54 小テスト結果
「ぐぬぬっ」
カトリナは返却された俺の小テストと自分の小テストを見ながら、アニメキャラ以外は使いそうもない言葉を放つ。
確かに俺の苦手な教科ではある。しかし授業は真面目に受けているので(出席したときは)、あまりに低い点数は取ることはない。
リュディ曰わく「今回のテストは非常に簡単だった」らしいし、授業を真面目に聞いていれば10割も取れると仰っていた。半分しか取れなかった俺は何も言えない。カトリナは俺以上のヤバさだったらしいが。
ぷるぷる震えるカトリナの後ろから伊織が顔を出すと、彼は俺とカトリナの点数をのぞき込む。スマホ全盛期でもエロゲ店舗特典にテレホンカードがあることを知ったかのように、彼は驚いた表情をして、カトリナの顔を見て、もう一度点数を見た。二度見するほどかぁ……。
カトリナは少し苛立った様子で、俺の机にテストを叩きつけるように置く。
おい、そのテスト俺のなのだが。
「薄情者ぉ! 心の友設定はどこ行ったのよっ!」
俺は頬をかくことしか出来ない。
だってあんなに簡単なのに、あまりに低い点数なんて取りようないと思う。
学園ではお嬢様の皮を被っているリュディも(一応一国の姫様であるが)、美しい微笑が崩れ引きつった笑みを浮かべている。いまでこそそれで済んでいるが、カトリナの答案を見た瞬間のあの驚愕顔は忘れられない。
「なによっ、コイツの心配して損したわ! ちゃっかり安全圏の点数を取ってるじゃない!」
と、どかっと席に着く。そしてふてくされたかのように机に突っ伏した。
「えっ、心配してくれてたのか?」
と、本気で驚きながら、俺はカトリナにそう言う。そもそもカトリナと瀧音はゲームでは余り仲が良くない。ちなみにゲームの瀧音はエロ魔人のため、仲が良くないのは全て瀧音のせいであり、そうなるのは残当(残念だが当然)である。
リュディに至ってはそこら辺の羽虫扱いだったんだが、変わる物だ。
俺が言うとしまった、とばかりに顔を上げる。そしてクッと歯を食いしばって。ぷいっと顔を背けた。
「違うわ、アンタを心配していたんじゃなくて、アンタを馬鹿にする奴らの心の小ささを心配していたのよ」
なんて言うが、その言い訳はちょっとばかし無理があるだろ。
「わりいなぁ、ほら心配かけた詫びにコレやるから。ありがとうな」
と、ニヤニヤしながら言ってやった。そしてカトリナの好物であるチョコレートを机の上に置く。するとひったくるように取って、恨めしげに俺を見た。少し顔が赤いのは恥ずかしいせいか。
カトリナはすぐに封を切ると、俺のあげたチョコを口にくわえる。
俺は自分用に取っておいたチョコレートを取り出すと伊織とリュディに渡す。そして俺も食べようと思った時に、カトリナの後ろからオレンジ色の頭が見えた。
「よーっす。伊織、幸助。テストはどうだった?」
と、オレンジ頭がこちらに近づいてきた。
「まあ、お前よりかは高いな」
見ていないが、多分そうだろう。俺の点数は良いとは言えない。しかしオレンジより良い事は確信を持っている。時にはカトリナより低くて、島流し(と呼ばれる学習強化合宿)に行くこともある。ちなみにゲームでは瀧音も島流しされるし、そもそも瀧音は島流しの常連である。
俺はチョコレートをオレンジに投げると彼は器用に口でキャッチし、
「おいおい、見てもいねえのに何言ってんだコラ」
と、俺にテストを見せてきた。うん、やっぱり俺の方が高かった。
「幸助君はそこまで悪くはないよね……良いって訳でもないんだけど……」
と伊織はオレンジ頭の点数を確認する。この男三人で一番点数が高い伊織は、ちょっとだけ上から目線だ。
「まあ、一応授業は真面目に聞いているからな」
真面目に聞いていても、一部教科は0どころかある意味マイナススタートである。日本にいたころの知識のままだと、間違っている場合があるし。
「やっべぇ、俺が一番低いじゃん」
とオレンジは伊織の点数を見て肩を落とす。そして彼は起死回生とばかりにカトリナへ突撃していった。
「よっす加藤。点数見せてくれ」
なによ、と鋭い視線を送られるも、オレンジは意に介さない。オレンジは自分の点数を見せつける。それを恨めしそうに見るカトリナの構図を見て、この場で一番点数が低い奴が解明された。
震える手で出されたテストを見てオレンジは吹き出した。
「おまっ、この点数っっ、マジかっよっっ。ちょっっプププッホゲェ」
しかし、笑いは続かない。カトリナの容赦ないロシアンフックが炸裂し、彼は地面に勢いよくキスをした。
顎に入ったが大丈夫だろうか? 近頃、瀧音幸助の役割を、オレンジがやってるような気がするが……まあ気のせいと思っておこう。
プロボクサーも真っ青の拳を放ったカトリナは、
「これで勝ったと思わない事ね……」
と捨て台詞を残し、自分の席に座る。いろんな意味でアナタの勝利である。
伊織はぴくぴく動くオレンジを見ていたが、ほどなくして
「そういえば……そろそろ午後授業始まるし、移動しようか」
と、放置することに決めたらしい。化けて出られても困るので一応祈っておこう、南無。
助けを求める手を優しくふりほどくと、俺達は教室を出た。
ガラケー全盛期にテレカは廃るだろうと思っていたんですが……まさか今も生き残ってるとは。





