33 魔法学園③
マジカル★エクスプローラーにおいて瀧音幸助は劣等生である。
彼は遠距離魔法が使えない、なんて大きな欠点があるから劣等生。というわけではない。他のラノベ作品なんかによくある設定で、『皆が使える魔法が使えないからお前劣等生(笑)』みたいなのがあるが、この世界はそんな事は無い。認められるべき事は認められるからだ。例え魔法が使えなくても、特殊な魔具が開発できれば学園から表彰され、教師として雇われる。
ではなぜ瀧音幸助は劣等生扱いだったか。それは単純に脳筋(脳みそまで筋肉)で学力が低いからである。また脳エロ(脳みそまでエロス)でもある。
「やっべぇな」
どうやら俺はゲームと同じように劣等生の可能性がある。ちなみに脳エロは否定どころか自覚している。
「さっぱり分からない」
基礎数学、語学はなぜか現代日本と変わりがない物であったため、こんなのあったなと進められていた。しかし魔法に関する知識や歴史に関しては、俺の頭は中学生どころか小学生レベルであるようだ。むしろ小学生以下の無知なんて箇所もある。
「どうかされまして?」
目の前に座るリュディが声をかけてくる。元々高貴な身分のため、口調が丁寧でも違和感がないはずなのだが……最近は砕けた口調だったせいかコレじゃない感はんぱない。自分以外はしっくりくるんだろうが。
「いや、自分の学力の無さに愕然としていただけだ」
と言うか歴史がヤバイ。何がやばいかって戦国武将の半分以上が女体化してるってのがヤバイ。まるでスマホゲームの世界に迷い込んだ気分になる。いや、それ以上に混沌と化してるエロゲに迷いこんでしまったんだったな!
「へぇ」
と、にやりと笑みを浮かべながら俺を見つめるリュディ。何を考えているか分からないが、なんとなく良いことではなさそうな気がする。多分それの否定は出来ないだろう。しかし俺には奥の手がある。
「まあ、姉さんも居るしなんとかなるだろう」
自宅に教師がいるという幸運に感謝して、しっかり利用させて貰おう。姉さんは快く引き受けてくれる事を信じてる。
そういえば、と主人公である伊織とメインヒロインであるカトリナ(加藤里菜)に視線を向ける。
伊織は「え、どうしたの?」なんて視線を送ってきた。どうやら勉学にさほど問題は無いらしい。設定では初期学力は普通って事になっていたから、とくに問題は無いのだろう。
しかしカトリナは別だ。公式が映されているディスプレイを見て、まるで蛇に睨まれたカエルのように微動だにしない。
「どうやら伊織は俺の味方ではなかったようだ」
「えっ、いきなりどうしたの」
「俺の心の友はカトリナのようだ」
と言うとカトリナは「はぁ……?」と半分魂が抜けた状態で返事をする。
「カトリナって……まあべつにいいケド。心の友ってなによ?」
カトリナ呼ばわりは別に良いようだ。正直いつもそう呼んでいたから、許可いただけるのはありがたい。
「もし赤点を取るときは一緒だぞ!」
俺はカトリナの肩を叩き、頷きながらそう言った。
「なっ、あたしは取らないわよっ! 確かに頭のできが少し悪いことは認めるケド」
だんだんと声が小さくなっていくカトリナ。てか彼女の場合少しどころじゃないんだよなぁ。
「しかし俺達にも救いはある!」
「ねえ、アンタ……瀧音幸助つった? アタシの話聞いてないわよね?」
俺は後ろにいたリュディの背を軽く叩く。
「ここにおわすリュディヴィーヌさんに教えを請おうじゃないか。大丈夫だ、彼女は俺達とはできが違う! コレで安泰だ」
「やっぱりアンタ聞いてないわよね? さりげなくアタシのこともバカって言ってるわよね?」
「わたくしは教えることが確定しているのですね、まあカトリナさんに教えるのは構いませんが……」
俺はダメなのかよ。まあ、別に本当に教えを請おうと思って居たわけではないから、別に構わない。本当の目的は、リュディがカトリナとさっさと仲良くなって貰う事だ。この二人と、サブヒロインによって引き起こされるイベントの一つは伊織にとって有用だ。俺にとってはいろんな意味で害悪だが。
さて、場を無理矢理作ったため、いきなり仲良くなるのは難しいと思っていた。しかしその考えとは裏腹に、彼女達はすぐに打ち解けていった。すでにおそるおそるの会話から少し気軽な感じの会話に変わっている。それはカトリナがざっくばらんな人間であるのも理由の一つだろう。とても話しやすいのだ。正直言えば俺も彼女と話すのは楽だし結構楽しい。うてば響く(ボケればしっかり返してくれる)奴だからな。
まあ仲良く話していると言っても、リュディの口調は相変わらずお嬢様だ。いずれ取り繕わなくなる日も来るだろう。
後は……と伊織を見つめる。
ん? と可愛らしい声を上げる彼は机の荷物を片付けており、移動教室の準備を始めていた。物語の主人公のクセして、なんとも頼りない奴である。エロゲにはそんな奴はごまんといるが。
さて、適当に強者と引き合わせよう。気がつけば勝手に強くなっていることだろう。





