2 プロローグ②
エロゲ主人公の友人とは、たいてい不遇である。
とある友人はむだに奇行を繰り返し、ヒロインから汚物のような扱いを受けることもあるし、とある友人は二股主人公に絡まれ、仲を取り持つために奔走することもある。
そしてなによりエロゲ友人キャラにありがちな設定であり、不遇と至らしめる一番の理由は「モテない」である。
彼らは非常にモテない。特に美女とはお近づきになれない。理由は簡単だ。主人公が気に入った女の子が主人公の友人とくっついたらどうなるかを考えればいい。すぐさま土砂降りのように苦情が来て、ユーザーが激減するからだ。
俺だって気になっていたかわいい女の子が、画面にちらちら出てくる糞男にとられでもしたら、画面を突き破る程の正拳突きをかましてしまう可能性は大いにあり得る。また、すぐさまサポートページに飛んで罵詈雑言を並べ立て、今度は某掲示板サイトや批評空間で狂ったように批判したのち、傷ついた同士とむせび泣きながらも励ましあっていることだろう。
さて、鏡に映る俺『瀧音幸助』は超不遇にも不遇にもなりえる、可変キャラクターだ。もちろん優遇、とまではいかない。
このキャラが登場するゲーム『マジカル★エクスプローラー(通称マジエロ、マジエク)』はクリックゲーとも呼ばれる戦闘シミュレーションゲームである。ゲームプレイヤーは学園生活を行いながら、授業やイベント等で行くダンジョンで戦闘を行い、自分や仲間を強化していく。またこのゲームは武器防具、魔法、魔道具等を製作することもでき、自分専用の特別な武器やらを装備させることもできるし、商店を開いて都市一番の錬金術師兼商人を目指すこともできる。
むろんこれはエロゲのため、恋愛要素もしっかり存在する。むしろメインが恋愛要素だろう。
日々の生活では美人かつ実力者のヒロイン共が異常なほど絡んできて(主人公のみ)、神に祝福されているのではないかというぐらいエロハプニングが起こる(主人公のみ)。風呂覗きはなぜか成功し、ヒロインたちのアーンな姿を見ることだってできる(主人公のみ)。
主人公の友人である瀧音幸助は、いちゃいちゃする主人公を横で見ながら、半泣きでハンカチを噛んでいるような、いわゆる三枚目。そう、引き立て役君だ。
『あの子超かわいいだろ、実はな……』とか、『あの子は学園一の美少女ともいわれているぜ』とか、やたら語るものの、そのすべての女性はすべて主人公に持っていかれてしまう。もちろんであるが瀧音幸助に用意された女性はいない。
そのため瀧音幸助を主軸として恋愛シミュレーション視点で見れば、かなり不遇といえるだろう。また戦闘面ではゲーム開発者が主人公と女キャラを強化したいがためにか、男性キャラは一部を除いて微妙な性能である。ただ、その中で瀧音幸助は悪くはない。悪くはないが、玄人向けの性能であることと、ヒロイン達が強くなりすぎるため、終盤はほとんどの人がメインパーティから外しているだろう。
「はあっ」
目の前に映った瀧音幸助が大きくため息をつく。
「とりあえず俺が本当に瀧音幸助なのか確認するか……」
と瀧音幸助のアイデンティティともいえるマフラーを外しながら、少ない可能性をつぶしに行った。
--
さて、現実とはかくも残酷なもので、どうやら俺は本当に瀧音幸助らしい。見た目も、もっていた身分証を見ても自分が瀧音幸助である証明にしかならなかった。そして色々と残念なことも分かってしまった。
「ええと、両親は一年前に死亡、父方祖父もすでに亡くなってる。母方親戚とは縁が切れてて、知っている唯一の血縁である父方祖母が痴呆により施設行き。保護者の責をおうことができない」
と、瀧音幸助は主人公をやれそうなほどベリーハード人生のようだ。いや、もはや他人事じゃないが。
「それにしても、こいつの境遇がひどすぎないか。あと、こんなやばい境遇だってのに、どうしてゲームではお調子者キャラなんだ?」
……そういえばゲーム内でヒロインの少女が自分の家族のことを話しているとき、幸助は一瞬悲しそうな表情してた。すぐにいつものへらへら顔に戻ったから開発側のミスかと思ってたが、あれはミスじゃなくて裏設定だったのかもしれない。
さて、この場合はどうすればいいんだろうか。そもそもここは日本に似ているが日本ではない。警察か市役所か学校に相談……いや、そこに転がってた卒業証書や入学準備の紙を見るに、学校は卒業して今は春休みの時期だろう。
幸いあの魔法学園には合格しているみたいだが、学費を払えると思えない。いやそもそもこのままじゃ飯も食えずにのたれ死ぬ。
「どうすりゃいいんだ……」
途方に暮れていると、ピンポンと音が鳴る。どうやら来客のようだが、出るような気分ではない。
どうすれば良いか分からないし、警察にでも行くか?
と、考えているともう一度ピンポンと音が鳴る。ため息をつきながら立ち上がって玄関へむかった。
「はいはい、どちらさ……まっ!?」
瀧音家はそれほど広い家ではない。すぐに玄関に到着した俺は、ドアを開けて来訪者の顔をみる。そして思わず変な声が出た。
そこに立っていたのは一人の女性だった。それも見覚えのある。
「ごきげんよう。ええと、瀧音幸助君よね?」
ごくりと唾をのみこむ。ゲーム内で何度も見たことある顔で、何度も聞いたことがある声だ。
「が、学園長……」
玄関前にはマジエロの舞台である『ツクヨミ魔法学園』の学園長である『花邑毬乃』が笑顔で立っていた。