158 図書館ダンジョン⑥
なんか色々言われるのかなと思っていたけれど、それはなかった。むしろ二つ返事で返されてしまった。さも当然かのように。
あんまりにもあっさりだったので少し動揺しながら、俺が知ってることをある程度暴露する。そしてつらい戦いになるかも知れないが本当に協力してくれるのかと確認をしたが、彼女たちの意思は変わらなかった。
ということで俺達は獣、天使、ゴーレムの本ではない第4の道を進むことになった。
「まさかこんな抜け道があるなんてね」
進みながらリュディはそうつぶやく。
普通に考えたら思い浮かばないよな。だって天使が持つ本は3つ。だから3か所にしか進めないと考えるだろう。でももう1冊本はあったのだ。
「過去の本とは、な」
先輩もまさか過去の本で道が開かれるなんて思いもしなかっただろう。またその過去の本を差す場所のヒントはほぼないし、知らなきゃ無理だ。
「それにしても、結花はどうしたんだ。そんな顔して」
例えるとクラスのヤンキーがしてそうな見るからにダルそうな感じだ。言葉にすると『やってらんねーよ』だろうか。
「どぉー---せそんなことだと思いました。思ってましたよ」
足早に進みながらそう結花は言った。
「何の話だよ?」
「瀧音さんがまだまだ隠しごとがあったことですよ。それでこのダンジョン攻略中もリュディさん、雪音さん、そしてななみさんにも言ったんですよ! 絶対、ずぇーったい瀧音さんは何か隠してるって」
「そうなのか?」
俺が聞くとリュディがうなづいた。先輩は苦笑いだ。
「リュディさんもリュディさんですよ。私がそう言っても『そうでしょうね。まあ必要ならしゃべるでしょ』なぁーんてこと言ってるし、雪音さんも同じような反応するし、ななみさんに至っては『しかしご主人様は甘いです。メイドへの愛は隠しきれていません』とかボケ始めるし、ななみさんと話しているうちに気が付けば大喜利っぽくなってるし」
ちょっとだけその様子想像できるかもしれない。はたから見れば面白そうな光景だけど笑ったら怒るよなぁ。
「よく走りながらそんなしゃべれるわね……」
リュディは感心した様子でそう話す。結花は無視して話をつづけた。
「踏んで縛って蹴って叩いて殴って嬲って脅してはかせてしまえばいいんですよ、なんて言ってもノリノリなのななみさんぐらいだし」
何その撲殺しそうな天使。いや、それよりもななみだよ! なんでノリノリなんだよ!?
「おい」
「申し訳ございません、喜ぶかと思って学習机と鞭とろうそくを用意しておりました」
さすがにリアルSMはやべぇよ! でもちょっと興味はあるビクンビクン。
「そんなのいつ使うんだよ、使わねぇから処分しとけ!」
「何事もチャレンジです、ご主人様。してみれば気持ち良いかもしれません。ほら、行く前はちょっと面倒って思っていても行けばすごく楽しかったとか、よくあるではありませんか」
確かにその現象あるよな。仲のいい友人なんだけど行くのめんどいと思っちゃうやつ。でも行けば絶対楽しいってわかってるし、行けば実際楽しいんだよなぁ。
でも今回の話はSMだぞ。
「皆、そこまでにしておけ。来るぞ」
先輩がそう言うと俺たちは戦闘準備を始める。進んでいる道の先にはモンスターが数体居るのが見えた。
「仕方ないですね。愚痴はこれぐらいにしておきますか」
そう言って結花は走り出した。俺と先輩もそれに続く。
敵の姿は目視で4体。獣2体、天使2体か。天使は剣と盾持ちと槍持ちで、獣の方は白い羽の生えた雌ライオンのような姿をしていた。
始めに動いたのはリュディだった。風の刃が俺の通り越し敵へ向かって飛んでいく。
それを盾と剣を持つ天使がガードしたのを皮切りに、あちらも動き出した。
「スフィンクス2体に武器持ち天使が2体か」
