163 図書館ダンジョン⑨
とても短いです。ただ今日中にまた更新するので許してください。
桜モドキと戦う先輩を見て思ったことは、自分はまだ努力が足りないなという反省、そして羨望と欲望である。
もし俺がこの世界で一番誰にあこがれているかと問われれば、間違いなく先輩であろう。確かにモニカ会長も捨てがたいカリスマの塊ではある。しかし俺は先輩の性格と心の持ちようが好きだった。
自分は先輩のようになりたい、そう思っていた。しかし現実なれるかなれないかでいえば、どう考えたって無理だ。
最近ではギャビーも同じような悩みを抱えていた。お兄様と自分で。
俺も同じようなものだ。先輩ほど体力も力も技術も適性もない。同じような技ができるかって言ったら、ほとんどできない。
ピーキーな能力である自分は、できることと長所を伸ばすしかなかった。
どう成長すべきかと色々悩んでいた俺に、先輩は居合を進めてくれた。それは先輩もできて俺もできる物だった。
俺は先輩の太刀筋を目に焼き付け、毎日毎日繰り返しなかなかいい太刀筋になっていた、ある程度うまくなったと思っていた。でも。
「こんなの見せられたら、まだ全然足りないなって思っちまうよな」
先輩が振る薙刀をみて、思わず言葉が漏れる。
- 九頭龍 - それは『三強』『技』の水守雪音と言わしめる技の一つ。
それは桜モドキに直撃した。
「……マジですかあれ?」
呆然と結花がつぶやく。
訓練していなければ目でとらえることすら難しい、超高速の連続技。しかも一撃一撃の線が非常に美しく、それがただの芸術のようにも見えた。
その技を見て俺の中である思いが生まれた。それはすぐに大きくなって全身を駆け巡って、今にも叫びたくなるような衝動に変わる。
俺は先輩ではない。先輩ほど早く連続で切ることはできない。
だけどあの剣閃を再現したかった。それほどまでにあの剣閃は美しかった。
先輩が薙刀をおろすと、桜モドキは魔素へと変わっていく。
彼女が消えるのと同時に現れたのは1冊の本と1つの転移魔法陣だった。
ななみにその本を確認してもらい、確証を得たところでその本に向かって刀を抜いた。これで第二段階への変化を防ぐことができるであろう。
準備は整った。後は、
「行こう。桜さんとラジエルの書のもとへ」
桜さんを助け、ラジエルの書を封印するだけだ。
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転移魔法陣に乗ってそこからすぐに目的の場所にたどり着いた。
そこを例えていうなら大聖堂だろうか。
ヨーロッパのどこかにあるような大きなステンドグラスがあって、そこから美しい光が差し込んでいた。
そして辺りにはいくつもの天使を模した像が立ち並び、壁には宗教を感じさせる十字の装飾や太陽のような装飾がある。
そのフロアの中心で伊織たちは天使の姿をした桜と戦っていた。
その戦いは壮絶であったのだろう。皆の体は傷だらけだ。すぐさま走って彼らのもとへ向かうも、まだ少し距離がある。
「……お兄ちゃんの様子がちょっと変かも」
走りながら戦いを見ていた結花がそう呟く。
「多分伊織が気が付いたんだろう、ほら」
伊織は戦闘中だというのに剣を下げ、腕をだらんとたらす。なんでそんなことをするかって言ったら、桜の真意に気が付いたからに違いない。
そんな伊織に向かって桜の魔法が放たれる。
「……急ごう」