77 故地の淀
リュディ達が店舗特典の指輪を入手した事により、一番弱いのは誰かと問うと、俺が一番弱くなったと言えるだろう。
もうね、はっきり言おう。リュディはそこら辺の一年と比べるのもおこがましいほど、隔絶した力を持っている。俺より主人公倒せる確率あるのではないか? そう思ってしまう程だ。
だからといって負けっぱなしではいられない。
必要なのは自分自身の強化であろう、そのための準備は整えた。アイテムも用意した。協力者もいる。
となれば真っ先にすること。学園をサボってダンジョンへ行くことである。
リュディはテストが近いのに良いの? と心配してくれたが、正直テストとかどうでも良い。……いや、正直に言えば少し気になっているが。もし受けられるならば受けてもいい。赤は取らない……と思う。最悪、オレンジやカトリナよりは良いだろう。多分。
さて、今回挑んだのは、業界大手の『柔らかそうな地図みたいな名前の店』の店舗特典についてくるアペンドディスクのダンジョンである。
このダンジョンは先に攻略した「暗影の遺跡」のような常軌を逸した突入条件はない。ダンジョンに入るまでに一悶着あったものの、わりかし平和に挑むことが出来た。
この「故地の淀」は「薄明の岫」や「暗影の遺跡」と同レベル帯のダンジョンではある。
しかし登場モンスターに一段以上も上のモンスターが出現することがある。
ただし、それは普通に出現するわけでは無い。
では、一体どうやって出現するのか? それは、罠である。
「ご主人様、行きます」
「おう」
ななみが罠を稼働させると、空から魔物が降ってくる。土埃を巻き上げながら、重量感のある音をあたりに響かせ、そいつは降り立った。
ジディアオと呼ばれるそいつの見た目を簡単に言えば、デカい亀である。大きさは大型のバイク2台分ぐらいだろうか。亀にしか見えないが一応龍の仲間である。よく見てみれば足や手に鋭い爪があったり、一部に鱗がついていたりもする。
初めてゲームをプレイしたときは、ジディアオの強さを知らず突撃し、パーティが壊滅したものだ。なんとか生き残れたのは、ジディアオの歩く速度が遅い所為だろう。唇を噛み、これで勝ったと思うなよ! だなんて捨て台詞を残し、一目散に逃げだしたものだ。
後から知ったことではあるが、正規のダンジョン攻略法はそれであった。
あのジディアオは実はこのダンジョンの適正レベルモンスターでは無い。罠で出てくる数段上の特別な魔物である。そのためこのダンジョンに適正レベルで来れば、まず勝てない。もし倒したいのであれば、レベルを上げてくるのが普通、という魔物だ。
間違って罠を踏み、ジディアオが現れてしまったらどうするか? 足が遅いという弱点があるのだから、逃げるが正解である。
しかしだ。逃げるのは正解で間違いないが、罠を踏んで強敵と邂逅するというピンチを、そのままピンチだと思って良いのだろうか。
数多のビジネス書なんかが、やれ『ピンチをチャンスに変えろ』だとか、『ピンチこそ成長や成功の機会』だなんていうではないか。
今回はそれである。
考え方を変えるのだ。
確かに罠は悪意あるものである。しかしその罠をうまく使えれば、それはなんて有益な物なのだろうか。今回の場合だと、低レベルダンジョンで、それなりの経験値を持った魔物が出現させられる罠となるのだ。俺が大人になって罠が少し好きになったのは、こういった利用法を覚えたことが一つである。まあ恨みの方が多いのだが。
さて、有効利用するためにどうするか。
まず考えなければならないのは、出せたからといって、コイツを倒せるか、と言う点である。
結論から言うと、低レベルで倒せないこともない。
エロゲ「マジカル★エクスプローラー」が人気になった理由の一つとして、しっかりとした『弱点』設定とバランス調整がある。まあ一部ボスには無いのもいるが。ただ、この亀も弱点があり、しっかり対策さえ講じれば、低レベルでも倒せる魔物である。
そう、倒せるのだ。もしリスクを下げて討伐できるなら、それはなんて素晴らしい経験値稼ぎだろうか。
しかしそれは想像以上に苦痛だった。
俺は落ちてきたジディアオをすぐさま第三の手と第四の手でひっくり返す。手足をじたばたしている亀を一列に並べると、ななみはまた罠を作動させた。
そして降ってきた亀を、すぐさまひっくり返し無力化すると列に並べる。
そしてある程度たまったところで、ななみがエクスプロードアローで腹を爆破し、俺が腹パンして討伐。次のを腹パンして討伐。
ゲームでは土属性の魔法などでひっくり返し、動けないところを一斉に攻撃、腹を破壊し大ダメージという戦法で魔素(経験値)を稼げる場所だった。今回もそれを利用しているし、すごく楽なのだが。しかしなぁ。
単調すぎる。
こんなの飽きるに決まってるんだよな。自宅で一人だったら動画見ながらやるから別に良いし、RTAで生放送だったら、視聴者のコメント見ながらやれるからまだマシなんだが。
「ななみ、俺が今考えていることが分かるか?」
ななみは無表情のまま、淡々と自分の職務内容をこなしている。
「もちろんご主人様のことなら手に取るように把握しております。ななみの使用済みショーツ、あと二つ欲しいな、ですね?」
「一ミリも考えてなかったわ」
そんなの考えるわけ無いだろ。まあ要るか要らないかで聞かれたら、回答は決まっているが。
「やはり保存用、観賞用、実用の3枚は欲しいですものね」
「一マイクロも考えてなかったわ」
そう言われると三枚あると便利……って俺は何を考えているんですかね。
「では穿く用、被る用、手にもって掲げる用ですね」
「一ナノも考えてなかったわ」
なにその三種の神器。ただのド変態じゃないか。
「まさか、布教用ですか!?」
「どこにナニを布教するんだよ!? しねえよ!」
「良かったです、ご主人様以外に提供するのは、苦痛しか生まれないでしょうから」
「俺は良いんだ……」
なんか、その、ちょっと嬉しいような。
とアホな会話をしながらも、しっかり手は動かす。ただ、やはり飽きるものは飽きる。
落ちてくる亀。
ひっくり返し並べる俺。
落ちてくる亀。
ひっくり返し並べる俺。
たまったところで二人で腹パン。
これを続けるのかぁ……。
「我々に魔素はしっかりと入っております。頑張りましょう」
ななみの言葉に頷く。
「そうだなぁ」
どうでも良いのですが、カメの甲羅は「骨」やら「皮膚」で出来てるそうです。体の一部らしいので脱ぐことが出来ないとか。あれ? でも、踏むと身が出てくるヤツとか、着脱してるヤツがいるんですけどアレらは一体……。





