67 ななみ④
応援ありがとうございます。数年ぶりに日間ランキング上位に私の名前が来ました……!(この作品じゃない)
1/12追記 こいつもまさかの日間ランキング入り。ていうかランキング上位に私の名前が二つあるんですけどコレは夢ですかね……。
1/13追記 日間1位になりました、非常に嬉しいです。ありがとうございます。
ななみに花邑家について簡単に説明をしながら帰路につくと、彼女を紹介するため皆がいそうなリビングへ行くことにした。
「おかえりぃ」
リュディはソファーに座りながら魔道書らしき本をペラペラめくっている。クラリスさんも姉さんもいない。毬乃さんはそろそろ帰宅する時間だろうか。
「ただいま」
「失礼いたします」
と、女性の声が聞こえたせいか、リュディの顔が跳ね上がる。そして訝しげな目でななみを見つめるも、ななみは表情一つ崩さない。
「幸助さん、ちょっと……」
俺が何と切り出せば良いか悩んでいると、リュディに腕を引っぱられ、廊下に連れ出される。その引きは結構強くて、危うく転びそうになった。
「一体どういうこと? 何あれ?」
普段リュディが出さない低い声に、思わず腰が引ける。
「話せば長くなるような、ならないような……」
「なに、あのメイドはなんなの? どういう目的で雇い入れたの?」
リュディの目つきが変わり、イライラとしている様子が伝わってくる。なぜ彼女はこんなに怒ってるのだろうか。
「や、雇ったと言うか、ダンジョンで拾ったというか」
「もういいわ」
話すだけ無駄、とばかりに彼女はこの場を離れる。俺は慌てて彼女の後ろをついて行った。
「ごきげんよう、それで、どちら様でしょうか」
リュディはまるで威嚇するように鋭い目つきで、ななみに問う。俺が割って入ろうとするも、リュディの射るような視線が一瞬こちらを向いたせいで、足は動かなかった。あの目は肉食獣のソレだ。
「お初にお目にかかります。わたくしこの度、瀧音幸助様のメイドとなりました、ななみと申します」
「ななみさんですね。リュディヴィーヌと申します。さて、どういった目的でコレとお近づきになっているのでしょうか?」
俺がコレ扱いされているのだが、恐くて何も口出しできない。でも追及されているななみは朗らかな笑顔を浮かべていた。
「奥様のご懸念も察せられますが、それは無いと申し上げます」
「へぇ……無いねぇ…………って、お、お、お、奥様ぁ!?」
リュディは混乱している。なるほど、リュディを混乱させる作戦か。
目を丸くしたままのリュディにななみは淡々と話を続ける。この調子だとリュディは言いくるめられそうだ。
「私はご主人様のメイドとして誠心誠意お仕え致しますし、もちろんご主人様に不利益な行動を取ることもございません。もちろんそれは奥様に対しても同様でございます」
「ちょっと待ちなさい、誰が奥様ですって!?」
リュディの口調が、素に戻っている。相当『奥様』呼ばわりに驚いたのだろう。俺も驚いているが。
「ご主人様も世界で一番信頼していると仰ってましたし、非常に仲むつまじく見えるので……」
と言われ言葉の意味を考える。
「まあ、確かに一番信頼している人だな」
先輩や姉さんと並んでいるが、心から信頼できる人の一人である。
「う、うそ」
顔をほんのりと赤らめながら狼狽し、辺りをきょろきょろ見渡す。そして俺と目が合うと彼女はタコを熱湯に浸したかのように、真っ赤に染まる。そして彼女は顔を背けると、早歩きでこの場を去って行った。
「なんであんなに赤くなるのか……」
俺がそう呟くとななみは「えっ」っと反応し、ため息をついた。ななみが何かを言おうとしていたが、部屋のドアが開く音でそれは潰えた。
いつもよりどことなく気怠げな姉さんだが、ななみと見つめ合うと目がぱっちり開く。そして俺の方へ顔が向く。
「……欲求不満?」
「他にも言うことあると思うんですが」
ななみを見た第一声がそれか。デリヘル嬢がコスプレしてるとでも勘違いしたのだろうか。そもそも自分以外に女性しか住んでいない家に、デリヘルなんてよばない。
「メイド服なら私が着るよ?」
