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マジカル★エクスプローラー エロゲの友人キャラに転生したけど、ゲーム知識使って自由に生きる  作者: 入栖
■2章 マジエロ★シンフォニー -美少女遊戯(エロゲ)学園の劣等生-
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78 故地の淀②


 魔素を集めることでのステータス上昇に関しては、多少の実感はある。腹パンをするうちに、だんだん力を込めなくなって良くなったこともそうだ。今なら、ななみのエクスプロードアローが無くても、ソロでなんとか出来ると思う。しかし罠起動や並べると言った作業の効率化が出来るから、二人の方が断然良いだろうが。


 休憩を挟みながら数時間狩って、ようやく亀狩りをやめることにした。


「この後はどうされますか」


 ななみに聞かれたが、することは決まっている。

 ダンジョンの奥には今か今かと待っているであろうボスがいる。そしてそのボスの先には宝箱もある。ただその宝箱の中身は、伊織には良い物だとしても、今の俺にとっては不要な物だ。そしてボスはHPだけはとても高いが、稼ぎに使っていたジディアオにも劣る弱さである。それを知っている俺が導き出す結論は。


「よし、ボスは放置して家に帰ろう!」


 ななみは唖然としているが、行く気は無い。だって行く意味が無いんだもの。


 ダンジョンクリアボーナスでもあるならば、行くのも良いだろう。しかしこれはマップにコンプリートマークが付くわけではないし、もし仮に奥まで行って経験値的にも、技術的に得るものもほとんど無い。


 そんな時間の無駄をしていられるか。とあるゲームのRTAでは、町が魔物に襲われて火の海になっているというのに、クリア時間短縮のため魔物イベントをガン無視する上に、民家から金やらアイテムを盗んで、別の町で売り払うことも平気でするんだ。それに比べたら、なんて平和な時間短縮だろうか。


 それにもう予定は決めている。帰宅して素振りいつものしてシャワーである。そして空いた時間で、リュディ達とゲームしたり動画見て笑っている方が、気分転換になるし百倍有意義である。わざわざ行く必要性が微塵も感じられない。


 さて、俺の言葉に、ななみは驚いているようで、いつものボケが無い。俺はこの先に何があるか知ってるし、行くだけ時間の無駄だと納得させる。


 そしてふと思う。

 ななみには、これから様々な所に付き合わせる予定であるから、ある程度俺の秘密を話してしまっても良いかもしれない。ただそれは今では無いし、あちらも隠していることがあるから、お互い様でもあるのだが。

 

「じゃあ、帰ろうか」


 と、俺が言うとななみはメイド服のポケットから円形の機械を取り出し、魔力を込めて起動させる。

 その機械は『カシャリ』と音を立てて二つに割れると、そのまま宙に浮き、割れた箇所から眩い光が放たれた。俺はななみの手を掴むと、目をつぶる。


 マジカル★エクスプローラーでは、ダンジョンを脱出する方法はいくつかある。今まで利用したのが最終階層に必ずある、転移魔石を使った脱出である。しかしこれを利用するのは次回からかなり減るだろう。


 理由は単純で、階層が多いダンジョンが増えるからだ。

 今後は十層どころではなく、数十階層から百近くの階層があるダンジョンに挑んでいくことになる。そのたびに最終階層まで潜って帰還するなんて、やっていられない。一応大きなダンジョンには、キリの良い階層に帰還用転移魔法陣が設置されているため、帰ることも可能だ。それに一度その帰還用転移魔法陣に自身を登録すると、その階層に一瞬で飛ぶことも出来る。


 しかし今回のように最終階層が10層の場合は、最終階層にしか帰還用転移魔法陣が存在しない。そのため今回利用したものが帰還用アイテムである。

 

「ご主人様ったら……フフッ」

 ななみが俺の手を見てほほえましそうに笑う。

「いや、そのさ、なんか恐いじゃん」


 実を言うと帰還用アイテムを使用したのは初めてである。なんだかこういうの初めて使うのって、恐くないか? 転移魔法陣を初めて使った時もびくびくしてしまったし。今思えば手じゃなくて服を掴んでも良かったかもしれない。

「もう、しょうがありませんね。これは高く付きますよ?」


 なんて言いながら、ななみは一瞬手を離すと恋人繋ぎに変える。いや、もう転移が終わったから繋がなくても良いんですが……。


 しかしやけに機嫌が良さそうだったので、少しの間そのままにすることにした。


----


 考えてみれば当たり前の事である。 


 居間に行けばぐだっとしたリュディの姿は無く、暇そうに紅茶を飲むクラリスさんしかいない。聞けば、部屋で勉強しているとか。


 そりゃ学園入学後の最初の試験が近ければ勉強するだろう。テスト前に普通の学生がすることと言えば、家でゲームやら動画見るなんかではない。俺は普通じゃ無いアホ学生だったし、今も勉強する気はあまりないのだけれど。そもそもだが、サボるつもりだったから、試験を完全に失念していた。


 まあこの学園は特殊で、ダンジョンさえクリアできれば、進級も卒業も出来る。だから最初からサボる者も中にはいるっちゃいる。

 しかしリュディは普通に良識ある優等生である。と言うか普通の人は真面目に受けるよな。受けない方が珍しい。


 もしかしたら俺が「サボってダンジョンにきてくれ!」とお願いすればリュディはサボってくれるかもしれない。しかしそんな事をお願いするつもりは無い。リュディはリュディなのだし、彼女らしく学園生活を送ってもらいたい。来たいって言ってくれるのならば、泣いて喜ぶが。


