149 桜瑠依(さくらるえ)①
次の更新は明後日(7/27)です。もし明後日(7/25)を見てしまわれた方、それは幻覚です。
そういうことにしといてくださいすいません。
本当に殴ってくる確率は、三割切るだろうと思っていた。
現に、結花は何か含みのある笑みをしながら、俺を殴るまではしなかった。
「さてと、待ってたぜ」
第三の手を下ろしながらそう言うと、皆は微妙な表情を浮かべた。
「なぜ、僕たちに教えてくれなかったの?」
伊織はそう言うも、俺の現状を話せるわけがない。頭がおかしいと思われるような話がつづいてしまう。それに色々と調整したかった。
そのため俺が取れる選択肢はほぼなく、そうせざるを得なかった。
「もちろん伝えるつもりだったさ」
俺一人ではどうにもならないイベントだ。時が来たら話すつもりだった。
皆はじっとこちらを見たままだ。口に出さなくても説明を求めていることは明らかだった。
「不確実なことは嫌いなんだよ。だから全てをはっきりさせてから、そう思ってな」
と言っておく。
伊織は納得したような、納得してないような、微妙な表情だ。しかしリュディや結花は破片も納得して居ないのだろう、ジト目でこちらを見ている。カトリナに至っては斬りかかってきそうだった。
「おいおい、嘘は言って無いぜ!」
そう、嘘は言っていない。
もしゲーム版の前提条件だった図書館関連イベントをせず、ラジエルイベントを進行して良いのかは分らなかった。
そう、イベントが本当に発生するかは不明だった。
だから伊織にイベントの進行を任せたのだ。
そして俺は低レベルでも攻略出来るように、アイテム制作を進めた。ある程度の魔素も集めて、最低限戦える力も得た。
伊織に関しては、イベントの進行のためにダンジョンへ挑むこととなっただろうが、しかしそれは今の伊織には適正レベルのダンジョンだし、有用なアイテムやスキルも入手出来たことだろう。
詳しく教えられないことは申し訳ないが、今回ばかりは許して欲しい。いや、伊織に隠し事をするのは今後もか。
「じゃあ瀧音君は確信を持っているんだね?」
「ああ、今はな」
そう言って図書館を見つめる。全員の視線が図書館へ向かった。
何も言わず図書館を見ていると、後ろから誰かが来る気配を感じたのだろう。ななみやカトリナが後ろを振り返る。
「おや、次代の三会会長職候補達が勢揃いだね!」
そう言って現れたのはベニート卿だった。
後ろには先輩、紫苑さん、そしてフラン副会長もいた。
「どうしたんだい瀧音君。急に僕たちを呼び出して……これから何か始まるのかな? サプライズパーティなら良いんだけどね」
そう言ってベニート卿ははっはっはと笑う。
「武装してこいと幸にいわれておるからに、それはないじゃろ」
そう言う紫苑さんは、これからパーティが始まるかのように楽しそうだった。思えば服装もパーティ向きだ。
「そうだな……。瀧音の事だから私たちを驚愕させる事であることは理解できる」
そう言って先輩は苦笑した。
ただフラン副会長は図書館を見て、伊織を見て、俺を見て、そして伊織のうなずく姿を見て、小さくため息を吐いた。
「噂であれば良いのですが、そうもいかないようですね」
「フラン副会長は伊織とダンジョンを?」
フラン会長に聞くと彼女は眼鏡をくいっとあげる。
「ええ。ですので、なんとなく把握してます。それはモニカ会長も。先日モニカ会長と私が最悪を想定して話していたんですけど、悪い方向に進んでいるようですね」
そう言ってフラン副会長はため息を吐く。
「これならばモニカ会長も呼べば良かった」
その心配は不要だ、確実とは言えないが。
「今日はいらっしゃらなくても大丈夫ですよ。じゃあ皆集まったようだし、行こうか」
そして、説明は中で良いだろ、と言い図書館へ視線を向ける。
図書館自体は代わり映えしなかった。しかし雰囲気はいつもと違った。
何がおかしいかと言えば、図書館には誰も居ないことだ。
どんな日でも、大抵誰かしらは図書館にいた。それは学生だったり教師だったり。当然開放して利用出来るようにしているのだから、誰かしらがいるのは当たり前だった。
しかし今日は誰も居ない。まるで他の人が入り込まれないように、魔法でも使ったのではないかと思うくらいに。
しかし一人だけ、一人だけが図書館の中に居た。
「あら、伊織君達……? こんばんは。どうされたんですか、こんなに大勢で」
司書である桜瑠依は図書館の中央に立っていた。沢山の本棚に囲まれた図書館の中心部に立っていた。
皆は桜さんを注視して居ただろう。しかし俺は違った。だからこそ彼女の変化にいち早く気がつけた。
「ななみ、まてっ!!」
俺がそう言った時、ななみは矢を取ろうとしていた。しかし彼女は制止しなかった。
彼女が止まったのは矢をつがえた時だった。
「申し訳ございません。私はご主人様の安全を第一に考えております。したがって、武器を下ろすことは出来ません」
「今は大丈夫だ。弦から矢を外すだけで良いから、少し待ってくれ」
ななみは数秒沈黙し、そしてようやく力を抜いた。
そのやりとりを俺とななみと桜さん以外は、唖然として見守っている。
ななみは魔力を止めることはしなかったが、弦から弓を外した。何かあれば、彼女はすぐに攻撃するだろう。
「……伊織君が来るのは予想していたわ」
桜さんはそう呟く。
「伊織君は私の事を調べていたのは知っていたし、だから伊織君が来ることも知っていたわ」
「…………桜さん、僕はダンジョンを攻略したことを話していないよね?」
「ふふふ、隠すだけ無駄じゃないかしら。もう分っているのでしょう。特にあなたたちね」
そう言って桜さんは俺とななみを見つめる。
「本当に瀧音君には驚かされっぱなしね。まさかここに『天使』を連れてくるとは思わなかったわ」
そう言って桜さんはななみを見つめる。
驚いた様子で、伊織達はななみを見つめた。そう言えば家族以外にななみが天使である事を話してなかったかもしれない。
「ご主人様が私をここに連れてこなかった理由は、なんとなくですが分りました」
そう言ってななみは小さく息を吐く。
「疑問だったのです。図書館に行くときは私に別の命令を下し、一人で行かれていたので」
そう、今回のようになる可能性があって、ラジエルイベントが進む可能性が否定出来なくて、俺はななみをここに連れてこなかった。連れてきたくとも、連れてこられなかったのだ。
「まあそれはいいでしょう。しかしこちらは説明してください。ご存じなのでしょう」
そう言ってななみは体から魔力をあふれさせる。そして大きく口を開いた。
「なぜ、大天使がここにいるのですか!? しかもアレは……堕天しかけているではありませんか!」