18 滝 先輩イベント②
短いです。著者の生存報告的な意味で投稿しました。
水守雪音はまごう事なき女神である。
正直に言えば断られることを覚悟していた。だってそうだろう。彼女と話したのは一度だけ。それ以外は自分の修行中にちょろっと顔を合わせただけの関係だ。しかし彼女は俺のお願いを聞いてくれた。
やはり女神である。もしこの世界に女神がいるならばさっさと廃業して先輩に明け渡してやるべきだ。
しかしだ。彼女は女神だが、俺は巷の一般人だ。
「せ、せせせせ先輩。ここここれ、ほほホントに意味があるんですか?」
ざあざあと頭から滝の水が打ち付けられる。春というまだ暖かくなりかけの時期であるからか、その水は凍える程冷たい。まるで雪の中に裸体で突っ込んでいるような、いや、それ以上の冷たさが体に降りかかっている。
「瀧音、雑念が見える」
黙ってヤれというのだろう。俺は彼女の言葉を信じて座禅を組む。隣では目を閉じた水守先輩が同じように座禅を組み、滝に打たれている。その姿は凜々しく美しい。
「雑念を消したら目を閉じ体の魔力を活性化させるんだ。そしてその魔力を辺りに振りまくようなイメージを作れ」
だなんて言われたが、正直さっぱりである。とりあえず言われたとおり目を閉じ体の魔力を活性化させるが、その先が上手くいかない。
「ぜぜんぜん何もみえないんですががががが」
「上手くいけば目を閉じたままでも私の場所が感知出来るはずだ。慣れれば相手の魔力の動きすら見えて、先手を取ることも出来る。私はまだ至っていないが、透視や未来視すら出来るようになるそうだ」
心眼スキルは、ゲームにおいて回避率と攻撃命中率を大幅に上げることの出来るスキルである。そして辺りが暗闇でも、自分が一時的盲目状態でも、命中率が下がらないという追加効果もある。
ゲーム内のスキル説明欄では『心の目を使い、相手の居場所や動きがわかる』といった感じだったはずだ。このスキルならば俺があのストールの壁を使用するときに起こる、『前が見えない』弊害を解消してくれるのではないかと期待している。このスキルを得られる方法が二つあるが、簡単なのは水守雪音に伝授して貰うことである。
目を開けちらりと水守雪音を見つめる。
彼女は震えるへっぴり腰の俺とは対照的だ。伸びた背筋はまっすぐに天に向って突きあがり、美しく咲く花のようだ。
彼女はゲーム内において初期から心眼スキルを保持している、数少ないキャラの一人だ。心眼スキルはとても有能で、とある紳士達からはチートスキルの一つとして認定されており、必ず入手すべきスキルの一つとされている。無論俺もチートスキルだと思っており、主人公など覚えられるキャラクターには必ず覚えさせていた。むしろ覚えさせないヤツが居るだろうか。
心眼スキルさえあれば、『命中率の増加』、『会心率の増加』そして、『全体魔法や命中特化特技以外の攻撃に三割程の回避性能がプラス』されるのだ。回避性能が地味に嬉しい上に、何より命中率の増加が最高に嬉しい。後半は異様に回避率の高い敵が出没するため、このスキル持ちや広範囲魔法を唱える仲間が重要となってくる。広範囲魔法が唱えられない俺には必須と言っていいスキルだ。そして上手くいけばストールの壁の弊害も解消できる。なんて一石二鳥なんだ。
覚えられれば、だが。
ゲームでは一応覚えられるキャラクターではあったが、果たして……。
視線を先輩からそらし、滝から見える緑溢れる風景にうつす。そして意識を集中させる。
その後瞑想を続けたものの、心眼スキルを得ることはなかった。
 