それでもないんだよなぁ。でも姉さんのメイド服姿は是非見たい。デカい。
と俺と姉さんが斜め上の会話をしていると、ななみが話に割ってはいってくる。
「お初にお目にかかります。私は瀧音幸助様のメイド、ななみと申します」
姉さんは一瞬ななみに顔を向けるも、すぐに俺に戻した。
「メイドプレイならわたしがするよ?」
「是非お願……いやそうではないんだ。普通にメイドとして雇いたいんだ」
え、信じられないとばかりに眉を顰める。とはいっても姉さんに慣れた俺だから分かるほど微量な反応だが。
「反対」
「ね、姉さん、あのさ」
「反対、必要ない」
姉さんは間髪入れずに拒否をする。そして俺の腕を掴むと、姉さんの横に引き寄せられた。そして俺は姉さんの脇まで引っぱられると、頭に腕を絡められる。姉さんの手は少しひんやりしていて、姉さんが好んで使っているボディソープの香りが、鼻から入り込んでくる。また姉さんはダンジョン攻略やらで汚れた頭を優しくなでてくれた。
それを見ていたななみは、さっきも見たような朗らか笑顔を浮かべると、
「ご安心ください、奥様」
と、スカートの端を持つとそれはもう上品にカーテシー(お辞儀の一種)を行った。
「私はご主人様のメイドとして誠心誠意お仕え致しますし、もちろんご主人様に不利益な行動を取ることもございません。もちろんそれは奥様に対しても同様でございます」
つい先ほど聞いたような言葉だ。まあリュディはそれで撃退したようだけど、姉さんは結構な人嫌いだ。基本はクラリスさんしかメイドがいないこの家だ、姉さんが許可するとは到底思え……。
「こうすけ」
頭から手を離し俺の肩に手を置くと、ふんすと息を吐く。
「素晴らしいメイド。よくみつけた。是非雇うべき」
「俺は最近姉さんが分からなくなってきたよ」
許可するなんて到底思えないはずだったんだけどなぁ。急転直下で円満解決したわ。
「奥様、よろしければお名前を頂戴してもよろしいでしょうか」
「花邑はつみ」
「はつみ奥様ですね。これからよろしくお願い致します」
さて、とななみは一端話を区切る。
「ご主人様。そろそろ夕食に致しましょう。奥様はお食事は取られましたか? 食材さえ頂ければフレンチ、イタリアン、和食、中華どれも料理可能でございます」
「まだ皆食べてない。でも今日はお寿司を頼んでいるからいい」
今日は寿司らしい。
「承知いたしました。ではそれまでに私の寝床を確保したいのですが……」
「部屋はたくさん余ってる」
ななみは首を振る。
「いえ、そんな大層な物をご用意していただかなくても構いません。ご主人様の押し入れにでも入れていただければ」
君はネコ型ロボットかな?
「それはなんて魅力的な部屋」
その感性はおかしいよね姉さん。昔の俺からしたら、贅の限りを尽くした部屋に住んでいるというのに、押し入れにどんな魅力を感じたのか小一時間問い詰めたい。
「では上半分をはつみ奥様が、下半分を私が……」
「そろそろツッコミ入れても良いかな? そもそも押し入れないからね、クローゼットだから」
押し入れは布団の収納を、クローゼットは服の収納を考えて設計されてるからね? 人が寝ることは想定されてないから。
「はぁ、仕方ありません。では奥様がご主人様のベッドの右側で、私が左側と言うことで」
「はっはっは、ななみは面白い事を言うなぁ」
「うん、とてもすばらしい」
「まさかの快諾っ?! そもそも部屋の話だったよな!」
俺の反応を見て、心底楽しそうにななみは微笑むと、
「ご主人様、さすがに冗談でございます」
そんなわけ無いじゃないですか、と小突いてくるので、俺も「全く、お前は何を言ってるんだ」と俺がななみの背を叩こうとしたときだった。
「えっ?」
姉さんは人生の終わりを察したかのような、絶望的な表情で絶句している。
「「ゑっ……!」」と俺とななみの声が重なる。姉さんの意思が分からず、言いあぐねていると
「幸助、その、さっきの件だけど……」
少し顔が赤いままのリュディがリビングに戻り、
「ただいまーかえったわよぉー。今日はお寿司よぉ!」
にっこにっこ上機嫌な毬乃さんが帰宅する。
こうしてこの場は混沌を迎えた。





