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マジカル★エクスプローラー エロゲの友人キャラに転生したけど、ゲーム知識使って自由に生きる  作者: 入栖
■2章 マジエロ★シンフォニー -美少女遊戯(エロゲ)学園の劣等生-
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57 ルイージャ先生②

「……だ、大丈夫ですかぁ」

 俺から数メートルほど離れた場所から、先生は声をかけてくる。


「大丈夫か、大丈夫でないかなら、身体的には大丈夫ですが、精神的には風前の灯火ですね……」

「ご、ごめんなさい。で、でもデータはある程度取れましたから……!」

「機械ぶっ壊れましたけどね」

 角と角の間からぷすぷすと煙を上げるその機械を見ながら、大きくため息をつく。


 エッロサイエンティストの作品は、やっぱりろくな物ではなかった。もしルイージャ先生が使用していたら、機械だけでなく俺の股間も爆発していたことだろう。


「それにしても……やはり外に魔力を出すことは出来なそうですね……」

「あれだけ吸われても、あれっぽっちしか出てかないんじゃ、例え無理に吸い出しても有用性に欠けますね」

 と俺はため息をつく。先生は顎に手を当て、逆にですが、と話を切り出した。


「あまり放出しないのに、よくあれだけの魔力を内包出来ていますよね?」

「確かに、この身体で収まっているのが不思議なくらいですね」


「一般とは内包量が違うのではなくて、根本的に違う場所に保持されている? だとしたらはつみが提言する魔力の異次元蔓延論と異次元保存論の信憑性が増すわ。しかしそれだとファウストが提唱しいくつかの学者が一部を証明をしている微粒子魔力論によって出来ている魔素が……」

 と、ぶつぶつ何かをつぶやく。


「それらは案外どちらも正なのかも知れないですね」

 と俺は適当に呟くと

「それを証明すれば、歴史的大発見になりますよぉ……」

 と真剣な表情でそう返された。


 まあそこらへんは俺の専門外だから何も言えないが。まあ、それは後で考えてもらおう。

 ぽんと肩に手を乗せ

「じゃ先生。約束、守ってもらえますよね?」


 と笑顔で言う。油を差していない機械のようにギギギと顔を動かすと、

「話さなきゃダメですか?」

 そう言った。もちろん。

「ダメです」


 先生は観念したように地べたに正座すると(俺は何も言っていないのに勝手に正座した)、服の裾を握りしめながら語り出した。

 想像出来ていたが、大本の原因は金だった。


 先生曰わく、なんだかいろんな借金やら税金やらでお金がなくなってしまい、エッチな店でアルバイトを始めようとしていたのをエッロサイエンティストに知られてしまったらしい。黙って貰う代わりに言うことを聞く体で、今回の惨状が起きてしまったとか(なんでもするって言ってしまったようだ)。


 まあエッロサイエンティストの被害を受けたのは主に俺だが。


「てか、実はだまされていて、税金も借金も払いすぎだったりするんじゃないですか?」

 簡単に聞いた程度だから断言できないが、日本だったら免除されそうなものも払っていそうなのだが。この世界はやはり日本と違うのだろうか? いや、でもこれは払いすぎだと思う。


「ええと、でも業者の人が……」

「ちゃんと契約書を確認したんですか?」

 と、先生に聞けば聞く程思うのだが、やはり払わなくて良い物を払っている気がする。むしろ勘違いして払うように誘導している奴すらいそうな気がする。あれほど信じやすい先生ならだますのもたやすいのだろうか。絶対金額膨らんでるよなぁ。


「どうしてこうなるまでほっといたんですか?」

「ええと…、そのですね」


「……アナタ何歳ですか? 社会に出て何年ですか?!」

「ひっ」

 半泣きの先生の顔を見て思わずため息をつく。そりゃ泣きたくもなるよなぁ。教え子にお金で説教されてるんだもん。

「す、すびばせん」


 正座したまま俯く先生に思わずため息をつく。そりゃゲームで大量に金を必要とするわけだ。ここまで知ってしまったし、最後まで責任持つかぁ。


「先生の家に案内してください」

「い、家って……ま、まさかぁこの弱みで私にナニかするつもりですかっ!?」

「……何か大きな勘違いをしているようですね」

「はわ、はわわわ、その……」


 めんどくせぇ!

