表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マジカル★エクスプローラー エロゲの友人キャラに転生したけど、ゲーム知識使って自由に生きる  作者: 入栖
■1章 マジエロ★プレリュード -エロゲの友人枠は大体が不遇である-
25/172

25 贈与魔法

「うぉぉぉぉお」

 俺が木刀を振り下ろすも、クラリスさんはひるむどころか一歩前に進みながら、大きく払われる。そして大きく払った勢いのまま一回転し、魔力で強化された剛脚で回し蹴りをしてきた。

「フッ」

 俺はすぐさま第三の手で彼女の蹴りから身を守る。


 そのまま足を掴んでしまおうか、なんて思ったがそれは無理そうだ。蹴りの威力があまりにも強く、踏ん張ることで精一杯だった。そもそもその場にとどまりきれず、スライディングしたかのように地面に痕が出来た。


「そんなに華奢なのに、どうしてそんな威力でるんだよ……」

 これは水守雪音先輩にも同じ事が言えるか。

「風ノ精霊ヨ……」

 まずいっ。

 詠唱を始めたクラリスさんを見て、すぐさま距離を詰めようと足を動かす。しかしクラリスさんの詠唱を止めることは出来なかった。


「ウインドストーム」

 まるで超大型台風の瞬間最大風速をそのままぶち当てられたかのように、体がふわりと浮かびあがりそうになる。

「うわぁぁぁ、飛ぶ……飛ぶぅぅぅ」


 俺は第四の手を硬化し、地面に突き立てる。そうしてなんとか吹き飛ばされるのを耐えた。しかし。

「なんも見えねぇ……」

 風は辺りの砂塵を巻き上げ、数メートル先も見えない程の視界不良を作りあげた。


 どこから攻撃が来るだろうか?


 吹き飛ばされないよう第四の手を突き立てているせいで、ストール盾の面積が半分ほどしか広げられない。今、死角を突かれたら守れない。


 『後』と見せかけて『前』と見せかけて『後』に来る。もし前から来てしまったら……剣で防御。

 そう決めれば俺は盾を後ろに展開する。そして剣を構えた。


 風が止む前にクラリスさんは攻めてきた。

「前かよっ……!」

 俺が中段に構えていた剣は弾かれ、今度は蹴りを食らった。


 地面をごろごろと転がる。こちらも身体強化しているためダメージを軽減出来ているはず、なのだが……。

「お、ぉぉぉおおおろ……」

 地面に横になりながらクラリスさんを見つめる。ああ、ご飯を戻してしまいそうだ。


「これまで……ですね」

 クラリスさんはこちらに駆け寄ってくると、すぐに背中をさすってくれた。

「やっぱり遠距離の魔法は卑怯ですね……」


 と俺が呟くとクラリスさんは苦笑いを浮かべた。

「私からすればそのストールが卑怯なのですが…………並の剣士は最初の蹴りで終わってますよ」

 と俺のストールを見つめる。時間経過によって少し余裕が出てきた俺は、ストールに魔力を込めて地面につけると、体を起こした。


「それに、私との模擬戦で勝つこともあるではありませんか。瀧音様と模擬戦すると自身がまだまだ未熟なことが実感できるぐらいです」


 確かに勝つことはあるが、だいたい2割ぐらいの確率だ。それもこちらは初見殺し的なものでしか勝てていない。地力は明らかにクラリスさんの方が上だ。

「いえ、まだまだです」

「あたしにはそう見えないけどね」


 そういうのは近くで見学していたリュディだった。彼女は寄りかかってた木から離れると、俺の元に来る。

「あたしなんて一度もクラリスに勝てないのよ?」


 と、リュディは言いながら俺の前に来る。俺はリュディの姿を見つめながら、彼女の初期能力、覚える魔法、技能などを思い出していく。

「リュディは……まず詠唱短縮を覚えれば……色々やりようがあると思うけど」

 メインヒロインであるリュディは適当に育てても強くなる。それも遠距離火力特化のスキルをこれでもか、と覚える。俺とは真逆だ。遠距離がほとんど出来ず(物を投げるくらいになら出来るが)、敵の目の前に突撃するくらいしか出来ない。逆に言えば、二人会わせれば弱点をカバーし合う最良の組み合わせと言っても過言ではないが。


「詠唱短縮ねぇ、覚えようとは思ってるけど……今の私が覚えられる? そもそもだけど教えてくれる人はいるかしら?」

 と彼女は首をひねる。


 遠距離で魔法をバンバン放つリュディのようなキャラは、詠唱短縮や詠唱破棄のスキルは必須と言えよう。詠唱破棄は高ランクダンジョンにあるアイテムを回収するか、終盤のイベントで実力関係なしに覚えられる。だが、まずは詠唱短縮だ。こちらもゲームでは実力関係なしに覚えられるが……未だに心眼が覚えられない俺を見るに何が起こるか分からない。ただ。


「覚えていそうで、教えてくれそうな人なら身近にいるだろ。二人も」

「え?」

 リュディはいたかしらと首をひねる。

 

 という事で


「教えてください姉さん!」

 俺は紅茶を飲みながら資料を見ていたはつみ姉さんに頭を下げた。隣ではリュディが頭を下げている。殿下が頭を下げて良い物かとも思ったが、教師や師匠になら頭を下げても良いのではないかと思い直した。いいよね?


