152 桜瑠依(さくらるえ)④
遅くなってすみませんorz
魔法陣というものは、陣が魔力を得て起動することによってことで、光り輝くものである。魔力が残っていればうっすら光っていたり、魔石などで別途から魔力を得ている場合は光っていることもあるが。
しかし今の輝きは、まず間違いなく起動しており、何かが転移しているものだった。
そこに現れたのは、人を模した光の塊だった。頭のような部分に顔はない。しかしその手には剣や槍があり、背中には羽のような物があった。光の兵士だ。
それは1人だけではない。わらわらと数人も出現していた。
戻ってそちらに対応しようかとも思ったが、既にこちらに来ていたベニート卿達を見て、ガーゴイルに注力することに決める。
またもう一匹のガーゴイルの方をチラリと見てみれば、結花と先輩が対応しているようだ。二人なら問題なく倒せるだろう。
本棚にたたきつけられたガーゴイルがこちらを引っ掻こうと腕を振るうのを、第三の手で受け流す。そして更に一歩踏み込むと、刀を抜いた。
そしてすぐに彼らの応援を……そう思って光の兵士への方を向いたが、そちらには応援に駆けつけてくれた皆と、リュディで十分そうであった。
リュディのストームハンマーは出現した兵士達を吹飛ばしていた。しかし、それぐらいでは倒せなかったようで、光の兵士はゆっくりと立ち上がっている。
そんな兵士にベニート卿は大きく振りかぶっていた剣を振る。魔力と体重の乗った力強い攻撃は、一撃で光の兵士を切り飛ばした。そして振り返りながら剣を振り、もう一匹を倒す。
伊織の方はカトリナと二人で攻撃しているようだった。カトリナがスピートで翻弄し、伊織が攻撃をたたき込む。もう何度も連携していたのであろう、言葉を発しなくても意思疎通はバッチリだった。
全て倒しきって、俺たちは転移魔法陣から少し離れたところに集まる。
「やれやれ、モンスターが出現、か。大変なことになったね」
言葉では少しおどけていながら、真剣な表情で皆に言うベニート卿。
もちろんだが、今回は楽に倒せたから良かったね、となるわけではない。
「転移魔法陣からモンスター、それが問題ですね。守りをどうするか。そして大本をどうするか」
フラン副会長が言うように、今は単純にダンジョンを攻略するわけにはいかない状態になっている。
もし俺たちが全員ダンジョンに突入し、桜さんをなんとかしている間に、モンスターが再度魔法陣から出現し暴れ回ればどうなるだろうか。
「モンスターが現れるのは今回だけかもしれないですし、かといって確実にそうだと言えるわけでもないですしー。ほんっっっと面倒ですね」
結花の言葉に先輩が頷く。
「ダンジョン攻略に行く組と、この場の守りを固める組が必要だろうな」
「単純に攻め落とすことだけ考えるわけにはいかんしのう」
まあ当然、そうなるだろう。
ただつい先ほど、皆が応援要請をしたから、時間が経てばこの問題は解決するとは思う。
バッドエンドで。
もちろん俺はそれを避けるために必要なピースを集めていた。
エッロサイエンティストに借りを作って天使捕縛用のアイテムの作成を依頼した。そのアイテムを作成するために必要なアイテムを狙いながら、魔素(経験値)を集めた。さらには有用スキルも一緒に取れるダンジョンも選択した。
強いボスを倒した訳ではないが、俺たちは強くなった。今回のイベントに間に合わせるために。
そしてピースはあと一つで揃う。しかしその最後のピースは俺にはどうしようもない。
だけど勝手に用意されるだろうと、確信を持っていた。
今それが証明される。だってほら見てみろよ、伊織を。
「ベニートさん。僕は、すぐにでもダンジョンに行きたいです」
その言葉に全員の視線が伊織に向く。
「僕は桜さんに聞きたいことがあるんです」
伊織はベニート卿の前へ歩いて行く。
「このまま行かなかったら後悔する、そう思うんです。桜さんは僕に色んな事をしてくれた。僕はそれが嘘だと思えないんです」
伊織は続ける。
「だからベニートさん。僕をダンジョンへ行かせて下さい、いえ」
そして伊織は言い切る。
「僕はダンジョンに行きます」
しかし彼は理解しているのだろうか? だから俺は伊織に問うのだ。
「なあ、伊織。覚悟は出来てるか?」
イベントを進めた伊織だ。桜さんとはかなり仲良くしているはずだった。多分この中で一番に。
だからこそ、受けているショックは誰よりも大きいはずだった。
しかし彼の覚悟は、振り返った彼の顔を見れば明らかだった。
「すまん、そんなの聞くまでもなかったな」
俺が笑いながらそう言って伊織の肩を叩く。
伊織は頷いた。
「伊織君。僕はね、用心深いんだ。だからちゃんと言葉で確認したい」
今度はベニート卿が伊織に問いかける。
「まず、君はそれなりの実力を備えているかい?」
伊織が目を見たまま、頷く。そして補足をしたのはフラン副会長だった。
「それは私が保証しましょう」
ベニート卿は、ふぅん、と言うと伊織を見つめる。
「既に、魔法陣から僕たちを襲うモンスターが現れ始めている。それは事実だ」
分るよね、と小さく息をつく。
「もうこの時点で、未来を予測できないかい? それでいて君は……聖伊織君は戦えるかな?」
「……もちろんです。もし、桜さんが悪事に手を染めるなら。僕が止める」
ほら、ハッピーエンドへの最後の一ピースが揃った。これで俺の想像する未来予想図は完成する。
後は間違えないように、はめるだけだ。
「それに。僕には手を貸してくれる仲間達が居ますし」
そう言って伊織は俺たちを見た。
「はは、はははは、はーはっはっは」
ベニート卿は大きく口を開けてすごく楽しそうに笑う。なぜか一緒に紫苑さんも笑っていた。
そして俺たち全員を順に見て、最後に伊織を見た。
「僕はね、自分がここに残るべきだと思うんだよ」
「それはどうしてですか?」
フラン副会長が問う。
「この中でなら一番強いと自負している。未来のことは分らないけどね」
そう言ってフランさんを見つめた。
「もちろん、ダンジョンの奥へ行きたいと思ってるさ。だけど一番に優先すべきは、この学園を、今いる生徒を守ることだ」
分るよね、と言われて頷く。
「ここは最終防衛する所になるだろう。だけど場所時間が経てば、いずれモニカ会長やステファーニア様がこちらに来る。教師も来てくれると思う。ただ、それまでは誰も通させてはならないんだ。もちろん来てからも誰も通させてはならない」
「だから僕は守りに徹しようかなって。それにさ」
「それに、ですか?」
「なにより、頼れる後輩達が居るから、僕は後ろに徹することが出来る。ただ、聖君。先に行くのは構わないけれど、皆来るのだから無理はしないでね」
伊織はもちろんです、と頷いた。
その様子を見て、俺を見て、ベニート卿は笑う。
「未来の三会は安泰だね」
八月一日はマジエク③巻の発売日!
今回も1,2巻に劣らないぐらいの加筆がございます!WEB版では飛ばした、雪音先輩の覚醒シーン。
そしてマジエクで一番盛り上がるであろう、あのシーンです。
また今回も店舗特典が色々ございます。
メロンブックス様やとらのあな様ではリュディやななみのファンクラブカートが貰え、また文庫で言うと25P分くらいの冊子がついてきたりします!
詳しくは公式サイト(↓の方の③巻表紙から飛べます!)にございますので、そちらからご確認、お好きな物を購入していただければと思います!