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マジカル★エクスプローラー エロゲの友人キャラに転生したけど、ゲーム知識使って自由に生きる  作者: 入栖
■1章 マジエロ★プレリュード -エロゲの友人枠は大体が不遇である-
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17 滝 先輩イベント

 信じられないことなんて滅多に起こることはない。たしかにエロゲの世界ではありふれているが、現実ではそう起こることがない。とはいえ起こるときは起こるし、そもそもここはエロゲの世界だ。非現実なのだ。


 日本にいたときの話だ。俺は開けたばかりのアイスクリームを、あろうことかゴミ箱に捨てた友人を見たことがある。どうやら彼女は袋を捨てるつもりだったらしいが、実を捨ててしまったらしい。彼女にとってはよくあることらしいが、俺は正直信じられなかった。でもチョコレートの袋を手に、中身をゴミ箱に捨てたのを見た瞬間、彼女の言っていたことはマジだったのかと驚いたものだ。


 さて、この世界に来てからいくつ俺は信じられないものを見ただろうか。もう数えるのが面倒であるが、直近ではリュディとクラリスが我が家に居候することになったことだろうか。

 そして。そしてだ。現在進行形で今の状況が信じられない。


 日課に近いランニングをしながら、ちらりと目だけを隣に向ける。


「ふっ……ふっ……ふっ……ふっ……」


 流れるような黒髪ポニーテールが、まるで興奮した犬の尻尾のように大きく動く。普段はそのまま背にながしているだけの彼女だが、ランニングのために結ったのだろうか。また背中には彼女のアイデンティティとも言っても過言ではない、紅梅色こうばいいろ(梅の花のような鮮やかな紅色)の薙刀がくくりつけられている。すごく走りにくそうだ。


 彼女は相変わらずあがめたいくらいの美貌とスタイルで、今すぐ足を止めて走る姿を鑑賞したいくらいだ。とくに上下に揺れる双丘はその存在感をこれ以上無いほど誇示していて、意識をしないようにしないとガン見してしまう。


 さて、誰か教えて欲しい……なぜ水守雪音が俺の隣を走ってるんだ……!


 さっぱり意味が分からない。なにか彼女を駆り立てるような行動を起こしただろうか。

 確かにここ三日ぐらい、英気を養うために彼女の修行風景を見ていたことは否定しない。しかしこれはアレだ。決してストーカーだとか視姦していたと言う訳ではない。俺としては図書館で勉強している人を見て、俺も頑張ろうという気分にしていただけだ。


 いや、確かにおっぱいを注視していたのも否定はしない。だって揺れるんだもん。俺は一切悪くない。悪いのは美乳を揺らす先輩が悪いんだ(俺が悪い)。

 まあ、この世界はエロゲの世界であるから、変態的な行動をして許される気もする。が、あれだ。


 ※ただし主人公に限る。

 俺の場合はヒロインにギッタギタでボッコボコにされるであろう。最悪の場合、両手に錠をつけられ、殺風景な檻の中にぶち込まれても不思議ではない。


 予定していた距離を走り終えた俺はいったん足を止め、声を掛けるか考える。しかし、なんと声を掛けて良いかも分からなかったので、いつもと同じ訓練メニューをすることにした。


 疲労がたまった状態での第三の手、第四の手を使った攻撃練習。ストールにより多くの魔力を込めての突き、そして瞬間的に開いての硬化のエンチャントを行う防御練習。単調単純な訓練だが、俺にとっては基本で今後ずっと使うことになることだろう。そうだと信じたい。


 ふと視線を彼女に移してみれば、彼女もまた、薙刀を振るっていた。突き、なぎ払い、振り下ろし。いつも見ている形とは違うように見えるが、基本は同じものだろう。

 やっとの事で全てのメニューを終えた俺は、ストールを椅子のように変形させ座り込む。息も絶え絶えで立っているだけでつらかったのだが、同じようなメニューをこなしたはずの水守雪音は、呼吸は荒いもののかなり余裕が見られる。


(基礎体力でもこの差があるのか……)

 汗で張り付いた髪の毛をながしながら、呼吸を整える雪音。彼女は薙刀を背中にくくりつけると俺の元まで歩いてきた。訓練しながらちらちら胸や尻や二の腕やうなじなんかを見ていたことに気がついたのだろうか。


「いつもコレをしているのか?」

「……ええ、大雨でも降らない限り」

「そうか……」


 彼女の視線は、俺のストールに注がれている。魔力が込められたストールは、今は柔らかい生地の椅子となっている。

「……座りますか?」

「いや、いい…………すまない、やはり座らせてもらえないか?」


 一度断ったが彼女はそう言った。俺はすぐに椅子を広げると、もう一人座れるように椅子を改良した。

 彼女はおそるおそるといった様子で、ストールに触れる。優しくなでるように、そして上下に動かしてこすって……そして体重を掛けながら強く押して、ゆっくり腰を下ろした。


 我が人生において、初めてストールと入れ替わりたいと思ってしまった瞬間である。


「ぃい、気持ちいいな」

 んほぁ!

