159 図書館ダンジョン⑦
次の更新は明日か明後日夜です。できれば明日。
確かに見た目は羽が生えた桜さんである。しかしあれは桜さんではない。桜さんもこいつについては知らないだろう。本物の桜さんは順調に進んだ伊織たちが、もうそろそろ出会っているころだろうか。
桜モドキは立ち上がるとこちらをぼーっと見るだけで何も言わなかった。
彼女はそのままゆっくり手を掲げると、人の手を広げたぐらいの魔法陣が現れ、一冊の本が出現する。
彼女が手をおろすとその本は彼女の前で浮遊し、ぱらぱらと勝手にページがめくられる。その本には非常に大きな魔力が使用されており、あたりに蛍のような光の粒がいくつも舞っている。
今彼女に攻撃したらどうなるだろうか?
いやだめだろう。すでにこのフロアの上の方に巨大な魔法陣ができてしまった。今から行けば踏みつぶされて終わることもありうる。
「皆、準備しておこう。来るぞ」
俺たちは身体強化や詠唱をしつつ、来るべき時に備える。
そしてすべてのページがめくり終わると、空中の魔法陣からそれは現れた。
最初に現れたのは大きな人間の足だった。そこからさらに太もも尻、胴、腕と下から順に魔法陣から召喚され、ちょうど今最後の頭が現れた。
そして召喚された彼が着地した瞬間、爆音とともに地面が揺れる。
俺たちはその振動を耐えつつ、召喚されたそいつの様子を見た。
「あれは何ですかね?」
「種族的には天使ですね」
「天使と言われるよりかは巨人と言われた方がしっくりくるわね」
その高さは2階建ての家ぐらいだろうか。贅肉なんてなさそうな引き締まった体に、古代ローマ人が着てそうな白くてシンプルな服。そして手には巨大なメイス。
「皆、巨人だけじゃない彼女にも注意したほうがいい」
先輩のいう通りだった。桜さんの姿を模した彼女も、新たな本をいくつか召喚していた。彼女は背中の羽をあまり羽ばたせることなく飛び、巨人の後ろへ移動する。
「ちゃんとフォーメーションができてますね」
近距離接近の巨人、そして後方支援の桜。彼女が後ろへ飛ぶと巨人がメイスを地面にたたきつける。
その振動は先ほどの着地の比ではなかった。空間全体が揺れ、近くにあったベッドやらテーブルやらが吹き飛ぶレベルだ。
「自分の座る椅子やベッドを吹き飛ばして、今後どう生活するのでしょうか」
ななみは素朴な疑問を述べる。
「なかなか余裕ある発言だなあ。でも俺も同じこと思ったよ」
テレビの前でアニメ見ている時だったら色々妄想するけど、こんな化け物みたいなヤツの前でそんなことしてられない。
てかあのメイスを受け止めて来いなんて言われたら、背を向けて逃げ出したいとすら思う。そんなことはできないが。
「ふむ、私たちが心配することではないだろう」
「そうですよー。負けたら人生終了ですからね。どちらも」
一応アイテムで脱出できるダンジョンだから、もしどうしようもないと判断したら俺たちは脱出できるんだけどな。その場合は桜さんが死ぬか伊織たちが死ぬか……いや桜さんが死ぬだな。
「何が何でも勝たなきゃだめなんだよな」
そんなことは絶対にさせない。
桜モドキは魔法の詠唱を始める。彼女の前に浮かぶ本から、大きな魔法陣が浮かび上がったと同時に先輩は叫んだ。
「来るぞ!」
桜モドキの魔法陣から魔法が放たれ、巨人がメイスを地面にたたきつける。それと同時に先輩は駆けだした。
桜の魔法陣から放たれたのは光り輝く一本の線。レーザーだった。
「っはあぁぁぁぁぁあああ!?」
狙われたのは結花だった。彼女は初めそのレーザーをガードしようとも考えていたようだが、彼女は血相を変え身をひるがえして躱していた。その後ろにいたななみはなんてことはなさそうな表情で躱す。
「結花様、後ろに人がいる状態で躱す際には注意していただかないと……」
「それは申し訳ないと思うんですけど、あれは普通ぅぅぅにやばかったんですよ! ななみさんなら回避してくれそうだったし」
ん、まあ。あんなぶっといレーザーが飛んでくるなんて思いもしてないだろうからな。
と、ななみたちが話している間に先輩は巨人の足元まで迫っていた。巨人はメイスを迫ってくる先輩に向かって振り下ろすも先輩はそれを薙刀で受ける。
「……信じられないわ」
それを見ていたリュディはそうつぶやく。
