31 魔法学園
入学式と学校案内を終え、授業概要などを簡単に説明されると、入学一日目の学園は終わりだった。初日だからこんなものなのだろう。
今回不安視していた、広大な学園で迷子になってしまう可能性は低そうだった。移動はもっぱら転移魔法陣で、余計なところへ歩いて行かなければ迷う可能性はない。もっともゲーム主人公である伊織には、ヒロインと出会うために迷って貰わなければならないのだが。むしろ必ず押しつけたいサブヒロインが居るため迷わせる。
また、幾人かと話して分かった事であるが、どうやら俺は少し近寄りがたい雰囲気があるらしい。どうも俺の服装やら態度が自由過ぎるのが原因だとか。
「じゃあね、ニコレッタさんにマックス君、ユリアーナさん」
ニコレッタさんとマックス君には普通に話せるようになったが、ユリアーナさんはまだ少しよそよそしさがある。まあ日本人だった頃の経験則から言えば、話してるうちに慣れるだろう。むしろユリアーナさんのように少しオドオドした人の方が、一度仲良くなった後に深い関係になりやすいと思う。だが、ここはマジエロだ。そうそう上手くいくかは分からないが。
帰ると言っていたリュディ達と合流し、イベント盛りだくさんの桜道を歩いて行く。
「今日って……初日よね、仲良くなるの早くない?」
自分と迎えに来たクラリスさんしかいないためか、被っていた猫は捨て去ったらしい。ただ褒めてるのか、拗ねてるのか、羨んでいるのか判断が付かない微妙な言葉をいただいてしまった。
「まだ挨拶程度の仲だよ。いずれもう少し仲良くなりたいな。まあ目標はクラス全員の連絡先を知るまでだけど」
知ってると何かあったときに便利なんだよな。ただ今後学園祭の打ち上げとかがあると幹事役にされやすいのと、みんなを呼び出すときに使われるが。いや、今はグループ全員にメッセージを送れるから、さっさとクラス内グループを作って……いや、絶対連絡先教えたくないなんて奴が出るかもしれないし、掲示板みたいなのを作るのが一番良いのか。
「私には難しそうだわ……信頼出来そうな人は見つかるかしら……」
どこか弱気なリュディだが……そういえば彼女は信じていた仲間エルフ男(名前忘れた)に裏切られているんだった。
「おいおい、俺はリュディを信頼してるぞ?」
「分かってるわよ、アンタのことは……私も信頼してるし。アンタ以外にってことよ」
ふむ。ならばさっさと信頼できそうな人と仲良くなって紹介すべきか。いや、記憶が確かなら、女生徒限定ではあるが仲良い人物は勝手に出来るはずだ。また一学年上だが、水守雪音先輩と邂逅しているし、現時点で言っても信頼できる人はゼロではない。
家に到着するとリュディの連れてきたらしいメイド(エルフ美女)が出迎えてくれた。どうやら毬乃さん達はまだ学園で仕事をしているようだ。
俺は動きやすい服に着替えると、明日使う荷物を今のうちに準備する。そして窓の先に見える雲一つ無い空をぼうっと見つめていたが、なんとなく外に出ないのはもったいない気がして、普段より少し早いがランニングに行くことにした。
走りやすいとは言えない坂道を登り滝の裏まで走るも、先輩はその場に居なかった。俺はそのまま滝から引き返し、走りやすいランニングコースへ戻る。
何十周走っただろうか。くたくたになった頃、滝のところで型の訓練をしようと戻ると、先輩は薙刀を振っていた。俺は邪魔にならないよう、少し離れたところで第三、第四の手の訓練をした。
「学園初日はどうだった?」
訓練を終えストールのベンチに横になっていると、先輩が声をかけてくる。肌に張り付いた髪を鬱陶しそうに払うと、肌をタオルで拭いていた。
「まあ……遅刻しました」
「おいおい、寝坊か?」
「いえいえ、人助けですよ人助け。もし先輩の目の前に困っている人が居たら助けるでしょう?」
美少女だったらなおさらだ。残念だが今回はお歳を召した男性であったが。顎に手を当て、ふむと先輩はうなずく。
「そうとも限らないのではないか?」
「先輩は絶対にそうです。というより現に俺が色々助けられましたし」
水守先輩の正義感は、マジエロキャラの中でも非常に高いだろう。ただ一番は誰がどう見てもくっころ騎士だろうが。
「それにしてもびっくりしましたよ。学園の施設充実しすぎじゃありませんか?」
第一魔法訓練場、第二魔法訓練場、第三魔法訓練場、体育館、第二体育館、第一武道館、第二武道館、第三武道館、そして全校生徒を簡単に収容できる円形闘技場。さらにこの学園の特色とも言える三つのダンジョン。またいくつもある研究室では、学園生だけでなく研究員もいるとか。
「まあ学園を卒業しても、研究室やダンジョンや転移魔方陣の関係上、学園に来る者は多いからな。私も進路によっては卒業してもここに来るかもしれない」
むしろここに来ない可能性の方が低いくらいだ、と先輩は笑う。確かにこの環境はすばらしいの一言だ。
「なるほど……卒業と言えば、先輩はダンジョン攻略は順調なんですか」
「ああ、このペースならすぐにでも卒業資格を得る階層まで潜れるだろう。ただ、学園最速記録は難しいだろうな」
「そうですね、最速記録は俺がなりますし」
先輩は汗を拭きながらにやりと笑う。
「君も言うじゃないか。私は期待しているぞ」
そう言って俺の背中をドンと叩く。先輩は信じてなさそうだけど、冗談で言ってるわけではないんだがな。





