161 居残り組②
遅くなって申し訳ない。
次回は28日予定です。
「ちゃんと食事を取ってるかい?」
「うるさいベニート。この前紫苑と一緒に無理やり連れだしたくせに……」
そうでもしないと部屋を出なそうだったからね?
「瀧音君たちの歓迎会もさぼって……せっかくの式部会に入ってくれた一年だというのに」
「さぼったんじゃない。……そうだ、急用だ急用が入ったんだっ!」
そう言う彼女を見て、ああこりゃだめだと苦笑いする。
「そうか、それは仕方ないね」
「仕方ないんだ……なんだっ、そんな可哀そうなものを見る目で見るな」
「じゃぁ瀧音君と結花さんに会わないとね。どちらもすごい子だよ。特に瀧音君に関してはすごく驚くと思う」
「噂は聞いた。それよりも、あの目障りなのつぶそう」
彼女の操る熊人形の攻撃を天使一人では抑えられないようだった。素早はさほどないが、防御力と攻撃力が違いすぎた。
「なんですのあの熊……すごいですわ。まるでバーサーカー」
天使が剣を振り下ろそうと熊のぬいぐるみはそれを片手で悠々と受け止め、反対の手で殴る。鋭い刃のついた爪は天使の鎧に傷跡を残した。
「仕組みとしてはたぶんゴーレムに近いだろうね」
僕がそういうとガブリエッラはなるほどと呟く。
この戦闘が終わったら妹を紹介しないとね。
「それならお兄様もできるのではありませんか?」
「いや、僕はあんなのできないよ。一般的な土魔法で動くゴーレムと違い、彼女のそれは無属性の特殊魔法だから。だからこそ複雑な命令系統を受け付けることができる」
またほかの天使が角ばった氷塊を飛ばしてきたところで、人形の力強い爪と拳には砕けるしかなかった。そしてすぐに追撃してきた、剣を持つ天使と槍を持つ天使の同時攻撃を両腕で受けるも、体はびくともしない。その人形がそのまま攻撃を抑えていると、風紀会の面々が天使へ攻撃した。
まあそんなことより僕も参戦しないと。
「グレーテルちゃん、ガブリエッラ、僕はあの鎧に行くから、周りのは頼んだよ」
鎧の相手はじっと僕を見ていた。まるで僕以外眼中にないかのように。グレーテルちゃんに対してどう動くかを見ていたが、残念なことに鎧は僕に夢中らしい。
僕が距離をつめるとようやくその鎧は動き出した。柄を頭の横へ、そして刃をこちらに一直線に向ける。
構えからすれば上段の防御をしながら、すぐに袈裟斬りにもできるそうだ。
「ふっ!」
僕は剣を振り下ろすと、鎧はそれを剣で受ける。先ほど力負けする攻撃を受けたからか、その防御は力を受け流すような防御だった。
力が逸らされていることを感じてすぐに僕は自分から剣を変に逸らし、相手の体のバランスを一時崩す。そして相手が少し耐性を崩している間に蹴りを入れた。
だけどその鎧は硬かった。距離をとる時間を得たくて蹴ったのだが、蹴りは無傷のようで逆に反撃をされる。何とか剣で防御したけれど、多少の身体強化で蹴ったところであまり意味はないらしい。
そして僕が下がるとすぐに今度はガーゴイルが横から襲い掛かってくる。それに対処しようとしたが、僕の前に出た女性を見て鎧の動きを注視することにした。
「ありがとう、エスメラルダちゃん」
「いえ、当然のことをしたまでです!」
彼女は風紀会の中でも接近戦闘に優れており、防御に関しては雪音ちゃんをもしのぐ。彼女に守りに入られたら僕だって崩すことは非常に困難だ。彼女とステファーニアの二人が揃ったらそれはもはや要塞だ。
エスメラルダちゃんが来たところで僕に対する興味だか思いは変わっていないのか、鎧は僕に向けて剣を構えていた。
「どうせなら鎧ではなく美女に夢中になってもらいたかったな」
なんて冗談交じりで言うとエスメラルダちゃんに突っ込まれた。
「ベニート卿はすでに学園中から夢中ではありませんか」
「違いないね! 貰えるのは冷たい視線だけど」
ははは、と笑うと彼女はくすりと笑った。
「ベニート先輩、私は今も生徒会長にふさわしい方だと思っていますよ?」
そしてそう言った。いつもは『卿』呼びする彼女だが、彼女が風紀会に入る前の呼び方『先輩』で。
グレーテルが居ることもあり、一瞬色々なことが頭をフラッシュバックした。
「……なんだか懐かしいね。一年前に戻った気分だよ」
「一年前とは違います。卿も私たちも成長し、下級生が入りました」
「そうだね、僕も君も学園生を守り、導く側だ。僕が言いたいことはわかるね?」
「はい。だれも通しません。……背中はお任せください」
僕はガーゴイルや天使を任せ、鎧に向かう。
さあどう戦おうか。こういった鎧のモンスターには大きく分けると2つ種類がある。
中が空洞になっており実体がないタイプ、単純に中に誰かが入り込んでいるタイプ。