「メイスの先っちょと先輩は同じぐらいのサイズなんだけどなぁ」
メイスの攻撃を薙刀で受け流し、続いてくる蹴りを普通に躱し、巨人に向かって三連撃。
「リュディ!」
先輩が叫ぶと同時にリュディは魔法を巨人に放った。
それはストームハンマーである。的は非常に大きいためそれを当てることは容易かったであろう。しかしその巨体故、吹き飛ばすことはできなかった。
「こんなに耐える人を初めてみたわ」
巨人には直撃であった。それもガードせずにである。だけど足に力を入れ踏ん張るだけでそれを耐えてしまう。
先輩はその踏ん張ったときの硬直が欲しかったのだろう。だけど先輩に向かって十字架のような物が飛んできたため、先輩は攻撃を中断し回避した。桜モドキの魔法である。
俺は先輩が攻撃しやすくなるように、前に出て桜モドキの攻撃をはじく。しかしすでに巨人は体制を立て直し、メイスを俺に向かって振っていた。
「俺は野球ボールじゃないんだっての!」
気分はボールだ。うまく直撃したら多分ホームランも行けるだろう。でも今回は角度的に地面にめり込むかぺしゃんこになるかのどちらかだ。
すぐにストールの形を三角形にし、頭上で高質化させる。さらに少し体の場所をずらした。おかげで何とか受け流すことができたものの、足元に巨大地震が来たかのような衝撃がきた。
先ほどよりも強い揺れで俺はバランスを崩す。
だから横から来る大きな足をよけきれなかった。
「っっっぃぃぃい」
ギリギリだった。ギリギリストールでガードできたからいいものの、何メートルも吹き飛ばされてしまった。
「今度はサッカーかよ!」
それは俺だけではなく先輩も同時に狙っていたらしい。先輩は難なく躱したが、体制を直すためか後ろに下がる。
想定外ではあるが巨人にもダメージがあったようだ。どうやらサッカーボールはかなり硬かったようで巨人は蹴った後に一瞬足をかばっていた。そして『てめぇ』と言いそうな顔で俺を睨む。いや、そっちが蹴っておいてそれはどうかと思う。
先輩はその様子を見ながら魔力を上半身に貯めつつ隙を伺っていた。
またななみや結花は桜モドキに攻撃を仕掛けていた。が、桜モドキはそれを何なく回避している。何度か矢を放ったななみは、ならば、と魔力で大きな矢を作り出す。
「これでどうでしょう」
ななみは作り出したその大きな矢を上空に向かって放つ。それが空中で光り輝くと数えきれないほどの数の矢が桜モドキと巨人の体の一部に降り注ぐ。
巨人は桜モドキを守ろうと手を伸ばすも、それはできなかった。
先輩は一気に距離を詰め巨人に向かってためた力を開放したのだ。
「やっっばっっっ」
それを見ていた結花はありえないような物を見るような目で先輩を見ていた。でも俺だって同じ気持ちだ。
だってさ、先輩が持っていた薙刀がさ、こめられた魔力によって巨大な龍をまとっているように見えるんだぜ?
「龍が巨人に噛みついているわ」
リュディが言うように、それは龍が巨人に勢いよく噛みつくように見えた。その技は先輩にしては珍しいパワーを重視した攻撃である。
それは刃の通じない相手や防御力の高い敵に有効な技だった。
あのリュディのストームハンマーですら耐えた巨人が地面にたたきつけられ、目に見えて大きな傷ができている。また桜モドキもななみの矢を受けて少しダメージが入ったようだ。
俺はすぐに追撃しようと巨人のもとへ進むも、それは桜モドキの放ったレーザーによって妨害される。
そしてすぐに桜モドキは一冊の本を引き寄せると詠唱を始める。そこに向かってななみやリュディが攻撃するも、桜モドキはなぜか回避せずそれを受けた。
その間に巨人は立ち上がるも、足をかばうような立ち方だった。確実にダメージは入っている、この調子でいこう。そう思いたいところではある。
しかし桜モドキの使った魔法で、その思いは崩れ去る。
「……やっぱそうなるよなぁ。だから攻撃を回避しなかったのか」
知っていたけどずるいよそれ、と俺が思わずぼやく。
「瀧音に聞いていた通りだな」
先輩は薙刀を構えたままそうつぶやいた。
「こんなん本当に倒せるんですかねぇ」
結花がそうつぶやくのと同じくらいに巨人の傷はふさがった。桜モドキの傷もふさがっている。
桜モドキの回復魔法は巨人と自身を完全に回復したのだ。
ラスボスがベホマ? うっ_(꒪ཀ꒪」∠)_