 それに亀でもう少し稼いだ後に挑む予定のダンジョンは、元々ソロで行くつもりだったのだし。


 素振りとクラリスさんとの模擬戦を終え、シャワーを浴びながら、この後の予定をまとめる。

 リュディに行くのは避けたい。姉さんも試験が近いから、忙しそう? だ。姉さんはたまに行動が読めないから、忙しくはないのかも知れないが。


 ならば家に学園最高権力者がいることだし、先に色々根回しをしておくか。あの人はいつも忙しそうだし、今のうちに話しておこう。


 そうと決まれば早速行動だ。

 体を洗い流すとすぐさま着替え、毬乃さんの部屋へ向う。そしてドアを数回ノックする。


「どうぞ~」

 間延びした声を聞きながら部屋に入ると、そこにいたのは毬乃さんとななみだった。

 毬乃さんは俺を見つめると、にこりと笑い手招きする。


「ちょうど良かったわ」


 ん? と首をかしげると毬乃さんはこちらに紙を差し出してくる。俺はすぐに手を伸ばし受け取ると、ななみの座るソファーの隣に座る。

「ええと、なになに婚姻届ね……ん?」

「あら間違えたわ!」

「絶対間違わねえよな」


 と、先ほどの紙を取られ、別の紙を渡される。


 何でこんなところにあるんだよ。こんなの市役所でわざわざ貰ってくるとか、エロゲの特典で貰うとかじゃないと入手できないと思うのだが。てかあの特典の婚姻届って、非常に本物っぽいから、他人に見られたら絶対誤解されるよな。しかも各ヒロイン全員の筆跡が違うというこだわりっぷり。まあそれはいいや。


 ていうかさっきの婚姻届に、姉さんの名前と俺の名前が見えたような……まぁ、気のせいだよな。


「こっち、こっち」

「ええと入学届……か」

 ななみは俺の横で全員分用意してください、と言っていたが何の話かは分からない。


 俺は渡された入学届をざっと確認すると、書いてある名前の人物を見つめる。

 毬乃さんに何か言っていた彼女は、俺の視線に気が付くと顔をこちらに向けた。そして目に掛かったさらさらの銀髪を払い、美しい紫の瞳でじっとこちらを見る。鋭いナイフのような冷たい印象を受ける目だが、俺は好きだし、何より笑ったときにそのキツさが無くなって、柔らかになるギャップが好きだ。

 人によるだろうが、リュディ以上に美人で好きと言う者もいることだろう。

 目の合っていた、ななみは不意に頬に両手を当て、くねくねと動き出す。


「そんな、ココじゃ恥ずかしい……!」

「誤解を与えるような意味深発言はやめようか」

 何も言ってないからな。彼女の妄想ではいったいナニをさせようとしたんですかね。

「大丈夫、見なかったことにしておくわ♪」


 いや、その配慮は要らないから。しれっといつもの顔に戻っているななみに向き直る。

「それで……本題に戻して良いですか?」

「ええ、たった今決まった所なのよ」

「これでご主人様と一緒に学園へ通えますね。もう、そんなに喜ばないでください」


 そう言われても。


「嬉しいか嬉しくないかで言えば、嬉しいんだけど、今の俺は立場が微妙なんだよな」

 まあ暇つぶしの相手が増えることもあって嬉しい。しかしながら俺はリュディの件や、学園をサボりまくっている事もあって、学園内の立場が微妙だ。むしろ今後俺がやろうとしていることを考えると、増長させる可能性も否定できない。


「ちゃんと授業に出ないからぁ」

 と、ジト目でこちらを見る毬乃さん。その通り過ぎて何も言えないが、今後もサボることが多くなると思う。特に最初の試験が終わるまでは。なにより。


「これから先を考えれば、むしろ怒りを買っておいてもいいかなと思っているし、でもそれにななみを巻き込むのはどうかとも思うし……。とはいえ、最終的にどう落ち着くかは予想が付かないんだよなぁ」


「これから先ねぇ……三会かしら?」


 毬乃さんの目が怪しく光る。鋭い指摘だ。全くもってその通りである。


「まあ、どうであろうと。私がご主人様の側を離れることはございませんし、カトンボ共に何を言われようと、私は気にしませんし殲滅するだけです」

「殲滅してる時点でとても気にしてるよな」

「まあジョークは置いておきまして、私は一切気にいたしません」


 彼女は何言っても付いてきそうなんだよな。だけど。

「まあ、ななみなら状況を楽しみそうな気もするし。いいか」

 ご主人様はよく分かってらっしゃいますねと、ははは。と二人で笑っていると、毬乃さんがねえねえ、と声をかけてくる。


「こうちゃん。こうちゃん。よければ何をしようとしているか教えてくれない?」


 そうだ、俺はそれをするにあたって、万が一が起らないよう『根回し』のため、ここに来たのだった。


「むしろそれを話しにここへ来たんだった。やろうとしていることは簡単だよ」

 まあ実際の所、強くなるためにやっているだけで、今から話すことは副産物である。でもインパクトが強いし、こちらを優先で話してみよう。どうせなら自慢げに。

 俺は人差し指を立て、にやりと笑う。


「試験をサボって、学年一位をとろうかなって」



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