「学園が始まったら忙しくなるから……今ならいい。でも母様には頼まないで。とても忙しいはず」

 と早速リュディを姉さんに丸投げすると、俺は一人……ではなくクラリスさんと共に書庫へ向う。

「クラリスさんは行かなくて良いのですか?」


 詠唱短縮は俺のように接近メインの戦士タイプには不要なスキルである。ただ中距離戦闘もこなすクラリスさんにはあった方が良いスキルではなかろうか。

「いえ、私は幾度か試したのですが……成果は芳しくなくて。それよりも瀧音様はよろしいのですか?」

「僕が使う魔法は」


 魔力を込めていたストールでピースを作る。

「基本的にストールに魔力を込めるだけで済みますから」

 最近は常時魔力を込めっぱなしだから、常時魔法を発動させているようなもので、詠唱以前の話だ。そういえば丸一日魔法持続させられるのだけれど……俺の魔力量はどうなっているのだろうか……。


「では瀧音様は書庫で何をされるのですか?」

 先輩との滝行まで少し時間がある。部屋でゆっくりしてても良いが、どうせなら。

「いやぁ、使えそうな魔法書があれば見ておこうかなと思って」

 どうせなら実益のある暇つぶしをしようと思っただけだ。

「なるほど」


 俺としてはリュディ付のメイドが、どうして俺に付いてきているかの方が疑問なんだが。まああちらにははつみ姉さんがついているから良いのかもしれない。


 書庫のドアを開けると、紙とインクの臭いを乗せた風が、俺とクラリスさんの横を通り過ぎていく。

 とりあえず姉さんの残したやばそうな資料がないことを確認しにテーブルへ行く。クラリスさんは書庫全体を見回したのち、本棚の隅の方からなにやら物色しているように見えた。


 俺は自分の使えそうなスキルの多そうな「身体強化や回復魔法関連」のコーナーを見て回っていると、なかなか使えそうな本を見つけることが出来た。

 俺はその本を手に取ると、ソファーへ持って行く。そして備え付けの冷蔵庫からアイスコーヒーを取りだすと、ソファーに座り本を開いた。


「贈与魔法ですか?」

「おわぁっ」

 真後ろから、それも耳に近いところから声をかけられ、思わず本を閉じる。

「びっくりした、いつの間にこちらへ来たんですか? 全く気配がありませんでしたよ!?」


 すぐ横にはクラリスさんが立っていた。

「メイドなら当然のスキルです」

 にこりと笑ってそうクラリスさんは言うが、メイドと言うより暗殺者のスキルなような気がしないでもないのだが。


「……僕もそのスキルが欲しいですね」

 正直に言えば贈与魔法よりも先にこっちのスキルの方が欲しい。隠密系スキルはダンジョンで非常に有効だ。欲を言えば忍者スキルが欲しいが……さすがに彼女は忍者スキルをもっていないだろう。


「ええ、訓練と平行してお教えしますよ、それよりも贈与魔法ですか?」

 贈与魔法は自身の魔力を他者に渡す魔法である。

「クラリスさんもご存じでしょうが、僕の魔力量は異常ですから」


 瀧音幸助を利用する変わり者紳士の全員が盾特化にしているわけではない。MP(魔力量)を盛りに盛りまくった後に贈与魔法を覚えさせ、MP回復タンクにする者も居た。それはマジエロ内における最大MP保持者である瀧音幸助の最適解だ。と一時期思われていたが、それはゲーム1、2周目と縛りプレイする紳士にだけしか利用されることはなかった。


 なぜならゲームをラスボス攻略後にリスタートすると、『回復アイテム』と『お金』の引き継ぎが行える上に、『アイテムショップが初期から全開放』されるからだ。

 それら引き継ぎによってMP回復アイテムを、それこそ湯水のように使うことが出来るのに、わざわざ瀧音をつれて行く必要があるのかという話だ。

 俺なら主人公以外のパーティメンバーは基本美少女にする。あたりまえだよな。


「なるほど、瀧音様なら有効利用できそうですね」

 とクラリスさんは頷く。

 もしこれがゲーム周回しているのであればスキルを得ようと思わなかったかもしれない。しかし初回においては覚えておいて損は無い。


「リュディなんかは湯水のように魔力を消費しますしね、有効利用できるでしょう」

 遠距離で高威力の魔法をポンポン放つリュディには、ドーピングは必須だったといって良い。ゲームではアイテム使用に制限がなかったし、金さえあれば大体は殲滅できるから楽なんだが。


 ふとクラリスさんを見ると、彼女は何かを言いよどむように口をもごもごさせていた。なぜだ、と思ったがそれの答えはすぐに分かった。

「ええと……リュディヴィーヌ様はまだそう言った魔法を覚えてらっしゃいませんが」


 やらかした。そういえばリュディは入学当初は初期魔法しか使えない設定だった。

「っあ、しょ、将来の話ですよ!」

「そ、そうですよね。確かにリュディヴィーヌ様はそういった魔法が、お似合いのように感じます」


 変な空気になってしまい、俺は逃げるように本に向う。そしてふと気がついたことをクラリスさんに聞いてみる。

「もしかしてクラリスさんって使えます?」

「ええ、お教えしましょうか?」


 思わず乾いた笑いが漏れる。

 俺はチートをすでに得てしまっているのかもしれない。それも物語ゲームに登場しないチートを。


気がつけばブックマークが100超えてました。

テーマがアレなのでブックマークは伸びないだろうなと思っていました……非常に嬉しいです。

評価してくださる方もありがとうございます。励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミック版も応援よろしくお願いします


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