そう呟きながら走る俺を追い越して、一本の矢が羽の生えたライオンであるスフィンクスへ飛んでいく。
スフィンクスは回避したため直撃はしなかった。しかし矢は地面に落ちた瞬間に爆発したため爆風をもろに浴びていた。だが残念なことにダメージはなさそうだし、ひるんでもいない。
俺はアネモーヌに作ってもらった拘束アイテムを天使に投げつけながら、スフィンクスとにらみ合う結花の前に出る。
するとスフィンクスは大きな口を開け、こちらに噛みつこうとしてきたため第三の手でガードする。ギャリ、と今まで聞いたことがないような鈍い音が第三の手から聞こえた。
「結花、見た通りあいつらは早いし力もあるから油断しないようにな」
「瀧音さんこそ気を付けてくださいよ!」
そう言って結花は俺に噛みついて来たスフィンクスに蹴りを入れる。しかしそれは食らったものの、後ろに飛びながら受けていたのでスフィンクスにダメージはほぼないだろう。
その横では先輩がもう一体のスフィンクスに向かって長刀を振るところだった。そしてスフィンクスもまた爪に強化魔法をかけながら先輩を攻撃する瞬間でもあった。
「ふっ」
先輩の声とほぼ同時に吹き飛んでいくスフィンクス。スフィンクスは目に見えて大きい傷があり、よろよろと立ち上がった。
「やっぱ先輩は頼りになるな……」
こっちに来てもらってよかったと、つくづく思う。
「なかなか強いが勝てない相手ではない。気を引き締めろ」
先輩の声に俺たちは返事をする。
それから十分もせずにモンスター達は魔素へと変わっていた。かなり早めに倒すことができたのは、天使対策のために用意していたアイテムを使用したおかげだろう。
しかし。
「なんだか急に敵が強くなってませんかね」
結花は自分の汗をぬぐいながら、回復魔法を唱える。
「ご主人様のおっしゃっていた通りなら、それは仕方ないかと」
「そうね、私が逆の立場だったらそうするし。ここは何が何でも守らないといけないわ」
皆のいう通りこの先は敵にとって一番大事なところである。
「ここにあるのが力の源であり、相手の切り札だからな。絶対につぶさないと」
だからこそ現れるモンスターも先ほどまでは『きたなー殺すぞ~』だったのが『クソ野郎何が何でもぶっ殺す!!』に変わっている。
「皆の準備はよさそうだな……よし、注意して進もう」
先輩の言葉で皆が進んでいく。
それから何度かモンスターを倒しながら進むと、たとりついたのは大きな部屋だった。
その部屋は今まで進んできたダンジョンとは見た目が大きく変わっていた。あれだけあった本棚がなくなり、宮殿の広間のような場所に変わっている。窓には濃い赤のカーテンでふさがれており、外の様子は見えない。
そしてその広間の中心にはキングサイズくらいのベッド、円形のテーブル、そして1脚の椅子があった。
その椅子には一人の女性が座っている。
「な、なんなのこの部屋」
リュディは動揺していた。
「こんなに広いのに、これだけしか物がない?」
サッカーだって簡単にできそうなぐらい広いのに、それらの物がちょこんと中心におかれているだけなのだ。
「こんなところにずっといたら狂いそうですね」
ななみがそういいたくなる気持ちもわかる。ここには何もなかったから。テレビも本もスマホだってない。あるのはベッドとテーブルと椅子だけだ。
だからこそ狂気やら不気味さを感じてしまうのだろう。
そして椅子に座る一人の女性。あれの見た目は……。
「桜さん……ですかね? いやなんか雰囲気がちょーっとちがうような?」
結花の疑問に俺は答える。
「あれは、桜さんじゃない。だけど俺たちが倒さなければならない奴だよ」
俺が魔力をストールに込めると、桜さんの姿をした彼女は椅子から立ち上がった。
何事もなければ次の更新は明後日夜です。