165 ラジエルの書②
すみません、遅くなりましたorz
次は近日中に…。
「っはぁーっ!? いけませんって、いけませんよ、イけませんっつってんじゃないですか!」
慌てる結花を見て桜さんは一瞬制止した後俺を見る。
俺は口元に立てた人差し指をあて『ナイショ』とばかりにポーズをとると桜さんは納得したようだった。
「……確かに封印できる可能性はあるわ。でも彼女の魔力では足りない」
「ちょっと足りないかもしれないですけど、そこは桜さんがフォローで何とかなりませんか?」
『あれー、お二人には私の声が聞こえてないんですかね!?』などと言う結花を無視し俺と桜さんは話を続ける。
「再封印とはいえ、生半可な力では通用しないの。全盛期の私ならともかく、自らを封印しているようなモノなのよ。封印できるほどの魔力は多分ないわ。それにラジエルの書が何か企んでいる可能性もある」
「桜さん一人じゃないんですから、封印はできますよ。てか桜さんは俺たちを止めたいからそう言ってるだけでしょ?」
「……そうよ、危険にさらすわけにはいかない」
桜さんは俺たちを何が何でも守りたいと思っているのだろう。だから引き下がらない。誰よりもラジエルの書の強さを知っている、というのもあるだろう。
「俺たちは勝手に行ってもいいんですよ?」
まあ桜さんがいないと負けて全滅だが。
「あなたはどこにラジエルの書が居るのか知らないでしょう?」
知ってるには知ってるさ、桜さんは万が一が起きないようにここにいるんだから。
「なんで桜さんがここにいるのか考えれば、おのずと答えは出るんですけどね」
「……ならどうやって行くの?」
「桜さんが今守ってるじゃないですか」
ただ守っているのは転移魔法陣というか、俺達の方なんだろうけど。
図星だからだろう、桜さんは黙った。様子を見るに彼女はまだ協力してくれそうにもない。
ならあまり言いたくはなかったが、言うしかないか。
「じゃあこうしましょう、最悪……」
ちらりと伊織を見てふぅと息をつく。そして。
「俺が桜さんを殺します」
俺がそう言うと場の空気が一変するのがわかった。特に彼だ。
「幸助君」
俺はその彼、伊織に視線を向ける。
「おいおい、伊織。どうした? まあ、剣から手を放せよ?」
今まで見たことのないような伊織がそこにいた。一瞬だが先ほど戦った巨人のような、そんな姿が彼から見えた。
「伊織君、まず落ち着きましょう」
副会長が制止するも伊織は剣から手を放すことをしない。それどころか魔力をまとったままゆっくりこちらに歩いてくる。
「幸助君。それは本気なの?」
場の雰囲気は最悪かもしれない。
でも俺だって後には引けない。目を逸らせない。
一発触発。そんな雰囲気だったが――
「ああ、本気だ。最悪桜さんを殺っ………ん゛ぁあ゛あ゛い゛だい゛ぃぃ」
「たきおとさぁぁぁぁぁあああん、聞こえてますかぁあああ!?」
――それをぶち壊したのは結花だった。
彼女は俺の耳をちぎりそうなぐらい引っ張りながら、耳元でそれも大声で叫んだ。
必死に体をよじって逃れるも尻もちをつく。顔を上げればそこには笑顔の結花が俺を見下ろしていた。
また驚いたのは俺だけではなく、伊織もだった。彼も耳を抑えながら呆けた顔をしている。
「あのですね、私を蚊帳の外においてどんどんスケール大きくしていくのやめてくれませんか? そもそも私が関係しているんですよね? なんで私がハブられてるんですか? 誕生日だってそうじゃないですか、本人なしで祝えるわけじゃないじゃないですか!」
「お、落ち着けって」
俺は手でどうどうどう、と落ち着かせようとするも彼女はもちろん止まらない
「落ち着かなきゃいけないのは瀧音さんとお兄ちゃんじゃないんですかーっ? ともかく説明してください! 全部説明してください。まずはそれからです!」
結花のおっしゃる通りである。
いったんみんなで集まって桜さんと俺で説明を始める。簡潔に言えば、
「結界魔法は結花ちゃんの魔力と非常に相性がよくて。それを私がフォローすれば……封印は可能かもしれないの」
と桜さんがいう通りである。
「なんとなくそれは理解しました」
結花は言う。
「俺もいるし、ななみもいるしな」
桜さんは頷く。
