだが、俺だと上空に逃げられたら、どうしても陣刻魔石に頼らざるを得ないのと、心の問題がネックだ。通路までおびき寄せて戦うのもありだが、その誘導時間がもったいない。


「結局のところ基本は逃げだよなぁ……」


 このフロアから新たに登場する、ゴブリンの上位種『ホブゴブリン』は、棍棒、剣、弓、杖を持っている。その持つ武器によって攻撃パターンは変わってくるのだが、どれもこれも対処は楽だったし、ゲームと同じようにザコだった。


 しかし、倒しやすいがトレントよりも経験値が少ないのは残念である。まあ弱いのだから仕方がないのかも知れないが。

 今でてきたホブゴブリンは弓を持つタイプだった。しかしななみの弓に比べたら雲泥の差である。ほんと、子供のパンチみたいなものだ。あの弾丸のような矢が間髪いれずに飛んでくる様は、恐怖以外のなにものでもない。


 複数体出てくればトレントよりも効率は良くなるが、必ずしも複数体出てくるわけではないし、あまりに数が多いと事故る(ミスをしてダメージを受ける)可能性もある。

 回復アイテムの予備は比較的多めに持ってきたが、三十層以降から湯水のように使うと思っているので、今は使いたくない。


 ホブゴブリンをぼこったあとはランニングである。ホブゴブリン2体以下なら戦闘、3体以上もしくはインプ入りだったら逃げ。

 このままさっさと進んで二十七層へ行くのが吉である。


---- 

 

「なんて思ってたらもう二十七層なんだよなぁ」

 以前までの層よりも少し急ぎ目でここに来たから、本当にあっという間だった。しかし二十七層は早めに来たかったから仕方ない。


 ダンジョン二十七層は今後を左右する、重要な階層の一つである。二十七階層は登場モンスターが変更される階層で、今の俺からすれば一番に経験値が稼げるマップでもある。

 またダンジョンの雰囲気が少し変わるのも、二十七層の特徴と言えるだろう。むしろ二十七層からダンジョンの雰囲気が変わるから、登場モンスターも変わると言って良いかもしれない。


「しかしここからは先は奇襲も気をつけないと」

 横の水路を見て思わずため息をつく。

 二十七層からの変化の要は、ジャングル遺跡に水路や池のようなものが追加されることだ。それによって登場モンスターに水系が増えてくることになる。


 そこから少し進んで、池のような大きな水たまりに来たときに、そいつは現れた。

 目を引くのは巨大なハサミ。そして背中に背負った大きな貝殻。二本の触覚。それにしても大きい。高さだけでは小学生中学年くらいだろうか? しかし横幅は六、七人分ぐらいはありそうだし、何よりハサミが異様に大きい。むしろハサミが大きすぎてバランスが悪い。


「でもこのバランスの悪さが、カリヤドーなんだよな」


 カリヤドーはヤドカリをベースにハサミを異様に大きくしたような敵である。名前もヤドカリをもじっただけなため、モデルはヤドカリであろうことは紳士達はすぐに理解したし、公式でもヤドカリ呼ばわりしていた。マジエロでは並べ替えたり、もじったりするのが結構多いんだよな。


 さて、肝心のカリヤドーは相性的には最高だと思っている。それほど速くない、斬に耐性があるものの、打に弱い。

 しかも水守先輩曰く「関節は簡単に切れるし、そもそも瀧音の腕なら一部の殻も断ち切れるんじゃないか?」と言っていたので、多分いけるのだろう。そういえばゲームでもクリティカルの時は、剣で大ダメージを与えていたが、関節を切っていたのだろうか? まあ俺の一番の武器はストールだから、単純に打撃攻撃だし、斬ることにこだわらなくても良いんだが。


 しかし注意すべき点もある。

 カリヤドーはガギガギと何かをひっかけるような音を立てながら、こちらに向って歩いてくる。思ったよりは移動が速い。


 カリヤドーはハサミを振り上げると、こちらに向って叩きつけてきた。挟むんじゃねえのか、なんて思いながら第三の手を楕円型にして攻撃を逸らせる。

 カリヤドーで注意しなければならないのは、その大きなハサミである。物を断つ鋭さこそないが、そのごつごつしたハサミに、馬鹿力で挟まれれば骨も折れてしまうだろう。


 俺はそのハサミを身体強化した足で思い切り蹴飛ばすと、カリヤドーは大きく仰け反った。すぐさま顔に向って第四の手をぶつける。

 バギン、となにかが砕ける音と共に、カリヤドーはひっくり返る。しかしまだ魔素に変わり始めていなかったため、すぐに追い打ちをしようとしたが、それは叶わなかった。むしろ叶えられなかった。

 ブワブワブワ、と泡がカリヤドーから溢れてくる。すでに顔全体が泡だらけになっていて、まるでヒゲを生やしたかのようだ。


 このモンスターは毒を持ってはいないはずだから、別に浴びても問題ないとは思うのだが。

「なんか近寄りがたいんだが……」

 泡が小さいからだろうか、量が多すぎるからだろうか? 何でこんな気持ち悪いんだろう。


 とは言っても戦わざるを得ない。そもそも俺は二十一層から二十七層を除いた三十層までを数時間で終わらせ、二十七層だけで一日以上過ごす予定である。

 ずっと居る事になるし、その間ずっと狩ることになるのだから、見た目がなんとなく気持ち悪いだけで、時間を浪費するのはもったいない。


「いくぞ、せーのッ」

 意を決して顔を殴る。するとどうしたことだろうか、顔からさらに泡があふれ出し、やがてぴくぴくと痙攣すると、がくんと足が崩れ、貝殻が地面につく。そしてゆっくり魔素に変わっていく。


