153 図書館ダンジョン①
その見た目は図書館と言って差し支えないだろう。ダンジョンらしさは感じなかった。
通路の周囲は本棚で、そこには沢山の本が収納されている。背表紙に書かれている文字には日本語もあれば、日本語ではない本もあり統一性は無い。サイズもバラバラで、大きい本の横に小さい本が置かれていたりもした。
「静かで、本だらけで、図書館に来ているみたいですねぇ……」
結花の言葉に伊織達は頷く。
桜さんが奥で待つ図書館ダンジョンは、大人数での攻略が可能になっているダンジョンである。特に人数制限などは無く何人もパーティメンバーを送り込むことが出来る。
しかし代わりに一回の戦闘で出現するモンスターが多かったり、途中でパーティメンバーが分かれて行動しなければならなかったりもする。まあ最終的に合流するが。
また同時進行でダンジョンからあふれてくるモンスターの処理もしなければならないため、パーティはかなりバラバラになってしまう所でもある。
今回ダンジョンの外では、ベニート卿やすぐに駆けつけてくれたオレンジやいいんちょ達、そして風紀会のメンバーが居るから大丈夫だろう。
それに他の三会メンバーも教師も応援に来てくれるはずだ。
ということで図書館ダンジョン攻略にはリュディ、先輩、ななみ、結花、伊織、カトリナ、紫苑さん、フラン副会長となかなかのメンバーが揃った。
「ダンジョン内部の見た目は結花ちゃんの言う通り図書館だけれど、私は少し不気味かしら……」
辺りを警戒しながらリュディはそう言う。
俺も同じ気持ちだ。普通の図書館のように静謐なひとときを過ごせる場所とは言いがたかった。
「僕もそう思う。薄暗くて、静かで、変な匂いが充満していると……こう、なにかが出そうだよね」
どうやら伊織もそう思っているようだった。
「確かに何かが出そうな雰囲気があリますね」
フラン副会長は、辺りを見て同意した。そしてこちらを振り返ると得意武器である箒で前方を指し示す。
「とりあえず急ぎましょう、封印のことも、あふれ出るモンスターの件もあります」
それから先輩を先頭にその本棚で出来た通路を進んでいくと、開けた場所に出た。バスケットボールのコートぐらいだろうか。そこもまた通路と同じように壁が本棚になっており、そこには本で敷き詰められている。
また柱には先ほどのガーゴイルが掘られており、カトリナや伊織はそいつらを見て一瞬ピクリと体を反応させていた。ただそれはただの石像のようで、動き出すことは無かった。
俺たちがフロアの中心ぐらいまで進むと、それは起こる。
「何か、来そうじゃの」
紫苑さんがそう言うのとほぼ同時だった。
辺りの本棚から本がひとりでに、それもいくつも飛び出してくるではないか。それらは本棚の前で浮遊したまま、勝手に開かれる。
すぐさま俺はストールに魔力を込めて、刀に手を添える。
飛び出した本は、風に吹かれているかのようにパラパラとめくられ、とあるページで止まる。すると本に書かれていた魔法陣が空中に浮かび上がった。
その魔法陣から現れたのは先ほども戦った光の兵士だった。その魔法陣が消えると同時に、本は元の棚に戻り、光の兵士達は動きだす。
動いたのをを見てすぐに飛び出すと、自らに近い兵士に接近する。そして相手の攻撃を第三の手でガードし、刀を抜く。
近くにもう一体居たが、第四の手で守る必要は無かった。
それは黒い刃とでも言えば良いのだろうか。三日月のような形をしたそれは俺の横を通り過ぎ光の兵士に当たる。まるで紙を相手にしているかのようにのように光の兵士を切り裂くと、魔素と魔石へと変化していった。
黒い刃の魔法は紫苑さんだろう。紫苑さんは闇属性魔法のスペシャリストだ。図書館ダンジョンでは闇魔法が弱点である、天使族や光系魔法が得意なモンスターが多い。今回の攻略ではとても活躍してくれるだろうし、是非ともダンジョン攻略に来て欲しかった人でもある。
チラリと他を見てみれば、先輩や結花や伊織やカトリナといった前衛をこなせる者が前に出て戦っている。後ろではリュディ、ななみ、フラン副会長がそれぞれ攻撃しようとしていた所だった。
「面白いダンジョンじゃのう。まさか本から魔物が出現するとは」
全てを倒し終わり、先へ進んでいると紫苑さんがそう言う。それを聞いた先輩は、確かにと頷いた。
「紫苑もそう思うか。私は色んなダンジョンに挑んだつもりだったが、コレは初めてだ」
「私もです。会長達と色々行ったつもりでしたが……二人は通路の本にも注意しなければならないと思いますか?」
「警戒は必要じゃろうなぁ」
「警戒するに越したことは無いが、この通路ではな」
「辺りは本棚だらけですからね。仮に広い空間でしか出現しないのであれば警戒も少し弱められるのですが」
「確実にそうじゃとは言い切れんしのう」
「瀧音やななみはどう思う?」
先輩に話を振られ、ななみはすぐに答える。
「確実とは言えませんが、通路の本棚からモンスターが出てきてもおかしくはないでしょう。ただし召喚に遅延時間があるため、その間にこちらも戦闘準備を行えば問題ないのかと」
「俺も同じような意見だ。何らかの石像やトラップがあればそれはそれで注意が必要だと思う」
言うとおりじゃの、と紫苑さん達は話を続ける。
どうやって攻略するかを話し合う先輩達、そしてベニート卿は大丈夫だろうかと話すリュディや伊織達を横目に、俺は小声でななみに聞いてみた。
「ななみはこのダンジョンをどう思う? こういったダンジョンは結構あるのか?」
「すこし特殊で珍しいタイプのダンジョンであるとは思います。ただもっと特殊なダンジョンも耳にしたことがございますので、あまり驚かないですね」
彼女は俺が小声で話したのを察して、メイドナイトとして答えてくれた。
「ただ私はダンジョンの仕様よりも別に気になる事があります」
「別の事でか?」
「はい。サラクエルについてです。先ほどからずっと考えているのですが……」
「それは大天使だから? 堕天しかけているから?」
「確かにそれもありますが、もっと根本的な話です」
「どう戦うか、とか?」
「確かにそれも考えなければならないことですが、違います。意図がつかめないのです」
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てか本編よりクオリティ高いのではないか疑惑 (小声)