160 居残り組
いいところで場面変更してくる悪魔的作者私です
次は25日更新予定。
ベニート視点
瀧音君達が進んでから30分もせずに彼女たちは表れた。
「お兄様、助太刀に参りました!」
まず最初に来たのはガブリエッラだった。慌てた様子で僕に駆け寄り、回復魔法を唱えてくれる。それからすぐにモニカやステファーニア様、そしてほかの三会のメンバーたちが顔を出す。
「ははっ、待ちくたびれたよ」
僕がそういうとモニカとステファーニア様が僕の横へ来る。他のメンバーたちは現れた天使やガーゴイルと戦闘を始めた。
「これでも急いだのよ? …………それにしても思ったより人が少ないわね。もしかして」
「先へ行ったよ」
僕がそういうとモニカは眉をひそめた。
「止めなかったの? それよりベニート君は行かなかったの?」
「止めたかったし、行きたかったさ。でも彼らは止めたところでいくだろうし、僕はまずここを守る方が先決だと思ったんだ」
確かに元を絶つのも重要だ。だけどここを突破されるのだってしてはならないことだ。それはモニカだって理解しているはず。
それよりも僕が気になるのは。
「僕は先生たちが居ないことが気になるけど?」
「こっちまで来られないらしいわ。なんでも桜瑠依が結界を張っているそうで、教師達がはじかれるそうよ」
「……へぇ」
前々から彼女は準備していたのだろうか。
「だから教師たちは来られないわ。ただ……私は疑問があるの」
「それはなんだい?」
「学園長なら力ずくで破壊できそうな気がしたのよね。アネモーヌも何か引っかかるって言ってたし」
「僕もちょっと疑問だったんだ。ここは学園の土地だよね? そして彼女は学園の司書」
その返事をしたのはステファーニア様だった。
「こちらもそれは考えました。私たちも色々考えたうえでまず天使様……桜瑠依を止めないといけない、そう結論付けたの。ねえベニート」
「なんでしょう?」
「桜瑠依は本当に天使だったの?」
「ええ、天使でした」
「そう。なら私は行かないといけないわね」
ステファーニア様はそう言って転移魔法陣を見つめる。僕は何も言わずに彼女を見ていると横から声をかけられた。
「ねえベニート君」
「どうしたんだい、モニカ?」
「あなた、これからどうするの?」
「僕? 僕は……そうだね、うーん、ここに残ろうかな。ふふっ」
できることなら僕も行きたい。だけど僕よりも強く、僕よりもカリスマ性のある彼女が桜瑠依のもとへいった方がいいと思う。
なにより彼女は僕が止めようと勝手にいくだろう。そしたらここの守りはどうなってしまうだろうか。
僕が笑っているとモニカは真剣な表情で僕に言う。
「ねえ、ベニート君。一つ知っておいてほしいの」
「何だい?」
「私が安心して戦いに行けるのは、あなたがここで守っていることを知ってるから」
「へぇ、奇遇だね。僕だってここで安心して待っていられるのは君やステファーニア様が行くからだよ」
「ふふっ……ここは任せたわ」
モニカはそう言って手をグーにして僕の前に突き出す。
「虫一匹通さないさ」
そう言って自分のこぶしを彼女のこぶしにこつんと当てた。
モニカ達が進んでからどれぐらい時間が経過しただろうか。
戦力は多少増えたものの、現れる敵の数は減っていない。それどころか。
「だんだん、強いモンスターが増えてきましたわ!」
そうガブリエッラは言う。
「そうだね」
ガブリエッラが言う通り一筋縄ではいかない強いモンスターが増えている。今はしのげているが、これがずっと続くとなると僕はともかくみんなが持たない。
「お兄様……瀧音様達は大丈夫でしょうか」
「はは、瀧音君を心配することは、プロの家政婦の洗濯を心配するようなものだよ」
なぜかは分からないが彼が負けることを想像できない。それならまだこちらを守り切れるかの方が不安である。
そしてみんなも不安なんだろう。
この戦いをいつまで続ければいいかわからないから。先が見えないのは不安を増大させる。だからだんだんと士気が下がり、皆から元気がなくなっている。
何とかしないといけないな、そう思っているときにそいつは転移魔法陣から表れた。