 ヤドカリって海のイメージあるけど、淡水だけで生活できただろうか? なんてどうでも良いことを考えながら魔石を拾おうとしたが、すぐに体を起こす。そして拾おうとしていた魔石をいったん蹴り飛ばし、戦闘の邪魔にならないようにする。


「飛んで火に入る夏の虫だな」


 そこに現れたのは二十七層で一日過ごす目的となるモンスターだった。

 それは子供のような体型で有りながら、大きな金槌を持ったモンスターである。中性的な顔立ちで、非常に可愛らしい姿形ではある。しかし自分の身長以上はあるだろう、大きく長い槌を引きずって歩く姿は、明らかに異様である。


 それは妖精系のモンスター、ノッカー。

 ノッカーはその子供のような見た目ではあるが、強さは見た目と一致しない。何よりヤバイのはその身長以上の槌……ではなく。


「早速やってきやがった!?」

 ノッカーの前に現れた魔法陣に第三の手を向ける。そして本来の強化にプラスして、水属性を付与する。


 それと同時に、魔法陣から火球がこちらへ飛んできた。

 この妖精の行動で一番厄介なのが、陣刻魔石を使った火炎攻撃である。すぐさまストールで弾くと距離を詰める。しかしそれを待っていましたとばかりに、横から槌が迫ってくる。俺は第四の手でガードし、居合いを行おうとするもそれは叶わなかった。


 ノッカーはその槌で殴った勢いを利用してその場から飛び退いたのだ。

 思わず、なんだってと呟いてしまう。軽業師だろうか。

 非常にアクロバティックだ。コレを動画共有サイトにでも上げたら、そのショタ的見た目も相まって人気急上昇間違いない。


 すぐさまノッカーは俺から距離を取るとまたもや陣刻魔石を手に取り、発動させる。そしてそれと同時に槌を構え、こちらに迫ってきた。


 しかし残念だ。


 二方向からの攻撃は、先輩やリュディそしてクラリスさんにお願いして訓練済みである。ダンジョンでは一対複数が多くなることが分かっていたから、なるべく訓練をしていたのだが、それは正解だった。

 第三の手で弾き、第四の手で槌をガードする。しかし今度の第四の手はひと味違う。

 槌が第四の手に当たった瞬間、ボフ、とまるで布に当てたかのような音が聞こえ、槌が第四の手に埋まる。この微妙な硬質化をマスターするのに、一体どれだけの時間をかけたことか。


「さて、ここでエンチャントを強化して、ストールの硬質化っと」


 硬質化した布に包まれ、抜くことが出来なくなった槌を引っぱろうとしているノッカー。お腹ががら空きである。

 居合いを使い、ノッカーを真っ二つにする。ノッカーは魔素と魔石と、一つの赤い宝石に変わった。それを見て思わず驚く。


「はっ? う、嘘だろ? なんでだ、一体どうしたんだ?」

 思わず二度見してしまう。喜びよりも困惑の方が大きい。


 ノッカーを丸々一日狩る予定にしたのは、経験値だけではない。むしろ狩りにくいし、もっと効率が良い場所は他にある。しかし、あえてここにしたのはドロップアイテムのためである。

 そのアイテムは、残念な事にめちゃくちゃ落としにくい。スマホゲーのクソ課金よりかは確率がマシだが、スマホは金さえ出せばすぐ引けるという利点がある。

 だが、こちらはそうもいかない。


 とはいえ、このアイテムも一応買えるといえば買える。しかし、あまりに高すぎてお小遣い(新人サラリーマンの年収クラス)ですら足りず、他の物が買えなくなるから泣く泣くカットした。この稼ぎさえなければ、さらに一日短縮出来たかもしれない。まあお小遣いをせびったらせびったで、普通に追加をくれそうな家族であるけど。


 さて、先ほど倒したノッカーの所には、一つの魔石が落ちている。


 RTAの生放送していた時は『屑運』の筆頭格なんて呼ばれていたのに、まさか一回目で取れるとは思っていなかった。いや、嬉しいんだけどね!

 落ちているそれを手に取ると、形をよく見てみる。うん、店売り商品をじっくり鑑賞してきた甲斐があった。これはアレと同じだ、間違いない。


 『火の陣刻魔石、中級』だ。


 それにしても不思議である。なんでノッカーって下級の陣刻魔石を使ってくるのに、中級を落とすのかが分からない。まあ下級も落とすんだけど。もったいぶらずに中級使えば良いだろうに。相手が弱く見えるのだとしても油断なんかせずに。まあ、いいや。

 

「さ、陣刻魔石も手に入れたし」

 そう言いながらノッカーと、蹴り飛ばしたカリヤドーの魔石を鞄にしまう。ニヤニヤが止まらない。


「あと四つ出るまで狩るか!」


 目標(願望)タイムは十二時間。出るまで延々と狩りだ!

 …………地獄のはじまりである。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「陣刻魔石」という表現について、 「印を刻んだ」という意味で「刻印魔法」という言葉があり、それを考えると「刻陣魔石」とすべきではないかと思うのですが? 「陣刻魔石」だと「陣を刻むための…
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