 なんて言葉を発するんだ。俺の精神にクリティカルダメージだ。


「それにしても、にわかに信じられないな……」

 未だにストールをなでながら、水守雪音はそう言った

「な、何がですか?」

 トリップしかけた自分をなんとか引き戻し平静を装う。


「……君の魔力にだよ、私ならすでに魔力切れになっている。それにこんな疲弊しているのにエンチャントを維持しているのもまた……。君は学園の新入生か?」

「ええ、瀧音幸助と申します」


「私から名乗るべきだったな、私は一年の……いや君の入学時には二年だな。風紀会副会長をしている水守雪音だ」

「風紀会副会長ですかっ?」

 と、驚いた振りをする。マジエロというゲームにおいて、風紀会というのは学園の権力者で有り、実力者であることを示している。驚いておいて間違いないはずだ。

「ああ、そんな大層な役職じゃないよ。それに上には上が居るさ……」


 そう言って遠い目で空を見つめる彼女。この雰囲気から察するに、マジエロ(ゲーム)の水守雪音と同じ悩みを抱えていることは、なんとなく察せられた。

「君ならばすぐに学園三会の役職につくことが出来るだろう」


 俺は首を左右に振る。

「それは多分無理ですね……。実は俺、特殊体質で、放出系の魔法がとてつもなく減衰されるんです」

 と言っておくが、もちろんすぐに学園三会には入るつもりだ。口には出さないが。一応入会までのある程度の計画は立てた。正直に言えばリュディへの言い訳が思いつかないから、現実逃避のためにそっちを考えてた。勉強しなきゃと思っても掃除しちゃうタイプなんだよなぁ。


 先輩は特殊体質という言葉に、納得したような顔で頷いた。こんなに魔力量が高いなんて、普通はないだろう。普通じゃないことが分かったのだろう。

「三代前の聖女みたいなものか?」

「ええと、似ているようで違います。聖女様は代わりに回復魔法に絶大な恩恵を得ていましたよね? 俺の場合は……」


 先輩の視線がストールに向く。

「エンチャントです。放出系魔法なんて、こんな感じですよ」

 そう言って火の玉を木に向って飛ばす。こんな威力の魔法だし、あれは生木だから燃えないだろう。

「なるほどな…………君は、その…………いや、なんでもない」


 先輩は何かを言いかけて止めた。しかし俺は先輩が何を言いたいのかが、察することが出来た。

「魔法使いにおいて、すごくハンデになるかもしれないとは思っています。身近には遠距離魔法と大規模魔法の達人が居ますから」

 先輩は神妙な顔で俺の顔をじっと見つめた。


「たしかに他の人が羨ましいなんて思うし、実力差を知って絶望することもあります。でも、」


「でも……?」

 先輩の眉根が少し下がっている。

「でもコレはコレで強くなれる可能性はあるし、逆に燃えるというか……強い相手をどう攻略するかを考えるのが楽しいので……それにこの魔法、意外と応用が利くんですよ、こんな風に」

 と言って俺はストールベンチを変形させ、背もたれを作る。そして寄りかかって体重を掛けた。先輩の方にも背もたれを作ると、先輩は手で背もたれを押した後、ゆっくり体重を掛けてよりかかった。


「そうか……君は色々と強そうだな」

 こわばった顔をくずした先輩は、ほほえましいものを見るような目でそう口にした。

「全然強くなんかないですよ。でもいずれ、頂点に立ってやろうかな、なんて思ってますけどね」

 はっはっは、と笑うと、先輩は「ソレは無理だろう」と呟いて苦笑した。


 確かに無理かもしれない。でもまだ自分の出来ることを全て試してない。地球に居たころのように、地べたに這いつくばって苦汁を舐めた訳でもない。まだ諦めるには早い。


 ただ水守雪音ならば、成長次第で最強になることは可能だろう。


 先輩、と声を掛けようとしたとき、不意に風が吹く。ほてった体を通り過ぎ、乾いた土とほんの少しの先輩の匂いが鼻に入る。

 とても心地良い。もっと吹いてくれても良いぐらいだ。ただ残念なこととして、水守雪音はスカートではない。先輩は袴の上に手を置き、目の前をぼうっと見つめ、なにやら黙想している。


