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138 花邑家の朝

2019/11/17 更新2回目(今日終わり)



 たまにあることではあるから驚きはあまりない。しかし、疑問ではある。彼女はいつの間に潜り込んでいるのだろうか。


 巻き付いた腕を外しシャチ人形マリアンヌを生け贄に捧げると、体をゆっくり起こす。

 動きたくないという欲求を無視し、堕落と怠惰の根源であり一種の聖地でもある布団をなんとか抜けると、なるべく音を立てないように窓へと向かう。


 カーテンと窓を開けて新鮮な風を取り込みながら、ぐっと伸びをし外を眺める。ちょうど太陽が顔を出したようで、まだ薄暗さを感じる深い青空に、神々しいオレンジ色の光が差すのが見えた。

 

 今日は雲ひとつない快晴だ。

 

 ランニング日和と言えるだろう。今日はクラリスさんとななみが朝の支度をするらしいから、早朝のランニングには居ない。今日はいつもより少人数だ。


 もう一度ぐっと伸びをして、窓を閉める。規則正しく上下する布団に小さく挨拶をして、部屋を出た。

 洗面所へ行って顔を洗い、歯を磨いていると、パジャマを着た女性が目をこすりながら入室してくる。


「よ、おはよ」

「ぁ、たきおとさん、ぉっはようございまぁーす」


 小さくあくびをしながら彼女は俺の隣に立つと、薄いピンク色の歯ブラシを手に取り歯を磨き始める。

「ひょうのあひゃごひゃんはふぁれがふふうんでふかへ」

「何言ってるか全く分からんから。歯ブラシ抜いて喋れ」


「今日の朝ご飯は誰が作るんですかね?」

「クラリスさんとななみだよ」

 多分キッチンに行けば、鎧ではなくエプロンを着けたクラリスさんが拝めるだろう。本人曰く元々はあまり料理が得意ではなかったらしいが、ある日を境に急激にうまくなっていったとか。その日が俺が40層に到達した後だから、あれの影響だろうか。

 だとすれば戦闘だけではなく、何でも成長させることが出来るのだろう。例が少ないため決めつけるのは危険だが、そうだとすれば嬉しい発見だ。


 それにしても。

「朝一で話すことが朝食か……」

「いーじゃないですか。昨日のハンバーグすっっっっごく美味しかったですし、瀧音さんだって気になりませんか?」

「まあ昨日の和風ハンバーグは俺と先輩で作ったから美味しいのは当然だな」


「……っはぁーっ!?」


「なんだ、そのあり得ない物を見るような目でこっちを見て……」

 俺や先輩はたまに料理するんだよ。基本は毬乃さん、ななみ、クラリスさんだが。

 彼女は帰るのが遅かったからキッチンに立つ俺を見て居なかったのだろう。ギャビーと何か話でもしていたのだろうか。


「だってそうじゃないですかっ!? 雪音さんは分かりますけど、瀧音さんが料理!?」

 一歩後ずさりながら驚愕の表情で俺を見る。

「てっきり雪音さん一人で作ってたと思いましたよ」

「覚えたんだよ。カフェを開いてみたいなと思っていた時期もあったからな」


 あぁーと呟きながら、俺の全身を見る。

「ちょーっとばかし似合うかもしれません」

「だろ? もしオープンしたら手伝ってくれよ」

「えーっ。どーしましょっかねぇ♪ そうですね、瀧音さんがどうしてもって言うなら、時給1万円で考えなくもないですね」


 にっしっしと笑うと、手でお金のマークを作る。

 1日8時間働くとして、20日勤務で月給160万。年収1千万とか楽勝で超えるな。


「どんだけむしり取るんだよ。てかそれが払えるくらい稼げるなら、俺は真面目にカフェを開いても良いかもな」

 まあ、なんだかんだ言いながら無償でもある程度手伝ってくれそうな気がする。彼女はそういう子だ。


「さて、歯も磨いたし、ランニングにいくか。先輩も待っているだろうし」

「あっ瀧音さん、ちょっと着替えてくるから待っててくださいよ」

「どーしましょっかねぇ♪」

「うっわキッモ……」

 俺はお前の真似をしただけなんだが。ただ自分でもキモイとは思う。


 洗面所からダイニングへいくと、そこにあるソファーにはリュディが座っていた。何やら魔法書を読んでいるようで、真剣な表情でページをめくっている。

「おはよう、リュディ」

 俺の声に反応し彼女は顔を上げる。目に掛かった髪を払うため、少し首を傾け髪を払うと、耳飾りがすこしだけ揺れる。


「幸助? おはよう」

「朝から熱心だな。何を読んでるんだ?」

「更に上位の風魔法を覚えようかと思ってたのよ、それではつみさんにお願いしていたんだけど……」

 言葉がないが続く言葉は分かる。

「マリアンヌと共に夢の世界に居ると思うよ」

 リュディは苦笑すると、小さく息をつく。

「もう少ししたら起こしに行くわ」

「そうだな」


 花邑家という恩恵を一番受けているのは間違いなく俺だが、多分2番目はリュディであろう。本来なら面倒なダンジョンをクリアしなければ覚える事の出来ないスキルを、毬乃さんやはつみさんから得ているのだから。