「……家にある通帳とか借金の契約書とかもろもろ全部出してください!」

 俺はスマホを取り出すと、この世界で一番連絡を取り合っている人物を表示する。それは女性であり、子持ちの未亡人である。


「あ、毬乃さん? お願いがあるんだけど、ちょっと税理士と弁護士を紹介して欲しいんだ……」

 さすがの毬乃さんもその言葉には驚いたのだろう、ほえーと呆けた声を出していた。あなた何歳ですか。


--


 結論から言うとルイージャ先生の借金は、解決とまでは行かなかったがかなり減らすことが出来た。

 その金額は驚きだった。毬乃さんの紹介してくれた税理士さんは苦笑どころか、開いた口がふさがらなくなっていたし、俺はその金額で嘔吐を催すレベルだった。


 ルイージャ先生は「毎月払える安心返済計画で組んでくれた」なんて言っていたが、その返済計画もやばかったし、そもそもだまされていた。宝くじでも当てなければいずれ破綻する計画である。

「よく臓器を売らずに済んだものです」


 と弁護士が真顔で言っていたのが印象に残っている。ちなみに実力ある魔法使いの臓器はとても高い値で売れるらしい。ナニに使うんですかね。


 何個かヤバイとこがあったが、弁護士が出向く事である程度解決した。一カ所強面の兄さん達の所に俺が出向く必要があった(とても恐かった)が「花邑幸助です、花邑家は戦う準備が出来ています(法律&物理)」と言うだけで済んだ。さすが天下の花邑家である。ちなみに俺も相手も足を震わせるという不思議な絵面だった。


 弁護士達から報告を聞いた毬乃さんと俺は、彼らが退室した後に深いため息をついた。

「残った借金なんだけどね、花邑家で全額引き取ることにしたわ」

 毬乃さんは高そうな革張りの椅子に体を沈めると、冷めてしまったコーヒーを口につける。

「これ以上無く安心できる借金先ですね……」


 毬乃さん曰く、この全身アロマセラピー(借金持ちアラサー)は魔法使いとしては一応実力者らしい。

「全くもう……そこら辺の講師だったら、学園に被害が出る前に放逐していたわ」

「当然ですね……」


 学園としては当たり前の処置である。もしであるが、ルイージャ先生がツクヨミ学園講師という社会的地位と金を稼ぐ可能性を失えば、その先は……想像するまでもないな。

 それにしても、毬乃さんが一切ふざけることなく真面目に対応していたことから、この件のヤバさがうかがえる。あの姉さんの夜景ディナー(ご飯自体が夜景)でさえ、ボケをかますことが出来るって言うのに。


「あんなボロアパートに住んでいた理由がようやく分かったわ。すぐにウチ管轄のマンションに引っ越しさせて、変なのが上がり込まないようにしました。マンション代と借金は給料から引かせて貰います。格安で提供する予定だけれど、よっぽどの事をしない限り借金返済には10年かかるわね」

「まあ、当然ですね」


 あの金額が10年で返済できるまでになったのかぁ。良かったなぁ。それと先生のアパートだが、毬乃さんが言う程ぼろくはないと思う。そんな事言ったら上京したての俺も同じようなもんだ。まあ給料から考えれば、明らかに安アパートではあるか。


「それでねぇ、彼女の管理者が必要だと私は判断しました」

「まあ、当然ですね」


 あれだけのことをしといて、誰かの管理下に置かれないとか不安すぎる。何よりもだまされやすいからなぁ。お給料制じゃなくて、お小遣い制にした方が良いだろう。欲しいものは借り入れせずにお小遣いを貯めて買いなさい。


 渋い顔をしていた毬乃さんはにっこり笑うと、俺の肩に手をぽんと乗せる。

「じゃぁコウちゃん。借金の取り立てと管理は任せたわよ」


「当然ですね……………」

 そうだよな、やっぱり管理する人は彼女の近くにいる学園生であり、ゲームで幾度となく彼女にお世話になった真の紳士たる俺が……ゑ?


