49 初心者ダンジョンRTA②
初心者ダンジョンでもらえるスキルは、ゲームと同じであれば五種類有る。俺に有用なのは三つあり、うち一つが今取れた高速思考だ。高速思考はステータス全体に上昇補正のかかる神スキルで、最強キャラを育成するなら必ず入手しなければならないスキルの一つだ。習得できないキャラはおらず、最終パーティにスキルを持たないものはいないと言っても過言ではない。
さて、初心者ダンジョンRTA二周目に貰ったスキルは、スタミナ増強(小)である。ゲームにおいてその効果はほとんど無く、体力が少し上がるぐらいだった。正直戦闘だけで言えば無くて良い。ただ夜に多い美少女ゲーム特有のシーンには、非常に有用である。それは一定以上のスタミナが無いと攻略出来ないヒロインがいたため、そのヒロイン用に入手する紳士は多かったはずだ。
しかしゲームが現実になってしまったこの世界において、超有益スキルに化けているのではないかと、俺は踏んでいる。
「走れる距離がどれだけ増えてるか、後で調べないとな」
タイムを確認したところ、百十分ほどかかっていた。二周目だから少し疲れていたからだろうか。前回より落ちている。
「もうすぐ昼だし、メシ食って……それからダンジョンに潜りますかっ!」
目的のスキルが二連続で手に入ったこともあり、意気揚々と食堂へ向かう。
昼食は、毬乃さんが忙しくないとき(滅多にない)であれば、お弁当が用意されることがある。しかし基本は購買での購入や食堂での昼食が多い。ここ最近は魔族が出現したことで毬乃さんはもとより、姉さんも忙しそうにしていた。
「午前中に瀧音君は何してたの?」
「ナニって、おいおい、言わせるなよっ!」
真面目に授業を受けていた伊織と合流し、ツクヨミトラベラー(ツクヨミ学園で利用できる総合情報端末)で予約、そして支払い済みの定食を受け取る。伊織もツクヨミトラベラーで予約していたようで、すぐに受け取っていた。
「はあ……」
俺の下品なジョークに伊織は呆れ、ため息をつく。初心者ダンジョン十一階層についての情報がどうなって居るかを知らないため、関連する何かしらを口外するつもりはなかった。何を言われてもごまかすつもりだったが、追及はなさそうだ。
ふと彼の昼食を見てみると、いつもより豪華(値段が少し高い)な食事が置かれている。
「お、定食のランクが上がったな!」
「ああ、以前の魔族討伐でツクヨミポイントがたくさんもらえたんだ。ほとんどモニカ会長のおかげで討伐できたんだけどね」
ツクヨミポイントはこのツクヨミ学園で使えるお金みたいな物である。このポイントはダンジョンで得たアイテムや魔石などを、学園が買い取ったときに付与される。またダンジョンを初回攻略した時や、記録的な攻略を行った者、研究で成果を残した人などにもポイントが付与される。俺も十階層を初見攻略した事で、一年生にしては少なくないポイントが付与されていた。
「だから豪華なんだな」
ちょっともったいないような気がするが、まあ食事のポイントは誤差の範囲か。
ちなみに俺はツクヨミポイントではなく、毬乃さんがチャージしてくれていたお金(ポイントとは別で管理される)で払った。チャージされた金額は一番高い定食が数千回注文できる位の金額だ。ちなみに一年分らしい。いや、絶対使い切れないよね?
ちなみに現金を直接ツクヨミポイントに替えることは出来ないらしい。ただ、魔具を購入してツクヨミポイントに変換することは出来るとのこと。ゲームでは基本ツクヨミポイントしか使わなかったから、現金が使えると知って驚いたものだ。
「瀧音君はいつ見ても豪華だよね……」
まあ、それは生まれの差だと思って諦めて欲しい。今思えば、金とか権力がある生徒が優遇されるシステムだよな。言われて見れば、学園上位に居る生徒の親は貴族や大商人なんかが多い気がする。
「育ち盛りだからな」
あえて意味不明なことを言ってごまかす作戦に出る。まあ毬乃さん(保護者)から貰ったと言っても良いんだが、説明の過程で実の両親が亡くなった話をして、空気を重くする必要も無いだろう。一番の理由は説明がめんどいに尽きるのだが。さっさと話を変えよう。
「そういや授業はどうだった?」
「うーん。どう説明すれば良いのかな……? 普通だった? あ、そういえばだけどね」
「そういえば?」
伊織は食事の手を止め、言いづらそうに口をもごもごさせる。
「その、ね。一部の人が瀧音君の悪口を言ってたから……」
「あぁ、まあ察せれるよ。おおかたリュディのことだろ?」
ゲームでは感じられない物で、現実で異様に感じる物の一つに視線や敵意がある。
リュディはLLLという近衛騎士隊が有るくらいで、学園内の人気は凄まじい。それなりに仲の良い俺はそれはもう目の敵にされている。リュディが基本心を開かず(特に男に対して)、お上品ながらも素っ気なく振る舞うのに、なぜか俺とはよく話しているからというのもあるだろう。
いやまあ、あんなことがあったから仕方ないのかもしれないが。
だからか学園の新入生、上級生問わず、羨望の視線から怨嗟のこもった視線に、果ては魔力をぶつけられることすらある。
「それもあるけどね……今日みたいにサボることもあるし、午後授業にはほぼ出ないし……劣等生だなんて言う人もいて……」
そこら辺はまごう事なき真実だ。
「まあ、確かにそれはその通りだな」
弁明のしようがなく、甘んじて受け入れるべき評価である。座学ですら惨いものもあるからな。特に歴史。「なぜ織田信長や上杉謙信を男にしてるんだ!」と教師に注意されたときは言葉にならない感情が胸の中に生まれたよ。今なら言える。KNEG?
「それから発展して、風紀を乱すアイツは追い出すべきだ、なんて声も聞こえて……見たところLLL所属の人なんだけど……」
なるほど、リュディと仲よさそうにしている俺を、あわよくば追い出したい、という事だな?
まあ、追い出されたところで、リュディがその人になびくとは到底思えないのだが……実害はないしほっとくのが吉か。
「そうか、すまんな。いやな気分になっただろ?」
「いや、僕より瀧音君が……」
こういったやっかみなんかは、スクールカースト上位にいれば、自ずと防げる物なのだが……。今回ばかしは劣等生を否定できないし、授業サボってるし、まだクラスメート皆と仲良くなってるわけではない。女子とは全員それなりに話せるようになったが。てかなんでゲームやアニメのモブってカワイイ奴多いんだろ? ヒロイン級のヤツすらいるぞ。
そもそもリュディに対する嫉妬なんかは、クラスどころの騒ぎではなくて学園全体の話だ。学園内である程度の権力を持たない限り、それを防ぐのは無理なのかもしれない。
「なぁに、俺は気にしちゃあいねぇ。俺はこの学園で最強になる男だからな。これくらいの逆境なんて屁でもないさ」
「そっか……その、瀧音君は強いね」
「おう、最強だからな」
何言ってるんだよ、とばかりに伊織がクスリと笑う。彼は真面目に俺のことを心配してくれているらしい。
ゲームをプレイしているころから思ってはいたが、主人公はタイヘン良い奴だ。もしコイツが女でエロゲのヒロインだったら、顔がどうであれ数居る嫁の一人になっていたであろう。





