156 図書館ダンジョン④
生きてます。
お待たせしてすみません、更新再開します。
瀧音視点です。
先輩に対して心配する事など、東京の高級ホテルでスマホの電波を心配するようなものだ。
先輩はここにいる誰よりも実力があると、俺は見ている。本来なら現時点で副会長や紫苑さんとあまり変わらない実力だったであろう。だけど先輩は俺らと様々なダンジョンで有益スキルを入手したのだ。そりゃ、頭一つ抜けてしまう。
光の兵士が多少出たところで、先輩の隙を突くことは出来ないし、目の前の槍の天使は先輩に比べるまでも無い。
だからこそ一番最初に武器持ち天使を倒したのは先輩だった。彼女の振るう薙刀に全く対応出来ていなかった槍の天使は、すぐさま消えて行ってしまった。
倒し終わった先輩は次に伊織達のフォローに回っているようだった。
ただ天使は基本的に伊織達へ任せているのか、光の兵士に攻撃するのみにとどめているようだ。
カトリナの持ち味である速度で天使を翻弄し、伊織が攻撃を加え、リュディが魔法で援護し、邪魔な光の兵士達は先輩とフラン副会長が抑えている。
倒すのは時間の問題だろう。
「はぁっ!」
伊織がかけ声と共に剣を振り下ろす。盾を弾きバランスを崩したところにリュディのストームハンマーに押しつぶされた。
すぐに伊織は動けない天使にとどめをさす。
天使達を倒した後、光の兵士達を全滅させるのに時間はそう掛からなかった。しかし最後の魔物を倒し、それを召喚した本が光を失い本棚に戻ると同時に、部屋に異変が起こる。
「っはぁーっ!? な、なな、ですかこれ?」
ところどころに魔法陣が浮かび上がり、本棚が動く。そして今までなかったものが召喚され、俺たちは武器を構え警戒をした。
召喚されたのは石像だった。彼らは全員手に本を持っていて、それぞれが背を向けるような形で△(三角形)を作るように立っていた。
そしてその三角に立つ石像の中心にも本が落ちている。
「皆様、アレはただの石像のようです、動くことは無いでしょう」
ななみがそう言うと、俺たちは武器を下ろす。
「罠はたぶん無いわね……」
石像を調べていたカトリナがそう言うと、三角の中心にあった本を結花は手に取る。
「なんなんですか、この本」
そう言って結花は拳でトントンと本を叩く。革製のハードカバーで作りは良い。彼女は本全体を確認した後、本を開いた。
「古代語、ね」
カトリナはその文字を見て呟く。
「中も古代語のようじゃの。フランは読めるか?」
それをのぞき込んでいた紫苑さんはフラン副会長に視線を向けた。
「勉強不足で……ほぼ読めません。アネモーヌ大丞がいらっしゃれば……」
アネモーヌがこの場にいればすぐに読んでくれただろう。今回は彼女がいない。しかし。
「まあ、ここにはななみがいるから。ななみ?」
「お任せ下さい」
その本を見ていたななみが報告してくれる。
「タイトルは『過去の本』のようですね」
ななみは結花から本を受け取りペラペラと開く。読み取っているのだろうか、何も言わずさらに先へとめくっていく。
ただ俺たちにとってはよくわからない文字列のような物が続いていたのだが、あるページで見覚えのあるモノも描かれていた。
それを見た伊織があっと声を上げる。
しかしななみは「なるほど」と言うだけで先へ進んでしまう。ついには本を閉じた。
「ななみ、なんて書いてあったんだ?」
「私に言わせれば……そうですね。日記、いえ……妄想小説でしょうか」
「妄想小説?」
「例えば……ご主人様は自分の考えた最強の設定で、盗賊に追われた馬車を救ったら、中から姫様が出てきて惚れられて最終的にハーレムを作り、野良の美少女メイドとイチャイチャする想像をされたことがありますね?」
なろう小説かな?
「例えが悪い。簡潔でもっとあり得そうな設定にしてくれ」
「では自分が考えた最強設定で、無双の妄想したことはございますね」
「何で確信持って言うの? まあ、したかしてないかでいえばしたな」
黒歴史での公開処刑かな? 中学2年生の時が皆の全盛期だぞ。
「それと似たようなモノで、俺が考えた最高のダンジョンの設定みたいなモノが書かれています。こんな風なダンジョンなら面白い、格好いいなどのように」
伊織はななみから本を借りると先ほど声を上げたページを開いた。
「ここに描かれているのはさっき僕たちが倒していた、光の兵士だよね?」
開いたページに描かれていたのは先ほどの光の兵士だった。
「ガーゴイルも映ってるわ。これってもしかして……」
「ええ、伊織様、リュディ様のおっしゃる通りでしょう、ここまでの道のりはこれに書かれている情報と一致しています。出現モンスターもそうですね。伊織様最終ページから2枚めくっていただけないでしょうか」
そこに描かれているのは先ほど戦った武器を持つ天使達だった。
「ほう、ならこのダンジョンに出てくるモンスターの情報がここに書かれているって事はじゃ。この先のモンスターも……とはいかんか?」
「その可能性は無さそうですね」
フラン副会長は伊織の持つ本をめくる。最終ページまであと2枚分しかない。
「そうですねモンスターにかかわる情報はありません。ただこの場所から進む方法は書かれております。真偽は不明ですが」
「ゑっ、それって罠じゃないんですか」
結花は顔をしかめてそういう。
「でも、他に先へ進む道は見当たらないわ」
リュディはあたりを見てそう言った。辺りは本棚だらけで唯一の道は来た道だけである。
「ともかく、どうすれば先に進めるんだ?」