前者の場合は少し面倒で、鎧に刻まれた印や魔石を破壊しなければ倒すことはできない。しかし後者の場合は中に居る実体を倒せばいい。
今回は後者だから中を何とかすればいい。とはいえ。
「相手は結構な実力者だ」
対応力も高いし、鎧のため防御力も高い。来ることがわかっていても、防御できないぐらい強い攻撃をするか、対応できないぐらいトリッキーに戦うか。
何度か剣を交わしながら一計を案じる。
それをしながら、僕は防御に徹するため剣を構えなおす。初めこちらを警戒していた鎧だったけど、やがてゆらりゆらりと体を動かし、僕に近づいて来た。
その動きは僕を惑わすためのものだだろう。
僕は鎧の動きに注意しその初撃を剣でガードする。そして切り返し追撃もガードすると足元を意識しながら少し後方へ下がる。
鎧の対応力は見事で、足りない力を技術と防御力の高い鎧でカバーしている。しかもなんというのかより厄介になっている。例えていえば戦闘で成長していくタイプと言えばいいか。
しかも相手の体力がわからない、つまり長期戦は避けなければならない。
だから僕はさっさとトドメを差すことにした。
「君は確かに強いね、でもやっぱりまだまだだ」
僕はそう言って鎧、ではなくその足もとに仕込んでおいた陣に魔法を打ち込む。魔法が陣に反応し、それは発動した。
「足元がお留守だよ?」
言葉と当時に鎧の足元から尖った岩が鎧を貫かんばかりに突き出した。
発動した魔法を鎧がよけることはできなかった。鎧は大きく削れ、鎧飾りもどこかへ吹っ飛んでしまった。しかし鎧を貫くことはなかった。
まだ、生きている。追撃しなければ。ならどこに攻撃するか?
多分剣を突き刺そうにも鎧ははじくだろう。でも通らないなら、隙間を狙えばいい。
「目の部分ががら空きだよ?」
僕はその鎧に唯一隙間のあった場所に剣を差し込んだ。
一瞬体がびくりと反応し腕が少し上がるも、やがてだらりと垂れる。僕は剣を抜くと魔素に変わっていく鎧から視線を外し辺りを確認した。
とりあえず見える範囲での心配はなさそうだった。あちらで戦っているグレーテルも天使に負けていないどころか押している。
しかしあと一歩というところで決定的な一撃を加えられていなかった。だから彼女はそれを使ったのだろう。
戦闘中でありながら辺りの人からどよめきが上がった。見たことない人は意外に多いみたいだ。
その暴れる二体の人形を見てエスメラルダもため息をつく。
「グレーテルさんもしっかり実力を上げている」
こんなことをできるのは学園生にいないだろう。もしかしたら学園長ができるか? そもそも特殊な無属性適性がないとダメだから、世界にも片手で数えられるぐらいの人しかできないはず。
「まさか……あの精度で複数体操れるんですの……?」
ガブリエッラも驚いている。
これが彼女の真骨頂。特殊な無属性魔法でしか動かすことができない人形を、さらに化け物のような計算と処理をし複数体動かしているのだ。
「だから僕には絶対無理なんだ」
ゴーレムというのは命令通りに動くことができるが、それは簡単な命令がほとんどでゴーレムが主体で動いている。
だが彼女がしているのは操作だ。命令もできるらしいが、彼女は自分でゲームのキャラクターを動かすかのように操作しているのだ。
「傀儡子……」
ガブリエッラは彼女の二つ名を呟く。それはとてもしっくりくる二つ名だと思う。
二体の人形はそれはもう簡単に天使を押しつぶし、引き裂いた。
勝ち誇った顔で僕を見るグレーテル。ゆっくりとこちらに近づいて来た。そんな彼女を見てふと彼を思い出した。
唯一無二と言えば彼女もそうだが、瀧音君もだ。
グレーテルはその操作ゆえ、とんでもない量のデータ処理を頭で並列に行っている。二つの人形を動かしているのだから当然だ。
瀧音君も同じようにたくさんのことを並列に処理しているはずだ。
ストールにあれだけ魔力をこめつつ、属性変化のエンチャントもしつつ、それをまるで自分の体のように動かし、形を変幻自在に変える。
また瀧音君と同じことができるのは世界中どこを探してもいないだろう。現在の彼並みに魔力を持つ者を知らないし、あれだけエンチャントに適性がある者も少ない。
魔法に関して二人は馬が合いそうである。
僕がグレーテルに声をかけ、ガブリエッラを紹介しようとしたが、それは中断せざるを得なかった
「お兄様、また天使が出てきたようです」
またか。
「休ませてはくれないようだね、皆、行くよ!」
WEBと文庫ごっちゃになっている時があって、もしかしたらミスをしているかもです。
今回の章終わった際に誤字と一緒に修正するかもしれません。