155 図書館ダンジョン③
フラン副会長視点です
浮かぶ本から現れ出したのは、またもや光の兵士だった。
現れ続ける兵士に気を配りながら皆は戦う。私は彼らを見ながら眼鏡の位置を直した。
「厄介ね」
浮かんでいる本の数は今までと比べものにならない数だ。これら全てから召喚される事を考えるだけで頭が痛い。
すぐさま箒の前に魔法陣を具現化させ魔法を発動する。いくつもの尖った岩が前に出現し、勢いよく射出された。
そしてリュディヴィーヌ殿下に一番近い光の兵士にそれは直撃した。突き刺さり吹き飛びもう一匹も巻き添えにしてそれは壁に激突する。
光の兵士達はここに居るメンバーなら誰もが楽に倒せるだろう。しかし相手にしなければならないのは彼らばかりではない。
「天使達がいるというのに、こんなに沢山っ」
伊織君はそう言って大盾をもつ天使に斬りかかる。
私は結花さんや加藤さん、そしてななみさんと共に兵士の対処に回った。
雪音は一人で槍の天使へ、リュディヴィーヌ殿下は伊織君と一緒に大盾の天使に狙いを定めているようだ。
ただ最悪という状況では無い。現れた本から全てが同時に出現する訳では無いらしい。また召喚された終わった本は本棚に戻っており、本棚から新たに出てくる気配は感じられない。
「終わりはあります。さあ落ち着いて処理しましょう」
私はそう皆に向かって叫ぶ。そして瀧音君の近くの兵士や、加藤さんに攻撃しようとした兵士へ石弾を飛ばす。
「紫苑さん、奥のをお願いします!」
剣と盾の天使と戦う瀧音君は紫苑に向かってそう言う。彼女は魔法を放つことで答えた。
彼女が扇子を振りかざすと、彼女の目の前に三日月型の黒い刃が出現した。
「なによ、アレ」
加藤さんは闇魔法を直に見たのが初めてだったのだろう。闇魔法の使い手は滅多にいないからそれは仕方ない。
三日月型のそれは、まるで光を吸い取っているようだった。その空間が切り取られたかのようで、見る人によっては深い嫌悪感を感じたりするらしい。
彼女はその刃を射出すると、一直線に弓を持つ天使に飛んでいく。しかし光の兵士が動けない弓の天使の前に立ちはだかり壁になった。
しかしその黒い刃は兵士を何事も無かったかのように通り過ぎると、勢いそのままに天使へ飛んでいく。
刃が通り過ぎた光の兵士は、一呼吸置いて真っ二つになり、その傷口から光る黒い粒子が浮かぶ。そして黒い粒子はだんだんと体を侵食していき、最後には魔素になって消えた。
黒い刃はそのまま飛んでいき、拘束された弓の天使に直撃した。
まるで体に吸い込まれるようだった。その黒い刃が天使の皮膚に刺さった瞬間、金色の光の粒が天使の傷口から現れる。
弓の天使は歯を食いしばり苦悶の表情を浮かべるも、膝をつくことも無くしっかり立っていた。そして武器も握っていた。
「まずいですね」
思わず呟く。どうやら瀧音君が使ったアイテムの効果が切れ拘束がなくなったようだ。
弓の天使は自由になった体を動かし、冷たい視線で紫苑をじっと睨む。先ほどの攻撃は相当こたえたのだろうか、その視線は鋭い。
弓の天使を守るためだろうか、紫苑の前に剣と盾を持つ天使が向かう。
紫苑は私と同じく接近戦が得意というわけでは無い。雪音がすぐに倒せないレベルの天使に接近されるのは少し危険だ。なにより今も睨んでいる弓の天使からも攻撃を受けるであろう。
しかし紫苑へのフォローは必要なかった。赤いストールをなびかせた彼が飛び出したから。
「紫苑さんに魅力を感じるのはわかるが、お前の相手は俺だろう」
彼は剣と盾の天使に横からストールで殴りかかる。それを見た紫苑は愉快とばかりに笑った。
「はははは! 良いことを言うのう。ほれ、幸助。魅力的なおなごがここにおるぞ! しっかり働くんじゃぞ!」
チラリと、ななみさんは兵士に矢を放ちながら瀧音君を見る。しかし彼女はこちらに加勢することは無く今度は雪音達の方を見る。そして視線を辺りの兵士達に向けた。
彼女は大丈夫だと思ったのだろう。私もそう思う。
ほんと、瀧音君は面白い戦いをする。
彼にとってストールは盾であり、武器であり、腕であり、そして足だった。
攻撃を防ぐだけで無く、バランスを崩せばストールを使って後方へ飛ぶし、追撃をされても抜刀し、相手の攻撃を防ぐ。
「幸助、下がるのじゃ!」
視線の先には、弓を引き絞った天使がいた。また彼女がつがえている矢の少し先に大きな魔法陣が浮かんでおり、これから大きな技が来るのが分った。
そして彼女は矢を放つ。
その矢が魔法陣を通過すると、まるでコピーペーストされたかのように、同じ矢が魔法陣からいくつも射出される。
そして瀧音君とその後ろにいる紫苑に向かって勢いよく飛んでいった。
瀧音君はその攻撃を防御するためだろう、後退しストールを前に構える。
「なに。幸助、ここは妾に任せておれ」
紫苑はそう言うと魔法を発動させる。すると瀧音君の前の空間に異変が起こった。
急に黒い穴のような物が浮かび上がったのだ。そしてそこから大きな腕のような物が、剣と盾の天使に向かって勢いよく飛び出す。天使は盾で防御し、後退せざるを得なかった。
しかし紫苑の魔法はそれが目的で放たれたわけでは無い。
瀧音君の前にはあと二つ、紫苑の前には三つ、黒い穴のような物が出来ている。そして飛んでくる矢に向かってその腕が飛び出した。
「こんなものかの」
圧巻だった。いくつも飛んできていた矢はその腕にはじき飛ばされ、突き刺さり、やがて全ての矢が防がれると光の粒となって消えていった。そして、役目を終えたかのようにその赤黒い腕と穴が消え、瀧音君は剣と盾の天使に殴りかかる。
また紫苑の行動も早かった。もう既に次の魔法を準備していたようで、彼女の周りにはいくつもの黒槍が浮かんでいた。
「まあ、妾相手によく保った方じゃのう」
それは弓の天使に向かって射出される。
もう負けることは無いだろう。弓の天使に槍が突き刺さるのを確認し、私は視線をずらす。
雪音の方はどうだろうか。