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135 結花、ギャビーの選択②

2019/10/30 3回目 今日あと①回更新します。

次話が3章最後。



 瀧音さんが離れていく姿を見て、私は話を切り出す。

「ガブリエッラさんって、自分のお兄さんの事をどう思ってます?」

「お兄様のことを……ですか?」

「私のお兄ちゃんは正直に言うと、なよなよしているし、体の成分が7割くらい砂糖なんじゃないかって思ってますし、かなーり女々しいと思ってます」


「そうなのですか」

「そーなんですよ。でもですね、優しいんです。そしてここぞと言うときにはすこーし頼りになってくれるんです」

 本当に希なんですけど。


「いいお兄様ではありませんか」

「まあ良いお兄ちゃんではありますね。そういえばなんですけど、最初私が強くなりたいなーって思ったきっかけが、お兄ちゃんを守りたいなって思ったことなんです」


 昔は私の方が強かった。ツクヨミ魔法学園に来る前までは確実に私の方が強かった。

「でも最近は、なんていうんですかね? ムカつくんですよね、お兄ちゃんの癖に強くなっちゃって。それでですね、負けたくないんですよね」

 今はもう並ばれそうだし抜かれそうだ。でも瀧音さんが私を引っ張ってくれている。

 

「ギャビーさんはどうですか」

 彼女はほっと息を吐き出すと、ぽつりぽつりと話し始める。

「わたくしは……お兄様のようになりたいと思っていました。憧れでしたので。しかし」


 私を見てにっこり笑う。

「今は瀧音様や結花さんを見て思いました。うらやましいなと、自分らしく行動してみたいなとも」

「私達がうらやましい?」

「ええ。そうですわ。お二方はお二方らしく生きてらっしゃるんですもの」

 

 確かに私も瀧音さんも自分らしく生きているのかもしれない。

「……ねえ結花さん。もし私が三会のどこに入会しても、彼は本当に応援してくださるのでしょうか?」


「当然ですよ。だって瀧音さんですし。あの人、人助けが趣味みたいなとこありますし。まあ私が助けられてますし」

 

 学園長から聞く限りでは、彼は私がずっと悩んでいた事を解決してくれた。瀧音さんは自分が何かしたと思ってないようだったけど、解決に導いてくれたのだ。

 だから、後でしっかりお礼を言わなければならない。


 ふとギャビーを見つめると、彼女は笑っていた。

「どうしたんですか?」

「ふふ、何でもございませんわ。ねえ、もしよろしければ瀧音様のこと、お話していただけません?」


 瀧音さんの事? うーん。

「あの変人ですか? そうですね。直近の話ですと訓練を一緒にしたことがあるんですがね、あの人おかしいですよ? 朝起きて軽く数十キロをランニングして、何十分も同じ型の素振りをして、花邑家の人と模擬戦して。これほぼ毎日やってるんですって」


 まあ一緒になってしている雪音さんもおかしいですし、リュディさんはリュディさんでかなり鍛錬しているようですし、彼の周りがおかしいだけなのかもしれない。

 

「それから毎日のようにダンジョンへ行って自分を鍛えて。それからたまに学園に来て式部会の事をこなして。なんか自分の家のじゃ無い家計簿作ってたりお小遣い管理とか意味不明なことしてるときもありましたけど」


「家計簿にお小遣い管理? なんですのそれ……ふふっ」


「あっ、信用して無さそうな顔ですね……ほんとにしてたんですよ? まあ訓練の話に戻りますけど、あの人はバカみたいに色々やってます。それこそ学園寮に住んで学園で授業受けてたまにダンジョンへ行く方が何倍も楽です。強くなるのは必然ですよね」


「そこまでですのね……なんだか宣戦布告した自分が恥ずかしくなりますわ」

 

「そういえば瀧音さんに文句を言う人を見たことがあるんですけど、皮肉ですよね。だって『遊び呆けて金の力で裏口入学して』だなんて言われてますけどね、私から見たら彼らより何倍も努力している人ですから」


 あ、それはギャビーも同じだったか。ちょっと苦笑している。まあ、いい。


「普通に考えれば分かるのに。単純に天才だからって、あんなこと出来るわけがないのに。私はイメージが変わりました。確かに瀧音さんは才能があるかもしれません。でも会長とかには才能が劣ると思います。でもそれを補うために知識を得て努力をしているんです」

 神妙な顔で頷くギャビー。


「ただすごい人だなと思う一方、とってもエロ助なところが評価下げてるんですよねぇ」

 そう言うとギャビーはぷっと吹き出した。

 