「……ゑ?」


「うん♪ そういうと思って名義を色々変えておいたから」

「まてまて、待ってください」


 思考が追いつかない。え、俺がアレ管理するの? 俺はあの学園の生徒で、アレは学園の先生だぞ?

「大丈夫、マンションの名義はコウちゃんにしといたから♪ もちろん建物全体ね」

「そっかぁ、それなら大丈夫ですね! ってなるわけねぇダルルォ!?」


 一部屋ならまだしも、あの高級マンション全部なんて数億どころじゃないぞ!? 前世の俺が一生かけたって稼げねぇぞ! てかね、それは今は置いといて良いよ。


「大丈夫、彼女は魔法使いとしてはすごく使えるわ。首を切るつもりは無いし、給料はしっかり払うから」

「あのですね、借金の心配ではなく倫理的な心配のほうが強いです!」


「そっちも大丈夫よぉ、コウちゃんに絶対服従を言い含めておいたし。覚悟は出来てますって言葉も出させたから」

「ほっ、それなら安心……じゃねぇよ! より危険になったじゃねーか!」

 出させたって、追い詰めてるよね? 金に物言わせて追い込んでねぇか?


「まあ、冗談は置いておいて、取り立てと管理は任せたわよ」

「そこを冗談だと言って欲しかった」

 一番重要なことが本当だったらしい。俺は体をソファーに埋めると、深くため息をついてコーヒーを口に含む。叫んだこともあり、喉がからからだ。


「そういえば、土曜日は皆で初心者ダンジョンに挑むんでしょう?」

「ああ、そうですね」


 リュディから真剣な顔で「どうして短期間で強くなったのよ」と聞かれたので、ありのまま「初心者ダンジョンで修行したんだよ」と話し「リュディも来るか?」と誘ったところ、呆けた顔で頷いたのだ。ちなみに水守先輩と姉さん、クラリスさんまでもが一緒に行くことになって驚いた。まあ別に良いんだけど。


「そのことでお願いがあるの」

「なんですか?」

「初心者ダンジョンに関するなんらかの秘密を幸助は知ったのよね、それを口外しないで欲しいの」


 俺は思わず顔をしかめる。


「毬乃さんは11層の事を知ってたんですか?」

「いいえ、知らないわ。そもそも11層なんて今初めて知ったもの。あそこは10層ではないのね」


 真顔でそう話す毬乃さんに、どう反応していいのか分からない。

 毬乃さんは11層の事を本当に知らなかったのだろうか? 分からない。分からないときは視点を変えよう。では知っていたとして、それを今この場で隠す必要があるだろうか? 利点は?


 個人的には無いと思う。


「……べらべら話すつもりもありませんでしたが、聞かれたら黙っていることもありませんでした。もし話して欲しくないなら話しませんが……なぜですか?」

 と俺が問うと毬乃さんは困ったような笑顔を浮かべ、


「申し訳ないけれど今は話せないの、いずれアナタとはつみには話すときが来るわ。そのときまで待っていてほしい」

 ……分からない。なぜ学園のトップたる毬乃さんが、今話せないのだろうか? どこかに確認を取らなければならない? だとすればそれは花邑本家? いや姉さんぐらいにだったら概要を伝えても良いのではないか?


「……分かりました」

 いろんな疑問が頭の中で噴出しているのに、出てきた言葉はそれだった。

「ゴメンね」


 それは本当に申し訳なさそうにそう言った。



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