「……どうしたの、じっと見て」

「ああ、いや。ラーメン食べに行きたいなと思って。一人だとなんだかな」

 リュディは蜂蜜をたっぷり入れたような笑顔を咲かせると、仕方ないわねぇと嬉しそうに話し出す。

「いいわ、時間見つけて一緒に行きましょ」


 リュディから離れ、水を飲むためにキッチンを覗けば、そこでは何やら話し込んでいるクラリスさんとななみの姿があった。

「おはよう、ななみ、クラリスさん……どうかしたんですか?」

「おはようございます、ご主人様」

「おはようございます、瀧音様。実は朝食に何を作るかで悩んでおりまして」


 ああ、と頷く。

「ご主人様は何がよろしいですか? 和、洋、中、ななみ、どれでもお好きな物をお選びください」

「選択肢1個だけ明らかにおかしかったんだけど。……まあ和かな」

「分かりました、ななみですね。 (ひと肌)脱ぎましょう」

「聞いた意味ないよね? あとなんでひと肌を小声で言ったの?」


 俺らのやりとりを見て居たクラリスさんがクスクスと笑う。

「クラリスさんも何か言ってやってくださいよ」


 話題をふられると思っていなかったのだろう。私ですかと驚き、何かを思いついたのかパッと笑顔を浮かべる。

「ご、ごほん。で、では今日の朝食は和、洋、中、クラリスのどれになさいますか?」

 なるほど、ななみにかぶせてきたか。

「じゃあクラリスさんで」


「ゑっっっっっっっ!?!!?!??!?!?!?!」


 あわあわと慌てるクラリスさん。多分『和』と言うと思ったのだろう。後の流れもななみを参考にしようとしていたのがうかがえる。残念だがそんなことにはならない。

 プルプルしているクラリスさんにななみが何か耳打ちする。それを聞いてクラリスさんは、なるほどと頷いた。


「じゃ、じゃあ脱ぎますね」

「クラリスさーん『ひと肌』抜けてるっ! とりあえず落ち着いてください、近くにリュディ居るから、勘違いされるから。もちろん冗談だから!」



 結局和風にするらしい二人と別れ、集合場所である庭へ行く。そこには既に先輩がいた。

 稽古着を着た先輩は薙刀を手に普段している形をしている。横薙ぎ、切り上げ、振り下ろし、一振り一振りする度に揺れるポニーテールと白いうなじは、国宝に指定されそうなぐらい美しく素晴らしい。

「おはようございます」

「ああ、おはよう瀧音。今日は良い天気だな」

 結花の笑顔が甘い炭酸水のように元気いっぱいで刺激的な笑顔だとすれば、先輩の笑顔は柑橘系のさっぱりした笑顔だと思う。

 

 それは先輩の性格も影響しているだろう。

「昨日は少し曇ってましたからね。絶好のランニング日和ですよ」

「そうだな。風は少し冷たいが、ランニングしていればちょうど良い具合になるだろう」

 そう言って目を閉じると先輩は小さく深呼吸する。

 それを見て俺も小さく深呼吸する。確かに風は少し冷たいが、日差しがあるから寒いとは思わなかった。

 

「そういえば風紀会のメンバーが瀧音に興味を持っているらしくてだな、機会があれば顔を出さないか?」

「ええ、もちろん良いですよ。会いたい人もいますし」

 俺がそう言うと先輩は首をかしげる。

「会いたい人……? ステフ隊長か?」

「違いますよ。先輩に決まってるじゃないですか」

「そうか私か……って、わ、私だとっ…………ば、馬鹿者っ!」

 言葉とは裏腹に嬉しそうに顔を背ける先輩を見ていると、なぜだか自分も恥ずかしくなってくる。


「冗談です。俺が会いたいのはリュディと先輩でした。さて、今日はどこまで行きますか?」

「………………今日もダンジョンへ行くのだろう? 軽く40kmくらいで済ませよう」

「っはぁーっ!?」


 その声に俺と先輩が振り返る。

 そこに居たのはレギンスとショートパンツと走りやすい服に着替えた結花だった。

「リュディさんも言ってましたけど、軽くの概念ぶっ飛んでますよねぇ?」

 俺と先輩は顔を見合わせる。美しい。

「そうか?」

「そうですよぉ……まあもちろん最後までお付き合いしますケド」

「ふふ、なんだか朝のランニングも賑やかになってきたな。さ、軽く動いたら走り込むぞ」


 三人で軽く体を動かしながらふと思う。


 あれ、なんで結花がここにいるんだ?


登場キャラ多過ぎて誰書くか迷う_(´ཀ`」 ∠)_

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『たきね』じゃなくて『たきおと』だったのか
[一言] ずっと『タキオン』君だと思ってました
[良い点] 乙女ゲーのモブもしくは悪役令嬢ものは多いが、エロゲのモブって考えてみると今までなかったよな、と思いました。 [気になる点] 個人的なものですが、うん、該当するエロゲが全く思いつかないんだよ…
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