55 学園図書館にて
午後授業なんてほとんど意義を見いだせない俺は、選べる選択肢は帰宅かダンジョンである。最低限必要な回数初心者ダンジョンに潜ったため、無理に行く必要は無い。むしろ学園外ダンジョンに挑戦するべきだ。
そうなれば真っ先に挑みたいダンジョンは、初回限定版に付属した追加パッチで解禁されるダンジョンと、「美味しそうな本達」の店舗特典に付属した追加パッチに入っているダンジョンか。
学園外ダンジョンへの挑戦可能時期は、ダンジョンの難易度によって異なる。店舗特典ダンジョンと初回限定版ダンジョンへは比較的早く行けるようになる。
逆に1周目ではどうやっても行けず、ゲーム2周目ならば入れるダンジョンも有る。
「ああ゛~。でも、そもそもなんだよなぁ……」
ぼそりと呟く。そしてここがまだ学園であることを思いだし、慌ててあたりを見る。
ぎりぎり午後授業時間という事もあり、学園図書館は閑散としている。俺の独り言は誰にも聞かれなかったようだ。今が昼休みだったり、午後授業が終わった後ならば、少し恥ずかしい思いをしたかも知れない。
俺は視線を資料に戻す。
俺が簡単に調べた限りでは、初回限定版、店舗特典、攻略本特典などの追加パッチで攻略が可能になるダンジョンの情報がほとんどない。姉さんや毬乃さんに確認が必要だが、これらのダンジョンは、発見すらされていない可能性がある。
しかし俺が強くなるにあたって重要な要素のダンジョンは、追加パッチにこそ多い。
であれば捜索と検証が必要か。
俺はダンジョンの資料をどけると、司書さんにこの辺り一帯の地図が無いか聞いてみる。良さそうな地図(しかもダンジョンの場所が簡単に記されている)をもらい、コピーの許可を取った。そしてコピー機の所を聞いて、向おうと思った時に一人の女性が目に入った。そして言葉が出そうなのを堪える。
それは狐耳を生やした女性だった。金色の髪の隙間からひょっこりと二つの耳が出ていて、腰辺りからは柔らかそうな尻尾が2本出ていた。彼女が地球に居ない種族「獣人」である事は一目瞭然である。
また着崩した制服に、羽織っている花柄のカーディガンは彼女がマジエロのサブヒロインであることを示していた。
(もういんのかよ!)
俺は動揺を隠しながら、視線を外しコピー機に向う。
狐耳の彼女は学園の図書館で会う事の出来るサブヒロインである。このマジエロは設定上「獣人は基本的に魔法が苦手」となっているため、魔法を主体とするツクヨミ魔法学園では、あまり登場しないし、学園でも滅多に見ない。神追加パッチと名高い、スサノオ武術学園パッチによって爆発的に数は増えるが。
ただ獣人でも魔法が得意な種族がいくつかある。代表例は狐族と狸族だ。彼女は狐族の一種で幻覚魔法や呪い系統が得意なキャラである。ゲームを低レベル攻略するならば、状態異常(麻痺、毒、火傷など)に出来たり、相手の能力を下げる呪い系統が非常に有用なため、パーティに入れた紳士も多い。何よりカワイイ。多分パーティに入れる一番の理由はカワイイからだろう。
俺もいろんな意味でお世話になった。
とはいえ、だ。彼女と仲良くなるためにはとある食べ物が必要である。一応用意しておこうかとも思ってはいたが、仲間になるのは最初のテストが終わってからだし、それまでに腐るだろうなと準備していない。そもそも瀧音がイベントを起こせるのだろうか。
伊織にそれを持たせてイベントを発生させるのもありだ。いくつかのダンジョンに潜る際、彼女の能力が非常に有用なため、俺も便乗して仲良くさせて貰おう。仲良くなったら尻尾触らせて貰おう。ダンジョンに来てくれなくて良いから、尻尾だけは触らせて欲しい(切実)。
いや、まてよ。
コピーを回収した俺はふと思う。別にゲーム通り進めなくても良いのではないか? すでにゲームからは外れた行動をしているし、今後ゲームと同じ展開にならないことが増えてくる。別に悪いことをするわけでもないし、声をかけてみるか?
でも、話すネタがない。何かあれば……。
と考え事をしていると
「あぁ、みぃつけたぁ!」
とはちみつを甘くしたような声が聞こえて後ろをふり向く。
「もぉう、どうして来てくれないの!?」
そこにいたのはストロベリーブロンドの小柄な女性だった。
「る、ルイージャ先生」
その女性は垂れ目と泣きぼくろが非常に可愛らしい上に、声まで最高なアロマセラピー先生だった。





