157 図書館ダンジョン⑤
ちょっと短いです。ただし明日も夜中に更新します(背水の陣)
「少し状況を整理しましょう」
そう副会長は言う。
「進むために本を差し込む必要がある。その本は1冊で5人までしか進めない。そして本から浮かび上がったモンスターが……」
「天使のようなモノ、獣のようなモノ、ゴーレムのようなモノでした」
「ねえ、それった天使の映し出された本を差すと天使がいるフロアへ、獣だったら獣へ、そんな事ってないかしら?」
「っまー……これまでの流れ考えたら、それっぽいですよね」
「リュディ様結花様のおっしゃることの可能性は高いでしょう。なによりこの本がありますから」
そう言ってななみは妄想日記と言っていた、最初の本を持ち上げる。
「うむ、そういうギミックがあってもおかしくないの」
「本を差すことで進めるというギミックも相まってさらにそう見えてしまうな」
それを聞いた伊織は「うーん」と呟きながら浮かない顔をしている。
「伊織? どうしたのよ?」
そんな様子を見たカトリナが聞くと伊織は呟く。
「僕は疑問なんだ」
「それは何が?」
「もしこれから先に出てくるモンスターを描いているのだとしたら……」
伊織の言葉を結花が引き継ぐ。
「何でわざわざ自分のダンジョンのネタバレしてるんですかね?」
それは皆の共通の疑問でもあるだろう。
「ふむ。それでも負けることは無いという余裕の現れなのか」
「単純にこういった演出が好きなのかもしれんぞ。妾は好きじゃが」
紫苑さん、先輩はそう話す。しかしフラン副会長は首を振る。
「ですが罠らしくも見える」
フラン副会長はかなり警戒している様子だ。
「私が持つ知識から考えれば、九割九分罠ではないでしょう」
そう言うのはななみだった。
「僕も罠ではないと思う。だって桜さんがわざわざこんな罠をはるのかな?」
と伊織は呟く。副会長と伊織たちが話しているのを横目に、俺はななみのそばによる。そして小声で尋ねた。
「それはダンジョンメイドとしての意見か?」
「はい。こういったダンジョンを攻略させるのは、『攻略させるつもりのダンジョン』もしくは皆様の思う『ボスに絶対の自信がある』がほぼです」
「まあわざわざ罠を作らなくても、とは思うな」
もし『攻略させるつもりのダンジョン』ならわざわざ罠にしないでそれ通り出していいような気がするし、『ボスに絶対の自信がある』ならボスのヒント出してやってもいいか、ってなるだろうし。まあ実際のところよくわからんが。
「その通りです。そして何より一番の理由は今までの道のりです。ギミックはあったものの罠らしき物がほぼありませんでした。もしここで罠をはるならここに来るまでに性根の腐った罠がいくつかあってもおかしくありません」
そうなのか。と思っているとななみは俺の表情を見て察したのだろう。
「そうなのです。唯一気がかりなのは」
「気がかりなのは?」
「あのババアもかかわっていることでしょう。ご主人様は何かしらアクションを起こされたと予想しておりますが」
ななみがそう呼ぶのは毬乃さんぐらいか。
「毬乃さんがどう関わってるのかは分からないが、察することはできる。敵ではないよ」
毬乃さんは知っている、もう絶対、100%、間違いなく知っているだろう。彼女はそのことについて話さないが、何もしていないことを考えるとわざと何もしていないのだと察せられる。
俺は話を切り上げると、先輩や伊織たちの方に耳を傾ける。
どうやら話はほぼまとまったようだ。
皆からの意見を聞いていた先輩は小さく息を吐く。そして周りを見渡したのち口を開いた。
「……本当に映し出された魔物がいるのだろうかは分からない。もし本当にいたとして真意は本人にしか分からない。罠かもしれない。しかし今私たちに出来ることがあるとすれば、どうあろうと進むしか無い」
「それしか、道はないしの」
紫苑さんは呟き俺たちを見まわす。
「ならば進むメンバーをどうするかじゃな」
彼女たちは知らないから仕方がない。俺だってゲーム1週目は知らなかった。
だけど今の俺は知っていた。
「先輩」
俺がそう言うと先輩はゆっくりこちらを向く。
「メンバーや進む道に提案があります」
「……聞こう」
「パーティメンバーなんですけど、普段戦いなれているメンバーで挑みたいです。その方が動きやすい」
「それは私たちも考えていました」
そういうのはフラン副会長だった。
「お主たちはいつものメンバー。妾達は、フラン、そして伊織と加藤じゃな。バランスは取れていると思うぞ」
できればそちらにヒーラーが欲しかった。まあ今回の場合、伊織たちは誰が相手だろうとあまり変わらないから別にいいのか。
「ええ、それで個人的な意見なんですが、俺たちは5人いるしバランスが取れてるので、そっちが選んだ後に選ぶのがいいかなって」
「まあ確かにの」
と紫苑さんは納得する。
そして彼女たちは相談し、選んだのはゴーレムだった。決まってからすぐに伊織、カトリナ、紫苑さん、フラン副会長は転移魔法陣の中へ。
「では私たちも行こうか」
先輩はそう言うと本を差し込むために先輩は動き出す。しかし俺は先輩の前に立つ。
「どうした?」
「皆にお願いがあります」
「…………っへぇーこのタイミングでですね? お兄ちゃんたちが進んで居なくなって。そんなタイミングでそれを言うんですね?」
結花はジト目でそう言う。ドスの利いた声で言われると思っていたが、帰ってきたのは少しあきれた声だった。
「結花たちからすれば変なタイミングかもしれない。でもこのタイミングが一番いいんだ」
正直に言えば伊織たちはどこを選ぼうとどうでもよかった。でも俺たちは絶対に行かなければならないところがある。
「皆に協力してほしい」
「ねえ幸助……何をしてほしいの?」
リュディは俺に尋ねる。
「桜さんを助けるために一緒に戦ってほしいんだ」