7 花邑家への移動
意外なことに花邑毬乃は裁縫が得意らしい。彼女の手によって俺のただの布きれ(エロゲ百本ぐらいの値段)は、ストールと言って良いぐらいに変化した。布の先にちょっとしたアクセントをつけるだけで、こうも変わるのか。また時間のあるときに刺繍をしてくれるらしい。
「じゃあこれらの荷物は送って良いのね? 残りはどうするの?」
家電、食器、カーテン、ソファー、至る所に荷物がある。
「後は……処分ですね」
「そっか」
彼女はそれ以上何も言わなかった。なにか気を遣ってくれたのかもしれないが、俺としてはあってもゴミになりそうだから捨てるだけなのだが。
「……大丈夫?」
「ええ、業者来たようですよ?」
俺たちは荷物を預けると、業者の人に残りの家具を処分するよう頼み、家を出た。
もうここに戻ることはないだろう。
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花邑毬乃との移動は、これ以上ない程の幸運な時間だった。それは花邑毬乃が高校生のような美人未亡人だから、ではない(まったく無いわけではない)。ツクヨミの魔女という魔法界の重鎮に色々なことが聞けたからだ。
「じゃあやはり魔法を使うことが魔力を増加させることにつながるんですね」
「ええ、幸助君がしている常時魔力付与が一番効果的だと思うわ、ただそれは君にしか出来ないでしょうけど」
俺のような魔法の使い方では、並の魔法使いじゃすぐに魔力切れを起こすとか。アホみたいな魔力とエンチャントに適性のある俺だからなんとかなっているだけで。
「それにしても幸助君は努力家なのね」
「そうかな?」
毬乃さんは、私もあまり人のことは言えないけれど……と前置きし
「あなたいつも魔法のことばっかりだわ」
と苦笑した。からかわれたような、呆れられたような、そんな口調だ。
「そう?」
「そうなの。でもねそんなに無理はしなくて良いのよ?」
どうやら呆れやからかいよりも、心配で言ってくれたらしい。とはいえ、別に俺は無理などしていない。
「無理なんてしていないんだけど、魔法が楽しいだけで」
魔法の楽しさに魅了されただけだ。日本にもいるだろう。何時間もぶっ続けで読書したり、日付が変わるまでゲームしたり、日が暮れるまでサッカーをしたり。好きだから出来るのだ。
「そっか。何か聞きたいことがあったら遠慮せず私に聞くのよ」
それは無論聞くつもりだ。
「はい、早速……」
と彼女から一時間程魔動車にゆられながら魔法の講義を受ける。そして最初の目的地に到着すると
「じゃあこの後は少し別行動ね。ごめんなさい、私の仕事で迷惑かけて」
と申し訳なさそうに言った。彼女はどうしても面会しなければならない人が居るらしく、少しの間待っていて欲しいとのことだ。
「とんでもない。むしろ俺の方が迷惑をかけているって言うのに」
着るもの、食べるもの、住むところ。金の稼げない俺は、これから衣食住をすべて頼ることになる。
彼女は張りのある肌を緩ませにっこり笑う。そしてスッと手を伸ばし俺の額にデコピンした。
「あなたは家族なんだから迷惑をかけて良いの!」
「じゃあ毬乃さんは家族なので俺に迷惑をかけて良いんですよ」
と言うと嬉しそうに、「もぅっ」とふくれっ面を作るも、すぐに笑って空気は抜けていった。
まったく、誰か彼女の本当の年齢を教えてください。
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やけに機嫌の良い毬乃さんと別れ、よく分からない道を足の向くままに歩く。
「五時間か……何しよう」
現在居る町は世界各国と国を繋ぐ空港があり、非常に他民族が溢れている町だ。無論観光や仕事に来た人はすぐに町を離れるだろうが。
そして世界各国から人が集まるとなれば、お土産物といった商業が発展したのは必然だろう。特に俺の居る国は魔法が発展している国で、当然魔法具を買う客が多い。暇つぶしできそうな場所はたくさんあった。でも、ありすぎて逆に迷う。
日本に居た頃の俺が暇つぶしするんだったら、映画を見ていただろうか。レストランで何かを食べているかもしれないし、カフェでまったりしているかもしれない。でも今は魔法具を見に行く以外の選択肢がなかった。こっちの世界に来てから、逃れようがないくらい体が魔法に浸食されている気がする。
