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マジカル★エクスプローラー エロゲの友人キャラに転生したけど、ゲーム知識使って自由に生きる  作者: 入栖
■2章 マジエロ★シンフォニー -美少女遊戯(エロゲ)学園の劣等生-
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82 学園ダンジョン突入前② リュディ



 前もって準備をしないと落ち着かなくなったのは、いつからだろうか。小学生の頃は行く前ギリギリでも問題なかった。中高生は完全におきっぱなしだったから、鞄の中はたいてい漫画やゲームやお菓子だった。大人になってからだろうか、前もって準備をしっかり行うようになったのは。


「だいたい全部、持ったな」


 あと必要なのは食料だけだ。それ以外の荷物を全て入れたというのに、膨らみもせず、重さも感じない多次元収納袋アイテムボックスは凄まじいを通り越して呆れる。物流改革どころじゃなくて物流革命が起る。ただ、ここまで高性能なのは、目玉が飛び出そうなぐらいの金を払わなければならないのだが。


 ゲームでは1周目で必死に金策をしたというのに、この世界では毬乃さんにちょーだいの一言で済むとか、この家の金銭感覚おかしくね?


 と、俺が荷物を机の上に置いたときだった。トン、トン、トンと部屋がノックされたのは。どうぞ、と声をかける。入室してきたのはリュディだった。


 俺の部屋ではあるが、すでに勝手知ったる部屋なのだろう。入るやいなや、俺のベッドに座ると、部屋の守り神であり抱き枕でもある、シャチの人形マリアンヌを、膝の上にのせた。そして両腕でぎゅっと抱きしめる。


 なあ、マリアンヌ。そこはどうだい? 気持ちいいかい? 僕に感想を教えてくれないか。むしろ場所代われ。


「ねえ、明日って試験じゃない?」

「ああ、そうだな」

「やっぱり行くのよね?」

「もちろんだ、そのために準備してきたんだからな」


 四十層攻略のために特殊な訓練もしたし、アイテム類も用意した。そもそもだが、その準備のために学園へ行ったのだ。まあ、先輩に会うのも理由の一つだったが。

 それにしても、ななみは大活躍だったな。おかげでルイージャ先生宅に布団が納品される前にキャンセルできた。後で先生の電話番号変えさせないと……。


「ふぅん。そっか。そうよね……」


 そう言いながら、マリアンヌの胸ヒレを掴んでパタパタさせる。

「すぐ家を出るの?」

「いや、明日はあえてゆっくり行動しようと思っている。荷物をしっかり確認して、それからかな」

「そう」

「……なあ、どうした? リュディ?」


 なんだか今日のリュディは様子がおかしい。


「近頃さ……幸助に迷惑ばかりかけているじゃない?」

「かけられたか?」

 全く思い出せないのだが。

「かけてたのよ」

 そう言ってマリアンヌの背びれを掴むと、膝の上に置く。俺にも膝枕して欲しい。


「だからね、力を貸してくれって言われて、ダンジョンに行ったときは少し嬉しかった。これで少し借りを返せる、って思って」


 まあ、恥ずかしい思いもしたんだけど、と小声で付け足すと、マリアンヌを立てて顔を隠した。

 ダンジョンね、あのダンジョンはショーツ……うっ。

「思い出さないでっ」

「す、すまん」

「……でさ、それでダンジョン攻略したら、一番価値のありそうな物を私達に配っちゃう馬鹿がいたのよ。借りを返せたと思ったら、のしをつけて返してくるの」


 マリアンヌの顔の横から、半分顔を出し、ジト目でこちらを見る。


「馬鹿じゃ無くて、当然の帰結だろう。俺以上に有効利用できるヤツがいるなら、その人に使って貰うのが一番だ」

「だからって渡すことないじゃない」


 そう言って彼女は目線を下に向ける。リュディの右手には、しっかりあの指輪がはまっていた。


「俺が渡したかったんだ。後悔なんて微塵もないし、リュディは有効利用してくれそうだし、何よりリュディには緑色が似合ってる」

「もうっ……」


 少し顔を赤くしたリュディは、手に持ったマリアンヌを俺に投げてくる。俺はしっかりキャッチすると、温かいマリアンヌの頭をなでながらリュディの隣に座った。


「……ねえ幸助。私って、別にいなくても良い存在?」

「いきなりどうした……いなきゃならない存在だよ」

「学園ダンジョンでも?」

「……どうしても一人でやらなければならないことがあるんだ。だから今回だけは一人で行かせて欲しい。でもな、その後は絶対に俺一人じゃ攻略は無理だ」


 二周目の伊織、先輩、生徒会長なら余裕で行けることだろう。だけど特化ピーキー性能な俺には多分無理だ。だからこそ。


「だからそのときは一緒に来てくれないか?」

「そんなの、当たり前じゃない……」

 と、リュディはポケットに手を入れると、俺を小突く。


「幸助、手」

「ん?」

「手、出して」


 マリアンヌを離して、リュディの前に手を出す。するとリュディは俺の手の上に何かを置いた。

 それは先輩と同じような形のお守りだった。シンプルな生地に、四つ葉のクローバーが描かれたお守りだった。


「雪音さんに聞いたら、和国のお守りを渡すって言うから……お願いして作り方を教わったのよ」

「……どうりで最近先輩が家にいる日が多かったわけだ」

 なんかやけにうちにいる頻度が増えたよな、と思ってたんだ。三日に一回くらい来てたよな。あの一室は先輩の部屋っぽくなってる。まあいてくれた方が嬉しいし、訓練では凄く助かったんだけど。


「ごめんなさい、雪音さんに比べたら、凄く下手でしょ?」

 そう言われて、そのお守りを見つめる。

「……確かに先輩のに比べたら下手かもしれないけれど、うまさなんて関係ない。俺にとっては甲乙つけがたい大切な物だよ。ありがとう」


 リュディが俺を案じて作ってくれた、もうそれだけで宝物だ。


「うん……」

 そう言ってしばらく沈黙していたリュディだけど、やがて。

「ああ、もう。なんで一人で行こうとするかな……」

 そう愚痴る。

「今回だけだって」

「分かってる。分かってるけど、なんか納得いかないの。ああ、もう。ほんと、一人で無茶しに行くのは今回だけにして」

「分かってる。次からは誘うから」


 ぷりぷりしてるリュディを見て思わず苦笑する。まだ苛立っている様子だ。だが納得して貰わないといけない。


「……ねえ幸助、ちょっと立って後ろ向いて」

 ん、なんで? と思いながらも俺は立ち上がって後ろを向く。

 それからすぐに、とんと、温かくて柔らかい物が背中に当たった。

 リュディが俺の背中に抱きついていた。彼女の華奢な両手が、俺の腹に巻きつき、ぎゅっと締め付ける。


「……幸助」

「なんだ」

「駅の近くに、ラーメン屋、出来たらしいの……おごりなさいよ」

「おう、まかせろ」


 そんなんで怒りを水に流してくれるなら、お安いご用だ。

 俺は巻き付いた彼女の手に、自分の手をそえた。


「……幸助」

「なんだ」

「頑張って」

「……ああ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 末永く爆発しろ!(こういう展開好き)
[良い点] あまりにリュディが可愛すぎる [気になる点] あまりにリュディが可愛すぎる点において読者の心臓が意図しない拍動を刻むこと [一言] ありがとう
[良い点] これは嫁(確信)
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