 なんだろう、悩んでいたら色々話そうかと思っていたけど、彼女の屈託無い笑顔を見て居たら不要そうだなんて思う。


「ギャビーさん、三会の件。ゆっくり考えると良いと思いますよ」

「ええ……そうします。その、結花さん」

「なんですか?」


「ありがとうございます」

 つきものが落ちたような顔で彼女は笑っていた。


--


 こうして彼女は選択した。だからここに来たのだ。

 

「いらっしゃい、結花さん、ガブリエッラさん」

 そう言ってニコニコとしているモニカ会長。

「今日はどうしたの? 私の予想だと……三会への入会関係よね」

 まあ、生徒会から声をかけられた二人が、生徒会長の所に来たらそう思うでしょう。

「モニカ生徒会長、わたくしのわがままをきいていただけないですか」

 ギャビーはそう言うと私の目を見て頷く。

「わがまま? ええ、どうぞ。言ってください」


「わたくしは以前生徒会入会をお断りさせていただきました。しかし、もし空きがあるならば、わたくしを入会させていただけないでしょうか」

「……それに至った理由を教えて貰える? ああ、怒ってるとかそういうわけでは無いわ、驚いてるの。純粋に」


 多分会長はギャビーが式部会に行くと思っていたのだろう。だって私もそう思っていた。

「私はずっと兄を追いかけて、追いかけて、ここまで来ました。でも結花さんと瀧音様のおかげで気づいたのです」


「わたくしはわたくしであることを。わたくしは、わたくしらしく強くなりたいと。兄の真似をして強くなるわけではなく、わたくしらしく強くなって兄のように立派になりたいと」

「……貴方の目標はベニート君なのね」

「はい、私は……大好きなお兄様を超えたい。お兄様の元でお兄様自身を目指すのでは無く、自分なりにお兄様を超えたいと」


 モニカ会長を一直線に見つめ、胸をはりきっぱりと言う。

「だから、わたくしは生徒会に入会したいのです」


「ふふ、ふふふふふっ」

 モニカ会長が笑う。心底楽しそうに笑っている。

「良いわ、良いわねっ。そういうの大好きよ」


 モニカ会長は立ち上がり壁に描かれた魔法陣に手を触れる。彼女が魔力を込めると、生徒会の紋章がぼんやりと白く光る。彼女は魔法陣の中心に手を入れると、そこから一つの書類を取り出した。そしてその紙に何かを書き入れると、テーブルの上に置いてあった魔法陣が描かれた封筒に入れ、投げる。


 手裏剣やダーツなどのように高速でそれは飛んでくるわけでは無かった。ただの紙のように空気抵抗にやられ、ひらひらと落ちることも無かった。

 

 その手紙はゆっくり飛行して、ギャビーの手に収まった。

 

「認めましょう。私が他の生徒会メンバーに有無を言わせない。そもそも一度声をかけようとしたときに反対意見が無かったから、何事もないでしょうけどね」

 そう言ってカラカラとモニカ会長は笑う。


「私たちと一緒に、強くなりましょう」


 そしてひとしきり笑うと私に視線が向いた。

「ごめんなさいね結花さん。もう既に君のお兄さんが生徒会に入会しているから、人数的に貴方を入会させられないわ…………なんて、ふふっゴメンなさい、冗談よ。ええ、言ってみただけ。私は分かるわ。貴方は入会する気は無いでしょう?」


 その通りだ。

「生徒会に関しては、身に余るお言葉を頂き大変光栄でした。ですがお断りさせていただきます。私は入会できません」

「それで、どっちにするの?」

 なんとなくだけど、生徒会長は私がどちらを選んだか予想が付いていると思う。


「式部会に入会しようと思います」


「ふふっ、ふふふふっ、その理由を聞いても?」

「ギャビーさんはお兄様を超えたいとおっしゃってましたよね?」

「言ってたわね」

「私も同じなんです。お兄ちゃんに負けたくないんです」


 そう、お兄ちゃんに負けたくない。あのヘラヘラしてて、どこか頼りなくて私がいないとダメダメなお兄ちゃんに負けたくない。


 ギャビーはこの転機で自分の道を踏み出した。

 そして私も今踏み出す。

 

 「ギャビーさんが自分らしく成長できると思ったのが生徒会ならば、私が私らしく一番に成長できる場所が、式部会だと思ったんです」

 

 でも一番の理由は違う。口には出さないが、私は瀧音さんのそばに居たい。離れたくない。彼のそばで強くなりたい。そして彼の横に立てるようになりたい。

 

 私の人生が大きく変わるであろう転機。

 その2度目は今ここだ。


 瀧音さんに出会い、そばにいられる、今まさにこの瞬間なのだ。


「だから私は式部会に入会します」


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