71 暗影の遺跡(ショーツダンジョン)③
さて、姉さんにショーツを返し、その場から紳士らしく立ち去り、洞窟の前まで来たのは良い。しかしだ。
正直に言えば、脱いでいる様子をめちゃめちゃ見たかった。
出来ることなら見たい。しかし恥ずかしいながらも、ショーツを差し出してくれた三人……恥ずかしそうな二人に申し訳が立たない。だからこそ見る事は許されない。
ではどうすべきか。
想像しようではないか。エロゲを100本以上プレイしてきた俺ならば、これくらいのこと容易にできるはずなのだ……。
「ご主人様」
俺が精神を集中させ、先輩とリュディが服に手をかけたときだった。後ろから声が聞こえ、振り返る。そこにいたのは、ななみだった。
彼女はなぜか申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ございません。本来であれば、私がショーツを提供すべきでした。しかし何で皆様はショーツを提供されたのでしょう? 私が一番の忠臣であることをご覧にいれるチャンスだったのに、どうしてくれるのですか?」
謝る必要は特にないし。ていうか、なんで逆ギレしてるんですかね?
「ご主人様は奥様を作りすぎです」
ええと、そもそもなのですが。
「未だに奥さんは一人もいないはずなんですけど……」
「まあそれは置いておいて、いいです。私はですね、非常に悔しいんです」
「何が悔しいんだよ……」
悔しくなる要素なんてあっただろうか?
「荒唐無稽な事を言い出すご主人様に皆様が呆れはて、心に傷を負った所に私が颯爽と登場します。そして優しくお声かけして励ますことで、私の虜にするつもりでした。励ます言葉も考えていたというのに、無駄になりました」
なるほど、虜にするタイミングが無くて悔しかったんだな。
「お前そんな事を計画してたのか。びっくりだよ。ちなみに、なんて声かける予定だったんだ?」
「大丈夫ですよ、ご主人様っ! 皆は出さなくても、私は出します! 私のショーツはご主人様だけの物です♪ それにご主人様が女装したのちにショーツを捧げれば、奇跡的に誤認するかも知れませんし、まだ希望を捨てるのは早いです♪」
「お前がしようとしていたのは励ましじゃなくて、俺を追い詰めることだからな。俺を女装させないでくれるかな?」
誰が女装なんかするか。そんなのエロゲの主人公にやらせとけば良いんだよ。ていうか、なんでそんなにノリノリなんだ?
「ああ、私の胸にご主人様の顔を押し当て、なでなでよしよし、をする予定でしたのに。残念です」
誠に残念だ。なんて魅力的な話なんだろうか。今すぐにショックを受けたふりをすれば、してくれるだろうか? しかし女装はしないからな。
「という事でコレを……」
そう言って彼女は何かを差し出してくる。それは薄い青と白のストライプの布だった。
ななみがここでハンカチを渡してくれるわけがない。そもそもハンカチになさそうな、可愛らしいリボンが付いている。ならば、コレは何かなんてすぐ予想できる。
「い、いやもう使わないから」
と、俺は言うもななみは俺の目の前にずいっと踏み込むと、胸ポケットにそれを入れる。したり顔でポンポンとそのショーツの入ったポケットを叩くと、すっと後ろへ下がった。
慌てて縞模様のショーツをななみに返そうとするも、ななみは受け取らない。
「いえ。私がご主人様に対する誠意をどうしてもお見せしたかった、それだけです」
「わ、分かった。しっかり伝わった。だ、だから、いらないから。てか貰ってどうするんだよ!」
と俺が言うと、ななみは俺に触れそうな距離まで近づくと、耳元でそっと囁く。
「まだクラリス様のを持っているんでしょう?」
思わず唾を飲み込んだ。
なぜそれを知っている。
言い訳をしないといけないのに言葉が浮かばなくて……どうすれば良いのかを必死に考える。しかし、ななみが話す方が早かった。
「欲しかったのでしょう? 私のは特に良い物です。被ると防御力が上がりますし」
「俺はショーツに防御力は求めてないし、そもそも被るという発想が無かったわ。せめて普通に穿け。いやそれも嫌な絵面なんだけど」
「では、お守りだとでも思って、私のも持っていてください。私だけ渡さないのも癪、と言えば良いのでしょうか。それに……なんだか負けた気がするんです」
特に勝ち負けとか、ないから……。
と、ななみは満足そうに俺から離れると、洞窟の中へ入っていく。
俺はショーツを大切にしまうと急いで後を追った。
どうやら準備はほとんど出来ていたようで、ちょうど俺達を呼びに行くところだったらしい。俺はショーツを隠す先輩達に視線をなるべく向けないよう意識しながら、戦乙女像の近くに立つと、皆もそれぞれ移動を始める。
ショーツを捧げる三人はそれぞれ台座の前に立つと、自身のショーツを準備する。
綺麗にたたんで手に持っているのだろう。先輩やリュディは両手でそのショーツを隠しながら、まだ少し赤い顔のまま、こちらをちらちらと見てくる。
そして背筋をピンと伸ばし、ショーツを両手で広げながら持っている、明らかに異質な姉さん。しかし、なんでこんなに堂々としているんですか。
「よし、はじめる」
姉さんの一言で、三人は台座に自らのショーツを置いた。
俺のボクサーパンツの時と同じように、すぐに反応は始まった。
眩い光が三つの像から発せられたかと思うと、その光はやがて一つに集約し、一筋の光となってそれぞれのショーツに照射される。
綺麗に折りたたまれた先輩の青いショーツは、光の中でゆっくりと開かれた。自身のショーツを見られたくない先輩からすれば、ただの公開処刑である。
それは雪の結晶がちりばめられたようなデザインの、青いショーツだった。雪音先輩の名前にもマッチしている、非常にデザインの良いショーツで、穿いている姿を見るだけで悶絶してしまいそうだ。 リュディの純白ショーツも先輩のショーツと同じように開かれた。リュディのは純白だからこそ高潔なイメージがあるのだが、今浮かび上がっているのは想像以上にきわどい。攻め気味なそれを見て、思わず心臓が高鳴ってしまった。
ふと俺は視線に気が付く。
先輩やリュディが見ないでくれと顔で懇願している。
血を吐きそうだった。
百年くらい油を差していない機械を動かすかのように、両手で自分の顔を、その至福の光景からギギギとそらしていく。そして心で泣きながら、先ほど見た二つの宝石を、記憶の奥深くに刻み込んだ。
ななみから顔を上げても良いと許可を貰ったのはそれから一分ほどだろうか。
俺が目を開けると先ほどまでとは打って変わって、真剣な表情をしている先輩、リュディ、ななみ、そしていつもと変わらない姉さんがいた。
3つの祭壇の中心に現れていたのは、魔法陣だった。
俺は深呼吸してストールに魔力を込めると、二、三度素振りをする。先輩は長刀を、リュディと姉さんは杖を、ななみは弓と短剣を取り出していて、各々戦闘の準備を始めていた。
俺も収納袋から刀を取り出し、皆の準備が終わるのを確認すると、現れた魔法陣に足を踏み入れた。
次話から真面目にダンジョン攻略すると思われます。
書きためて一気に投稿の可能性があります。
そういえば、ショーツ描写のために、ショーツを検索しすぎたせいでしょうか。いろんなサイトの広告にショーツ(特価10%OFF)が表示されるようになったんですが……(絶句)
(1/29追記)なろうの小説情報ページにも出るようになりました。ありがとうございます、買いません。