「石像の持つ本を決まった場所に差し込むことによって魔法陣が起動すると……」
ななみの言葉で俺たちの視線は三体の天使像、その手にある本へ。
「ってもどこに差し込むのよ」
カトリナのボヤキに答えたのは、フラン副会長だった。
「辺りを良く見て下さい。この場所なら、いくらでもありそうですよ」
俺たちは辺りを見つめる。
「っはぁーっ、まさかとは思ってましたけど、まさかなんですかね」
「まさかよ、こんな広いところを手当たり次第にだなんて、そんな馬鹿な話あり得ないでしょ?」
皆の視線はバラバラだ、でも見ているものは同じである。
このダンジョンは図書館をモチーフに作られている。そのため、壁は全て本棚だった。
「手分けしてするにしても、骨の折れる作業じゃのう」
しかしそれを一つ一つしなければならないだろうか。
いや、違う。実は石像がその場所を指し示している。
またゲームでは簡単に分かるように、!(びっくりマーク)すら表示されていた。そこへ本を差し込むことで先へ進めるはずだ。
多分この配置はゲームと一緒のようだから……。
「この石像はなぜ三方向を向いているんだ?」
俺が言うと結花が反応する。
「向かい合っていても良いと思うんですけどね」
「動かせるとかはないよな、視線が関係あるとか?」
と石像に触れてみる。その石像はまるで氷のように冷たかった。
「視線って何か関係があるんですかね? ちょっと見てみますか」
と、結花が一人の視線の先、本棚へ駆けていった。
「有りました、ありましたよー? 一冊本が差し込めそうな隙間がありました!」
と嬉しそうに報告する結花。すぐに皆が集まってその場所を確認する。
「確かに空いてるね……しかもこの辺りの本は接着したように動かないよ」
「なにかがあるのは間違いないわ。それにしても本自体には何か描かれているの?」
リュディはその本を手に取り開こうとするも、それは開かなかった。
「どれ、貸してみぃ……ふむ開かないのう」
今度は紫苑さん、そして結花も試す。
「ただのダンジョンギミックですかねー?」
「ちょっと貸して」
本を受け取ったカトリナは良く調べて見る。
「アタシの気のせいかも知れないけど、何らかの力を感じる。でもこれ以上は分からない」
悔しそうな表情のカトリナ。盗賊スキルで伸び悩みをしているならば、後でからくりの城やあのダンジョンを勧めるのも良いかもしれない。
「力尽くでも駄目だろうか」
と先輩が力を入れる。しかしやはり本は開かない。
「先輩、魔力を本に込めてみて貰っても良いですか?」
と先輩が魔力を込めるも、そのときは何も起こらなかった。
「なにもおきな…………っ皆さがれっ!」
そう話している最中に不意に本が光をまといゆっくりと浮かび上がる。そして先輩の声で皆が後ろに下がり武器を手に警戒態勢になった。
本が勝手に開かれ、そこにホログラムのような何かが浮かび上がる。
「なんだ、コレ?」
その見た目は四足歩行の獣のようなもの。それからモンスターが出現するのではと皆が警戒していたが、それ以上は無かった。やがてホログラムらしき物は霧散し、本が閉じられる。
もう一度試してみたが同じ結果だったため、本を差し込むことにした。
「何か起こるかも知れないから、気をつけろよ?」
カトリナとななみに罠を確認してもらい、先輩が差し込む。一応皆で警戒はしていたが、トラップは無いようだった。
「転移魔法陣が……!?」
魔法陣の近くにスタンバっていたフラン副会長が動いたことを報告してくれる。彼女は眼鏡の位置を直し、興味深そうにその魔法陣をじっと見つめる。
「魔法陣が輝き始めましたね。移動が出来るようになりましたが、……輝きが小さい」
彼女が言うとおり、魔法陣は弱々しく光っている。頼りない青い光を見るに、転移できるのは。
「せいぜい五人じゃな」
「よくあるダンジョンの制限人数と同じだよね。なんとか全員で行く方法を考えないと」
紫苑さんと伊織が魔法陣を見てそう話す。
「じゃあ他の本を差し込めばいいんじゃないですかね? ほら他にも二冊ありますし」
結花の言葉に全員が石像の持つ本に視線が行った。
「石像の先へ行こう」
俺はカトリナを促し本の元へ。
石像から本を抜き取り、視線の先へ。本の差し込む場所はすぐ見つかった。しかしだ。
「二冊差し込むと光が消えるようですね」
眼鏡を抑えながらフラン副会長が少し落胆したような声を上げる。
「では最初の本を抜き、別の本を差し込んだらどうなるんですかー?」
結花がそう言うと、すぐにカトリナが本を差し込む。
「魔法陣の色が赤に変わったわ」
リュディがそう報告してくれる。それから『じゃあもう一冊は?』となるのは必然で、すぐに組み合わせを試す。
「やはり、はめる本によって魔法陣の色が変る」
「色だけでは無く、魔法陣に設定された座標が変更されているように見えるわね」
「リュディ様の仰るとおりでしょう。こういったギミックはダンジョンには良くあります」
ななみの言葉を聞いて確かにと、フラン副会長が頷く。
「まだ一年生が入学する前、似たような仕掛けを見たことがあります。本ではありませんでしたが、仕掛けを起動するといける場所が変わりましたね……確か紫苑と雪音もいましたよね?」
「ああ、覚えている。あの時は人数制限は無かったから、全員で全てのルートを行ってみた。だが今回は……」
先輩の言葉に紫苑さんは頷く。
「なるほどのう。別々のルートを進まなければならない。そういうことじゃな」