162 図書館ダンジョン⑧
瀧音視点
「あのレーザーどうすればいいんですかね?」
桜モドキのレーザーを見て結花はそんなことを言った。
『何ってるんですか』なんて言われるのはわかっていたから、ちょっと冗談めかして
「私が盾になる、ドドン! とかはどうだ?」
というと、案の定だった。
「っはぁーっ? やるわけないじゃないですか! あんなの食らったら骨すら残らないかもしれませんよ!」
やっぱりそうだった。俺だって結花の立場だったら同じこと言ってたと思う。
ただしゲームでは常套手段でもあるんだよなぁ。
結花はもともと体力は結構ある方だし、先祖がやばいから光属性の耐性が最強クラスだ。敵が光属性だらけな今回、誰よりも壁の適性がある。自分で回復もできるし。
今回のダンジョンに限り風紀会の鉄壁さんことエスメラルダ以上だと思う。
「どうすればそんな鬼畜の所業を思いつけるのかわかりませんよ」
まあゲームの攻略サイトは『結花や聖女を壁にして、一気に攻めよう!』って書いてあるぐらい一般的な手法で、多くの人がそうしただろうけどな。
「でも瀧音さんなら、私が飛び出したら自分がさらに前に飛び出しそうですよね?」
それを言われたら、確かに飛び出しそうだ。
本当なら結花に任せた方が何倍も効率いいはずなんだけど……こんな可憐な女の子が体を張ってるのに、指を咥えて見ていられるだろうか。
「光属性エンチャントで何とかなるかなぁ?」
意外にガードはできると思う。ただ当たり所が悪ければ死にそうだけど。いや、今までの戦いも当たり所が悪ければ死んでたのを考えれば、直線的に来る攻撃はマシかもしれない。
「なら大丈夫です、瀧音さんが消えてもストールは残ると思います」
「本体が亡くなってるじゃねーか!」
と俺たちが桜モドキと巨人の攻撃をしのぎながら話していると、先輩が声をかけてきた。
「瀧音、動きは確認した。実行しよう」
「リュディ達も……行けそうですね。なら早速実行しますか」
相手が回復する敵にどう対処するかは、いくつか方法がある。
もし何度も回復魔法が使える相手ではなかったら、わざとMPを消費させるのも一つの手だ。しかし彼女はとある理由でMPが無尽蔵と言っていいほど多い。今回それだけはやってはいけない。
だから今回取る手法でもある別の手段は。
「瀧音の言っていた通り回復役を先に倒そう」
攻略法はいたって簡単である。回復されるなら、回復される前に倒せばいいじゃない作戦である。
「ではまず、引き離さないとな」
しかしそれを許さない存在が居る。それはもちろん巨人だ。彼は間違いなく桜モドキをかばうだろう。だから遠距離が苦手な俺と、近距離が得意な結花で巨人を足止めし、その間に先輩たちが桜モドキを倒す、そういった段取りだった。
とはいえ問題は『引きはがせるか』だろう。
アイツは桜モドキを攻撃されるのはまずいと分かっているようで、基本待ちの姿勢だ。桜モドキも巨人から離れすぎることはしないため、こちらから無理やり引きはがすしかない。
「行くぞ結花」
「潰されないようにしてくださいね!」
と俺たちは巨人の前に出る。すると当然ではあるが巨人と桜モドキも動く。
巨人の攻撃はメイスを使っての薙ぎ払いだった。俺も結花も狙った攻撃を二人で回避する。
ぶぅぅぅんと風を切る音を聞きながら、すぐに次の攻撃に備える。どうやら桜モドキは先輩に攻撃しているらしい。おかげで巨人に集中できる。どうやってあのレーザーを切ったのかは後で聞こう。
巨人は薙ぎ払いしたのち、今度は棍棒を掲げるとそのま結花に振り下ろす。揺れる地面をなんとか走り近づくも、今度は反対の手で殴りかかってきていた。俺はその向かってくる拳を第三の手で逸らし、その足の脛に向かって第四の手で攻撃する。
しかし巨人は痛そうにするだけで吹き飛ばすことはできなかった。これでは巨人を引きはがすことはできない。でも作戦通りでもある。
「幸助、結花ちゃん。あとは私に任せて!」
その言葉と同時にリュディの魔法が発動し、桜モドキを吹き飛ばすことに成功していた。
巨人ではなく桜モドキを引きはがすことで、二人に物理的な距離を作る。
あとは先輩が桜モドキに注力できる時間を作るだけだ。
多分先輩なら桜モドキを倒すことができるだろう。彼女は魔力量は異常だが体力が低いから。
俺と結花は守りに行こうとする巨人に向かって攻撃を仕掛けた。
俺は脛が痛そうな巨人を攻撃しながらふと思う。思ってしまった。あれ、なんか倒せそうだな、と。
結花が反撃で蹴られたのを見て、やべぇと意識が戻る。
どうやらしっかりガードしていたようだし、すぐに回復魔法を唱えていたから多分大丈夫だろう。
俺はすぐに巨人へ向かう。
先輩が桜モドキを倒したら、みんなで巨人を倒そう。そういう作戦だった。
だが巨人の行動を見て、いけるんじゃないかとも思ってしまった。巨人の攻撃はひどく人間的であるから。
「本当はただの時間稼ぎだったけど……でも」
でもどうせだったら、倒してしまいたいじゃないかと。
基本的にあいつは大きくなった人間だ。だから人間の弱点と同じ弱点がある。あいつもそれは理解しているだろう。だって俺が尻もちをついた時に蹴ってきたんだぜ? 歩けないことを知っていたからだ。
メイスが俺に振り下ろされる。
「ちょっと瀧音さん!?」
俺はわざとメイスの攻撃で尻もちを付けると、ストールに細工をする。そして俺を蹴ろうとした際に俺はストールを行き良い良く伸ばした。
それはストールを使った移動だ。まるでばねのようにストールで地面を蹴ると、俺は巨人の裏へ移動する。
「あぶね」
ちょっと勢いをつけすぎて、ブレーキに足を痛めそうだったが何とか踏ん張る。そして巨人の足裏、それも膝に向かってこぶしを叩きこんだ。
効果は抜群だった。俺を蹴ろうとしたため、体重が片方の足にすべて乗っていたせいもあるだろう。
とても綺麗な膝カックンが成立した。
アイツも俺を普通の人として見ていただろう。だけど普通じゃ絶対にできない移動をされたらどうだ? 虚を突かれるのも仕方ない。
無防備な体が俺の前に倒れて来る。その首を狙って刀を抜いた。