150 桜瑠依(さくらるえ)②
ちょっと時間オーバーしたけど許容範囲ですよね( ^ω^)
嘘です、すみませんでしたorz
そのななみの言葉を聞いて、すぐに反応したのは三会の先輩達、そして結花だった。
ベニート卿を先頭とし三会副会長達が前に出る。ある程度散らばっているのは、俺たちを守るための陣形だろうか。
誰よりも前に出て、剣に手を添えるベニート卿。俺やリュディの横に立ち薙刀を構え、精神統一している先輩。扇子を開き、闇魔法を放つ寸前の紫苑さん。得意武器の箒を手に持ち、伊織達の前に立つフラン副会長。
桜さんだからこそ、今回攻撃されることはないだろうと思ってはいた。しかし、最悪を想像して皆を呼んだのは良かったと思う。
だって、こんなにも頼もしい。
「もう察しているだろう? とりあえず言えることは彼女が天使ラジエルだよ。ねえ桜瑠依さん」
マジエクの制作者は適当な命名をする事がある。
ツクヨミダンジョンでもそうだった。単純に名前を入れ替えたモンスターも出てきたが、ここでは桜さんがそれに当てはまる。
天使ラジエルの別名、サラクエル。それを捩っただけの桜瑠依。俺は初見で気がつかなかったが、変態紳士の中には彼女の正体にすぐ気がついた人もいたらしい。
「そうね、貴方の言うとおり、私はラジエル。あとの説明は不要よね、大体は文献通りよ」
「嘘だっ!?」
伊織は叫ぶ。この中で誰よりも彼女に関わっていただろう彼が。
「……ねえ、嘘だよね、桜さん。文献通りって嘘だよね!?」
伊織は泣きそうな顔でそう言った。ただ彼が泣きそうになるのも頷ける。
だって文献にはラジエルがこの世界で暴れ回ったという表記があるから。それが本当だとしたら、桜さんが暴れ回ったということになるから。
「テスト前は勉強頑張ってねって応援してくれたし、いつも快く場所を貸してくれたり、笑ってコーヒー入れてくれたじゃないか!」
桜さんは微動だにせず、空から伊織を見ていた。
「僕が困ったときに相談したら桜さんは――」
「貴方は桜さん、桜さんと、うるさいですね」
伊織の言葉にかぶせるように、桜さんは言う。淡々と、突き放すように。
そして言葉と一緒に彼女の魔力が体からあふれ出てくる。それは思わずベニート卿が剣を抜き、ななみが矢を引き絞るほどだった。
「事実は事実。貴方が何を言おうと私が先ほど認めたでしょう。現実を見なさい」
伊織は何も言わず歯を食いしばる。
「桜さん、いや、ここではラジエルさんと呼んだ方が良いかな」
そう言うのはベニート卿だった。彼は珍しく真剣な顔で俺たちを庇うように前に出ていた。
「どちらでも構わないわ」
「では桜さん。貴方の目的はなんだい? 言いようによって僕は貴方を倒さなければならない」
そう言うと桜さんは笑う。
「貴方が私を倒せると思っているの?」
彼女の魔力がベニート卿へ向く。多分ベニート卿は突き刺さるような魔力を、桜さんから浴びていることだろう。
ベニート卿の頬を汗が伝う。
しかし彼は剣を下ろすことをしない。逃げようともしない。いや、彼は逃げれらない。【宿敵】の式部会会長でありながら、三会会長達の中で誰よりも心優しく、仲間思いのベニート卿が、俺たちが居るのに背を向けることがありえるだろうか。
だから俺は彼の横に立ち、魔力を放出する。
すると俺を守るかのように先輩が横にくるし、リュディが、ななみが、結花がそばに寄ってくる。
馬鹿じゃないのか。みんな。こんな化物が居るってのに近寄るだなんて。
ほんと、最高に頼れる仲間達だよ。
「それでも私にあなたたちは勝てない。だから答える必要はない。でも冥土の土産に教えても良いわ」
「……何をかな?」
「封印が解ければ、あなたたちは、この世界は終わりよ」
そう言って彼女はチラリと後ろに視線を向ける。
「本はダンジョンの中に封印されているわ。でもそれももうすぐ解ける」
そこは禁書庫の入り口だった。図書館ダンジョンへの転移魔法陣がある禁書庫の。
「もし用があるなら来なさい、禁書庫の奥、そしてダンジョンの奥まで。私はそこで待っているわ」
そう言うと彼女の姿がだんだんと薄くなっていく。ゲームと同じようにこのまま消えて、ダンジョンの奥へ行くのかと思った。しかしそうではなかった。
「ああ、そうだわ。瀧音君?」
彼女は消えなかった。そして俺を呼んだ。
「俺か?」
「ええ。目的と言えばだけれど、貴方に聞きたいことがあったわ」
「へぇ、俺に聞きたいこと、ね」
彼女の視線が、魔力が、圧力が俺に向く。
軽く返事を返したが、内心はビクビクだった。ベニート卿の男らしさが身にしみる。
「貴方は一体何を目的として行動しているの?」
彼女に睨まれ、すぐにでも逃げ出したくなってしまう。
天使ラジエルに普通に戦うと、まず勝てないから。ゲームでは2週目でさえ、負けることもあった。
いくつかの条件をそろえて、ようやく勝てる相手だ。
「私の持つ宝? ラジエルの書で得られる知識や力? それとも世界を守りたいという正義感?」
しかし、ここは踏ん張るところだった。
だから笑おう。今の俺たちだけでは絶対に勝てない超格上の相手に対して笑おう。
「金? 知識? 力? 名誉? そんなの今は別にいらないね」
「なら、何?」
「俺は見せたいんだ」
ああ、見せたい。見せたいし一緒に見たい。
「見せたい? 私に?」
そうだと頷く。俺は以前桜さんに聞いていた。そして確信したのだ。桜さんは俺の知っている桜さんだと。だから決意したのだ。
「桜さん、貴方に見せたいんだ」
皆には何を言ってるんだと思われるかも知れない。でも桜さんには通じるだろう。
さあ、彼女の魔力に臆するな。
安心させるために、笑って言うのだ。
変態紳士として、マジカル★エクスプローラーのプレイヤーとして、ある意味一番の理解者として、サブヒロイン桜瑠依に。
貴方を助けると。
「ハッピーエンドを」
次の更新は明日です。