「お、お兄様……」
不安そうな声でガブリエッラは僕の名前を呼ぶ。
転移魔法陣から現れたのは白い鎧だった。全身を覆う鎧で、中に誰が入っているかは見えない。だけどそれがまとう魔力は今まで出現していたモンスター達とは一線を画していた。
「お兄様、あれはいったい……?」
「うーん、なんだか立派な鎧だね」
近くにいた風紀会の子が、魔法を使うもしかしその鎧はびくともしなかった。また別の彼は物理的な攻撃を仕掛けるが逆にカウンターをもらっていた。
幸い何人かでフォローしたおかげで彼は大きなダメージを負うことはなかったようだ。
だけどあたりの空気は最悪だった。
ただでさえ皆は不安でいっぱいなのに、こんな強いモンスターだ。
大きなピンチを迎えていると言えるだろう。
しかし僕はそれがチャンスに見えた。失敗は許されないけど、とても大きなチャンスだ。
「皆は何をそんなに恐れているんだい?」
僕は余裕を装ってそういう。そして土属性の強化魔法を自分に唱え、僕は剣に重さをこれでもかと追加する。
「恐れる必要はないじゃないか。ねえ、君たちと一緒に戦っているのは誰だい?」
そして僕は全身に強化魔法をかけるとその鎧に近づき剣を振り下ろす。しかし鎧も持っていた剣を僕に振り下ろした。
剣と剣が衝突し、衝撃波が全身を抜けていく。こんなに重い攻撃をされたのは初めてかもしれない。
だけど勝てないわけではない。もっと、もっと力を……。ここで負けるわけにはいかないから。
その力比べに勝ったのは僕の方だった。その鎧は吹き飛ばされ地面に倒れこんだ。
「僕は式部卿ベニート・エヴァンジェリスタだ。僕の目の黒いうちは誰もここを通さない!」
僕は高らかに宣言する。
確かに強大な敵はピンチなのかもしれない。でも僕がここで彼を圧倒すれば、それは皆の勇気になる。希望になる。だから僕はここで余裕をもって勝てばいい。
いや、勝たなければならない。
「皆、安心してくれ。僕が居るからには負けはないよ」
そう言って僕は剣を構えた。心なしかみんなの目つきが変わったような気がする。
とはいえこれからどう攻めようか。
倒れた鎧の前に2体の武器を持った天使が降りて来たのだ。鎧を守ろうとしているのだろうか、その天使たちは僕に武器を向ける。
1体3はつらいし誰かに力を借りようか、そんなことを考えていると僕の前に飛びだす大きな影があった。
それは敵ではないようだ。僕たちの前にいる天使達に殴りかかっていたから。
その暴れているのは……。
「熊の……? ああ、そうか彼女か。ふふっまさか彼女が……? それは頼もしい助っ人だね」
そこに現れたのは熊の獣人のように見えたが、違う。それはかわいらしい人形だ。人形が天使たちの中で暴れていた。
「これは獣人、ではなく…………熊の人形?」
まじまじと現れた熊の人形を凝視するガブリエッラ。
「そうか、ガブリエッラが見るのは初めてだったか。大丈夫、敵ではないよ」
そう言って僕は後ろを見る。そこには背の低い少女がぬいぐるみを引きずりながらこちらに近づいてきていた。
「やっぱりね。こんなに動かすことができるのは彼女ぐらいしかいないからね」
その子をガブリエッラは見たことがなかったのだろう。
「あれは……小学生ですか?」
そう言って首をかしげる。ガブリエッラ、それは失礼だよ。彼女は小学生と見間違えそうな身長ではあるが、君から見たら先輩だ。
「前に話したことがあるじゃないか。れっきとした学園生で、ガブリエッラの1年先輩だよ」
あまり学園に来ないからね、見たことがないのも仕方がない。だけど学園一特殊な戦い方をする女性として話したことがあるから、もう察したようだった。
「熊の人形、2年生……もしかして、あの方がお兄様の言っていた……!?」
僕は頷く。
「ご名答。彼女が式部会小丞、傀儡子グレーテル」
・式部卿(会長職) ベニート 3年生
・大輔(副会長職) 紫苑さん 2年生
・少輔(副会長職) 瀧音幸助 1年生
・大丞 アネモーヌ 3年生
・小丞 グレーテル 2年生
・史生 結花 1年生
・美少女メイド ななみ 0歳
出そろいました、式部会です。