すぐにスマホで地図を確認し、いくつかの候補からいけそうな店を選んだ。
訪れた魔法発動媒体専門店では、様々な形の魔法具を見ることが出来た。木で出来た杖から鉄の杖やらミスリルとか言うよく分からん金属の杖。本の形をした発動媒体や、腕輪や指輪タイプの物まで。本型の魔法発動媒体なんかはハードカバーに魔石を入れているらしく、異様に厚くなおかつ重かった。また面白い物だと日傘タイプやペロペロキャンディ形の発動媒体もある。
「日傘タイプの物は、意外に実用性に富んでいるんですよ」
店員さんは日傘タイプの武器が気に入っているのか、やたら自信満々でとても押してくる。だから「男性が使用していたらどう思いますか?」と彼女に問うたら苦笑いを浮かべていた。それダメじゃないですかね。
いろんな武器を見ながらふと、今後どんな武器を装備するのが良いだろうかと考える。ゲームでは瀧音幸助は剣と盾だった。瀧音幸助は遠距離が究極的に苦手な超接近タイプであり、いつも魔物に突撃しては魔物を屠っていた。瀧音幸助の特殊能力である『第三の手』『第四の手』スキルはその接近戦で特に有用であろう。むしろ『第三の手』『第四の手』スキルは必須と行って良い。早く変幻自在にストールを動かせるようにしなければならないが、それはいったん置いておこう。
瀧音幸助に一番向いている武器は何だろうか。
ウィキに出没した紳士ゲーマー達の一番人気は、瀧音幸助の攻撃を捨て、防御特化にすることだった。
右手に盾を左手に盾を、第三の手に盾を、第四の手にも盾を。瀧音幸助は専用武器がなかった事もあり、攻撃力がやや不足していた。もちろん腕全てに剣を持たせれば使えるぐらいに攻撃力は上がるが、代わりに防御力が信じられないくらい下がる。ならいっその事『壁』になって貰おう、みんなの攻撃を一手に引き受けて貰おうと考えたのだ。
前半の瀧音幸助は鉄壁と言って良いだろう。物理攻撃主体の魔物が多かったし、ほとんどの人が瀧音幸助を使用したはずだ。
しかしそれは中盤初期までだ。そこから現れるとある鉄壁チートさんと、真の能力を解放したゾンビ聖女様に役割を奪われる。無論瀧音幸助も鉄壁チートさんに劣らない位の力はあった。しかし鉄壁チートさんは瀧音幸助にはないチート装備を容易に入手出来るのだ。そしてエロゲにおいてなによりも重要な要素を、鉄壁チートさんはもっている。それも瀧音幸助がどうやったって手に入れられない要素。そう。
鉄壁チートさんは非常に可愛い。
鉄壁チートさんは非常に可愛いのだ。
紳士諸君なら思うだろう、なんでチャラ男使わなきゃいけないんですか、と。
紳士諸君が瀧音幸助を切るのは必然と言えた。俺だって切ったのだ。また瀧音幸助は道具に対してのエンチャントが異様に得意だったこともあって、魔法具開発所に置きっ放しする人も多かった。瀧音幸助が魔法具開発所に居るのと居ないのとで、魔法具開発速度が倍違う。ただ魔法具開発所に置いておくとキャラクターがあまり成長しない。よってレベルが上がらない。結局戦闘には使われず、魔法具開発所でずっと労働させられる。
瀧音幸助君自体は強くなりたいと言っていたし、魔物を倒したいと言っていた。だが一種の神によって本来ある自由が奪い取られ、魔法具開発所で開発に専念する瀧音幸助。もはやブラック企業に勤めるようなものだ。それでいてシナリオでは主人公やヒロインからは、アホなチャラ男として見られ扱われる。なんてかわいそうな子なのだろう。あんなにも不幸で悲惨な人生を送っているというのに。
「お客様。何かございましたか?」
あまりに悲痛な顔をしていたのだろうか、茶髪の店員さんが心配そうに俺の顔をのぞき込むように見ていた。
「い、いえ。その自分に合った武器は何かな、と考えていただけです」
「そ、そうですか?」
マジかよ、とばかりに心配そうな顔をしたまま、彼女は俺を見る。
「なにかオススメの武器とかってないですかね?」
とりあえずお茶を濁しておこう。
もしかしたら彼女からは良い武器を紹介してもらえるかもしれない。
その後、日傘タイプの魔法具を紹介された。
それはもういいよ。
※週3~4回ぐらいの更新になると思います。