38 三会
学園に到着して真っ先にされたことは、カトリナに謝られたことである。
気にするなと言っておいたが、
「いやでも、思いっきり攻撃入れちゃったし」
と、申し訳なさそうな顔をしっぱなしだ。その、な。真剣勝負に勝って謝るって、相手に対する貶しだぞ、と後で教えてやろう。
「アレは俺が悪いから気にするな」
「そうですわね、前回はどう考えても瀧音君が諸悪の根源だったわ。セクハラよ」
とリュディがフォローのようなボディブローを入れてくれる。まあ気にしているで有ろう胸について本音を漏らしてしまった俺が悪いのだ。
ふと思ったが、逆に胸をネタにすれば、彼女の気は紛れるのではないか? まあ俺の評価は下がるだろうが、あんな微妙な顔をされ続けるよりはずっといいだろう。
「そうだぜ、元は俺がお前のまな板……ヒェッ」
圧倒的眼光。一瞬で体が縮こまり、まるで超高層ビルから地面を見ていたときのような感覚に陥った。
「なんか心配して損したわ……」
「ははっ、わりぃわりぃ!」
そうそう、彼女は瀧音に対して下等生物を見るような感じで良いんだよ。なんか俺も、その、不思議とドキドキするし(いろんな意味で)。
「幸助君……本当に大丈夫?」
伊織、お前いたのか! そういえば日常パートではよく喋るやつではないもんなぁ。でも女の子と二人きりになると饒舌だよな。
「大丈夫だって、それよりも今日は一時限目から移動だろ? 行こうぜ!」
と俺は3人を促す。そして必要な荷物を持ち、教室を後にした。
そのまま4人で歩いていると、不意に前を歩いていたリュディとカトリナが足を止める。
「ん、何? すすめないんだけど?」
「確かに凄い人混みですね……なぜかしら」
普段はここまで人だかりが出来ることはない。皆すぐに目的地に移動(転移)してしまうからだ。
俺は野次馬根性よろしく、人混みをかき分けその中心に居る人物を見つめる。ああ、あのイベントかと納得した。
俺は切り開いた道を少し戻り、リュディ達を手招きする。すると一部の生徒がむっとしたが、リュディを見てすぐにその表情を引っ込めた。むしろ率先して場所を確保し始める。多分彼らはLLLのメンバーだ。
俺はリュディ達をよく見えるところに案内すると、顎であっちを見ろと誘導する。
そこには生徒会長であり三強の一人でもあるメインヒロイン、モニカ・メルツェーデス・フォン・メビウスと風紀会会長であり現聖女でもあるヒロイン、ステファーニア・スカリオーネがそろっていた。
「生徒会長と聖女様だ! 三会トップの二人がここに居るぞ」
「ああ、お美しい」
野次馬学園生達はなにやらそんな事を話している。俺は何があったかを隣の彼に聞くと教えてくれた。
「ああ、魔法が飛び交う程のケンカがあってね。それをたまたま通りかかった生徒会長と聖女様が解決してくださったのさ」
さて、これで間違いない。これは主人公がこれから先のシナリオに大きく絡む三会と、メインヒロインに初遭遇するイベントだ。たしか三会について主人公達はよく知らないはずだったから、教えといてやらなければならないだろう。
それにしても一人足りなくないだろうか。男キャラの中では人気のある、式部会のべニート卿が見当たらない。この場面では三人そろわなかっただろうか? いや三人そろっていた気がするんだが。
と考えていると、噂の彼がこちらに歩いてくるのが見えた。また隣には和服を着た女性が歩いている。彼らが生徒会長達の所へ歩いて行くと、ふさがっていた通路がモーセのように別れ、道を作る。つかベニート卿が会長職(式部卿)であるはずなのに、和服が異彩を放つせいで、副会長職(式部大輔)の彼女の方が目立ってる。さすがマジエロ1、2を争う着崩し女。もはや彼女には制服の影も形もない。
「やあ、どうしたんだい? 生徒会長に風紀会長がそろい踏みで」
と、彼の登場で場の空気が変わる。一年生はクエスチョンマークだったが、二、三年は彼に怒りの視線を向けていた。
前の男性は舌打ちし、その隣の男性はクソニートかよ、だなんて言っている。またその近くに居た女性はベニート卿と一緒に現れた女性に怒気を向けていた。
「あら、ベニート君」
「こんにちは、ベニートさん」
「何があったのかな? 凄い人だかりじゃないか」
ベニートはそう言って辺りを見回す。一瞬こちらで視線が止まったような気がしたが、多分リュディでだろうな。
「ちょっとした諍いから始まった、魔法を使っての喧嘩がおこりまして」
「たまたま居合わせた私と、ステフで解決したってわけ」
そう言ってモニカ生徒会長は肩をすくめる。
「なるほどね。それでこの騒ぎか……」
と、ベニートは辺りを見回す。そしてフッと笑うと
「なんだか時間の無駄だよね。僕は疑問だよ。どうして学園は問題児や劣等生を退学させないんだろうって。本当に目障りだ。もう目に付かないよう、田舎に帰って二度とでないでほしいものだよ。僕たちエリートの貴重な時間を潰さないでほしい。ここで野次馬しているのにも目障り君が何人居るだろうか?」
と、彼が言うと生徒会長達の雰囲気が変わる。
「あら、ベニート君、今なんて言ったかな? 失言ってあるわよね、撤回する予定は?」
「そうですね。お言葉が過ぎますよ?」
「ないね。君らだって思うだろう! こーんな才能なしの問題児なんてさっさと退学させれば良いのにってね。学もない、魔法も出来ない、何より家柄が悪い。もうどうしようもないね!」
「そうじゃの、ベニート卿の言うとおりじゃ。下々の猿なぞ切り捨てればよいからに」
「あらあら、ベニートさんに紫苑さん。謝罪してください」
と、先ほどからまともなことを言う聖女を見て、思わず笑いがこみ上げてくる。現在ここに居る主要キャラクターの中で一番性格が腐ってるのはお前だろうに。
それを聞いてベニートは悪びれもせず、むしろ笑いを深めた。
「ははは、はーはっはっは。本当のことを言ったまでだろう?」
と、ベニートが言うと、近くに居たつんつん頭の男子生徒が目をつり上げてベニートの元に歩みを進める。つんつん頭の彼は「おいクソニート」と切り出し、言い争いを始めた。
そんな彼らの様子を遠巻きに見ていた男性らは、ぼそぼそ何かを話し始める。
「ちっ。むかつくけど、ニートの実力は本物なんだよな」
「式部会のメンバーはすでに全員60層攻略したらしいぜ」
「まじかよ、普段あんなに遊んでるってのに?!」
「真面目にやってるのがばからしくなるよなぁ。やっぱ才能なのかな?」
と彼らの会話を聞きながしていると、不意に肩を叩かれる。
叩いたのはリュディだった。
「ねえ、あの人達って誰かしら。生徒会長は存じ上げておりますがあとのお二方が……それに三会と言うのも分かれば教えて欲しいのですが」
「なんだ、知らないのか。ってもしかして伊織もカトリナも知らないのか?」
と聞いてみる。無論知らないだろうなぁ、だってゲームでは俺がここで説明するんだからな。
案の定、伊織達は知らないようだった。俺は小さく咳払いをして話し始めた。