 ……出来れば先輩にはすぐにでも悩みを解消してもらいたい。そして三強と呼ばれるあの強さまで成長して欲しい。そして俺が最強になるための道で、険しい山か一緒に道を進む仲間のどちらかになって欲しい所だ。


 と、考え事をしていると、先輩が「ああ」と何かを思い出したように呟いた。

「そういえばだが……瀧音くんは知っているかい?」

「なんのことでしょう?」

「ここは実のところ私有地なんだよ。あの人のことだから別に言わなくても問題は無いだろうが、一応私の方で許可をとろうか?」


 知っている。毬乃さんに直接許可を貰ったから大丈夫だ、問題ない。

 多分ではあるが、ゲーム内の主人公が滝修行したときは、先輩が許可をとっていたのだろう。そんな描写はなかったが、如才ない先輩ならやっているだろう。そして口には出さない。だから俺は先輩が大好きなんだ。


「ああ、大丈夫です。知っていますよ。母の従姉妹が毬乃さんで、訳あってお世話になってるんです」

 と言うと先輩はとても驚いたのだろう、目を見開いて口を半開きにしていた。

「身近にいる強者とは……まさか学園長?」


「ええ。ちなみにはつみ姉さんとは、はとこの関係ですね」

「いや、そうだったのか……すまない。そうだったら何の問題も無い」

 納得したように、彼女はそんな事を言う。そして何かを考えるように、顎に手を当てた。


「どうかしましたか?」

 いや、なんでもない。とばかりに小さく顔を振る。そして

「話は変わるが、私もこの場所を利用させて貰っても良いだろうか?」

 と、辺りを見渡しながら言う。


 ん? と俺も辺りを見渡す。生い茂る木々からぽっかり空いたこの楕円形の場所。足下には至る所にクローバーなんかの野草が生えている。あそこに見える大きな木の下でひなたぼっこをしたら、さぞかし気持ちが良いだろう。中学生のころ受けていた古典の授業には及ばないだろうが、すぐさま夢の世界へ旅だってしまうのはまちがいない。


 さて、現実に戻ろう。先輩は何を言いたいのだろうか。


 ここは毬乃さんの私有地ではあるが、別に彼女自身は許可を貰っているはずだ。だからこそ彼女は滝の下で訓練をしていたんだろう。


「いや使って良いと思いますけど?」

「そうじゃなくてだな、私は君に求めているんだよ。たまに君の姿を覗かせて貰ったが、ここは君のランニングコースなんだろう?」


 ようやく何を言いたいのかがやっと分かった。

「別に水守先輩が邪魔とは思って居ませんし、全然使って構いませんよ。それに誰かが真剣にやってるのを見ると、なんだか自分に気合いが入るんですよ」


「そうか、では利用させてもらおう。それと言ってくれれば滝の下から避けるぞ? 修行中の私は景観を崩すだろう?」

 あなたはなんてことを言うのでしょうか。景観を崩すどころか、景観なんて貴方の引き立て役なんですよ。


「いえいえ、何を仰るんですか。水守先輩が修行しているのを見て、俺のやる気が出るんですっ。邪魔だなんてとんでもないっ!」

「そっ、そうか」

 と力説する。しかし、なんで引き気味なんですかね。

 それから少しの間他愛ない話をしていたが、おもむろに先輩は立ち上がった。


「さて、ずいぶんとゆっくりしてしまったな。私はそろそろ帰るよ」

「そうですか…………あっ先輩っ」

 立ち上がった先輩がくるりとこちらに振り返る。

「ん、なんだ?」


「ええと、ちょっとぶしつけなんですが、お願いがあるんですよ」

「お願い?」

 疑問符を浮かべている先輩に頷く。

「ええ、暇なときで構わないので、稽古をつけていただけないかな、と。できれば心眼スキルを覚えるまで」


 そういうと先輩は驚いたような表情で俺を見た。


学園三会、マジエロ三強などは学園が始まってから詳しく話が出ます。現時点では、へーそんなのあるんだ、とながしてください。

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