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134 結花、ギャビーの選択①

2019/10/30 更新2回目

  

 私には人生が大きく変わるであろう転機が2度来た。


 多いのか少ないのか分からない。けれどなんとなく多いんじゃ無いかって思ってしまう。私はまだ学生という身分だし、短い人生しか送っていないけれども、2度来たのだから。


 その大きな転機の一つは母の再婚だ。そこで私はお兄ちゃんとお父さんと出会った。それが無ければ今の私は私では無かっただろう。


 そして2度目めは――。

 

 

「さて、準備はいいですかねっ、ギャビーさん」

「いいですわ。心の準備は整いました」

「じゃっ行きましょーか。生徒会室」

 

 私はギャビーさんをあのダンジョンで見直した。私は彼女がただの高飛車バカ女だと思っていたがそうではない。瀧音さんは彼女の本質を、最初から見抜いていた。私が分かったのはそれはあのド変態ダンジョンでだ。

 ぐっしょりと濡れてしまった私たちが、着替えた後。そのときの会話を今も鮮明に思い出せる。

 話を切り出したのは瀧音さんだった。


--


「ギャビーさ、どうして俺や式部会にこだわってるのか聞いてもいいか?」

 ギャビーさんは自分のミスで全員を巻き込んでしまったことを、本気で悔やんでいた。それも二回目だから、余計に。ギャビーさんはかなり落ち込んでいた。


「わたくし、ですか?」

「そ。俺に突っかかるのは式部会に関係しているんだろ。もっと言うとベニート卿に」

 意気消沈し、心がさらけ出されているギャビーに、瀧音さんは問いかける。


「それは、その通りですわ……。でも語る前に謝らせてくださいませ、申し訳ございません。結花さんも、申し訳ございません」


「うん、大丈夫。ギャビーに対して最初から怒ってないから。まあベニート卿にはちょっと恨み言があるけどな」

 そう言って瀧音さんは笑う。こういうときの瀧音さんはムカつくぐらいイケメンだ。

 まあいい。そんなことより私も謝らなければならない。

「まあー私も言い過ぎた感があるので……ごめんなさい」

「いえ、怒るのも当然だと思いますわ」


 そう言ってギャビーは私たちから視線を外しダンジョンの壁を見つめた。そして不意にうつむくと罪を告白するかのように、話し始める。

 

「まず前提として……わたくしはお兄様に憧れておりました。だから式部会に入会してお兄様のようになりたいと思っておりました」

 それは……なんとなく察していた。


「わたくしが瀧音様に最初苛立った理由は、成績をお金で買ったかと思ったことです」

 瀧音さんは真剣な表情でギャビーの言葉に、耳を傾けている。


「お恥ずかしいことに、私にはお兄様やモニカ様、瀧音様のように才能がありません。並の能力です。それを補うために、自分なりに努力してきました。勉学も、魔法も」


 ギャビーは軽く言っているが、それがかなりの努力であることは分かった。学力で1位なんて努力無くして不可能だろう。


「私は40層など無理だと思いましたわ。卑怯な手を使わない限り無理だと。そんなことをして成績をとって嬉しいのかと。でもそれよりも苛立ったのは、お兄様が楽しそうに瀧音様の事を話したことですの。どんな手を使って突破したのか、お兄様は自分の考えを話しました。そしてその後、瀧音様は式部会に入会した」


 それを聞いて私の中でナニカがつながった。

 

「嫉妬です。嫉妬していたのです。お兄様が瀧音様の入会を認め、私を弾いたことで更に嫉妬は強まりました。それで私は突撃してしまいました。でもお兄様がなぜそうしたのか、今なら分かるのです」

 

 ギャビーは唇をかみ、悔しそうに言った。

 

「わたくしは自覚しています。卑怯な事が許せない事を。正々堂々が好きなのです。自分が悪になりきれない事も知っていますわ」


 ああ、理解した。裏で糸を引いたのがベニート卿なのだろう。そして瀧音さんは知っていてわざと乗った。


「だから式部会に向いていないことも理解していますの。でもやっぱりお兄様に憧れがあったのです」


 瀧音さんが彼女の肩を持つ理由が分からなかった。でも今なら分かる。

 ギャビーさんは実はとても真面目な努力家だと知っていたのだ。だから悪意を向けられ続ける式部会が合わないことも知っていた。

 なりたい、向いてない、瀧音さんへの嫉妬。これらがごちゃ混ぜになって、彼女は瀧音さんに突撃したのだろう。

 

「確かに俺も向いていないとは思う。だから他の道を探すのもいいだろう。でも式部会でもいいとも思うんだ」

「瀧音さん……ちょっと矛盾してませんか?」

「してるさ、でも言わせてくれ。どちらの道も良いと思う。こう考えるんだギャビー。君は自分の長所を伸ばして更に強くなるか、弱点を克服し更に強くなるか」


 多分ベニート卿はあまり何かを言いたく無かったんだ。見る限り、ギャビーはベニート卿にべったりだ。ベニート卿が間違ってどちらか寄りの言葉を発してしまえばギャビーが真に受け、自分の選択が出来なくなると思ったんだ。

 瀧音さんはそれを理解して、その役割を引き受けたのだろう。そして今問いかけている。


 ああ。ここはギャビーにとって、大切な大切な、転機なのだ。


「ギャビー。一つ言わせてくれ。俺はな。お前がどんな選択をしようとも、ギャビーを応援する。式部会に来るんだったら、多分相当つらいと思う。でもそのときは俺が支えよう、それに紫苑さんもいる。皆がお前の味方になってくれるはずだ」


 ギャビーは頷く。

「だけどな、もし式部会に入会しなくても味方であることは変わらない。ギャビーは大切な人だ。風紀会に行こうが、生徒会に行こうが、新聞部に行こうが、俺が応援する事は揺るがない」


 ああ、ムカつく。ムカつくムカつくムカつく。

 なんて、なんて格好いいんだ。


「ギャビー。自分で考えて答えを出すんだ。どうしたいのか自分に問いかけてみてくれ」

 

 ぼうっと地面を見つめるギャビー。


 ふと、私は思った。瀧音さんはこれ以上は口を出さない方がいいのでは無いかと。瀧音さんがもしどちらか寄りの発言をしたら、ギャビーはそれを選んでしまいそうだ。

 後必要なのは、ギャビーが考える時間なのでは無いか。

 

「瀧音さん、ちょっと私にギャビーさんと二人きりで話をさせてください」


 瀧音さんはニッと笑うと立ち上がり、そして私の耳元に顔を寄せる。そして小さく「任せた」と言って、この場を離れた。



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