「確かにそれに天使であるななみさんなら私のフォローもできる。ななみさんは瀧音君からのフォローを受けられる」
「私もよく現状を理解していませんが……とりあえず結花様、ご覚悟を」
「なんの覚悟ですか、できてませんよ!」
「なるほどのう、封印は不可能ではないと。それで最悪の場合は……じゃな」
俺は頷く。最悪の場合俺達は桜さんを倒し、ラジエルの書を消滅させる。やってはいけないバッドエンドだ。
桜さんはそれを聞いて小さく息をつき。
「もし最悪の場合に私を殺してくれるのなら、まあ……試してみてもといったところね」
「不承不承、といったところですか?」
桜の様子を見てリュディが聞く。
「さっきの見せられたら覚悟を決めるしかないでしょう。喧嘩はしそうだし、止めても進みそうだし」
俺は頷いた。
「最悪にはならないから大丈夫だ。それに結花も快く引き受けてくれてたし。ちゃんと言質取ったし」
「っはぁーっ? そんな話聞いてませんよ! まー---ったく聞いてませんよ!!」
ああ、と先輩が納得したようにポンと手を叩く。
「確かに瀧音は嘘を言ってないな。本棚ギミックがあった広間で『ラジエルの書を封印するために手伝ってほしい』とお願いされ、私たちは了承した」
伊織たちが広間で先に進んだのち、俺が皆にお願いしたことだ。間違いなく結花は引き受けてた。
カトリナが最悪な野郎だと俺を見る。仕方がないじゃないか。
「それ卑怯じゃないですか!」
結花はそういうが、おっしゃるとおりである。何も否定できない。
「でも、マジで頼む」
結花には申し訳ないが、必ずやってくれることを知っていて言っている。引き受けないイコール桜さんの死だ。結花は絶対に引き受けざるを得ない。
「…………まあ、やってはみますけど」
ポンと結花の肩を叩く。
「封印の細かいことは桜さんに任せろ、あとは俺たちが二人を守るから」
引き受けさせたんだ、何が何でも結花は守らなきゃならない。
「……では少し休憩してから進みましょう。皆さん戦闘後でお疲れの様子」
そう提案するのはフラン副会長だ。それは皆に受け入れられ、いったん休憩、作戦会議のち進むこととなった。
さて俺はどうしようかと思っていると、伊織が俺のところへ来る。
「幸助君」
「どうした伊織」
「その、さっきはごめん」
そう言って彼は頭を下げる。
「いや、いいんだ。むしろあれだけ怒ってくれて嬉しかったぜ」
そう言いながら伊織の頭を上げさせる。彼は不思議そうに――
「嬉しかった?」
――といった。
何で嬉しかったかって言ったら。
「俺も同じ思いだったからな」
伊織は桜を助けたかった。俺も助けたい。彼女を死なせたくない。
「だから絶対勝つぞ」
伊織は頷いた。
伊織との話を終えるとため息をつく結花の元へ行く。
「結花、色々悪いな」
「全くですよ。封印にしてもそうですし、お兄ちゃんと険悪になったときもだし、どうしようかと思いましたよ」
「止めてくれてありがとうな」
「えっとそのですね……あーまあいいや」
彼女は頭がいいし勘が鋭いから何かしら思うところがあったのだろう。でも彼女は言わなかった。代わりに。
「それにしても桜さんからすっっっごいプレッシャーかけられたんですけど、私はどうすればいいんですか?」
そういった。
「結花。何かあったら、何もかも俺のせいにしていいぞ」
「失敗したら、ですか」
不機嫌そうな結花。
「まあ、そうだ」
「……皆が傷ついても?」
「ああ、それは俺のせいだ」
「考えたくない終わりを迎えても?」
「ああ、だってそうならないしな」
「虫の居所が悪くても、急に夕立が来ても、シマウマが白黒なのも、生命が誕生したのもすべて瀧音さんのせいにしていいんですね?」
「あのな、それはちょっとなぁ」
「はいはい、冗談ですよ冗談。わかりました私にできる限りやりますし、何かあったら瀧音さんのせいにします。でも……約束してください」
「約束?」
「こんなの今回だけにしてください、ってことです。二度とこんな重役を私に任せたりしない、良いですね?」
「……ちょっとそれは出来かねます」
「なんでですか! そこはちゃんと返事してください!」
大変申し上げにくいんだが、今回以上にやばいイベントが幾つかある。まだ話せないから黙ってるけど。