133 エッロサイエンティスト
2019/10/30 更新1回目
ゲームで一番お世話になったキャラクターは誰だろうか。
色んな意味を含めれば、多分先輩であろう。先輩の何もかもが俺のツボにはまっていたし、三強とも呼ばれる強さを手に入れられる彼女は常に使用率上位のキャラクターだった。
ダンジョン攻略を考えればななみが非常に高い位置にいる。
能力の汎用性は主人公伊織並で、育てた伊織とななみがいればほぼすべてのダンジョンを攻略出来るどころか、お宝回収や素材回収も可能になる。
恋愛的な意味で言えばリュディが非常に高い位置にいるだろうか。男のツボをぐっと押さえてくる彼女にあらがえる者はそうそういない。
しかしエッな感じでお世話になったと言えば、やはり彼女だろう。
からくりの城攻略を中断し、俺たちは授業が終わったリュディと合流し、その彼女のいる研究所へ向かう。ある意味で一番ぶっ飛んだキャラだから、少し不安もある。とはいえ初対面だ。さすがにあまりに変な事はしないだろう。
「へぇガブリエッラさんと結花ちゃんがね」
「ああ、あんなにいがみ合ってたのに、今日は二人で用事があるんだと」
授業をサボった結花と俺、そしてななみ三人でからくりの城でスキル習得とアイテム回収を行い、別れたのはつい先ほど。
結花はそのままギャビーと合流し、生徒会へ行ってしまった。
リュディは意外な組み合わせだと思ったかもしれない。ただ俺はダンジョンでの様子や、ゲームでは仲が良かった事を知っているから、結構しっくりきているが。それにしても。
「意外だな、リュディがあの人に用事だなんて」
「本当は雪音さんの用事だったのよ。でも雪音さんが忙しいから、代わりに私が来たの。それにまた会ってみたかったのもあるし」
まあトレーフル皇国出身で一応貴族だからな。訳ありだけど。
「第1研究室はこちらのようですね」
ツクヨミトラベラーで確認したななみはそう言う。建物内は明るく清潔ではあったが、なぜか人に会わない。自動でスライドするドアをいくつか通り過ぎ、ようやく目的の場所へたどり着いた。
そこにいたのは眼鏡をかけた女性と全身がアロマセラピーの女性、そして主目的だったダークエルフの女性、エッロサイエンティストだった。
「やあ、待っていたよ。瀧音君、リュディヴィーヌ殿下。式部会、大丞のアネモーヌ・ド・ラ・セルダだ。ああ、私は名字が嫌いでね、アネモーヌと呼んでくれ」
そう言ってアネモーヌはにっこり笑った。
アネモーヌは、コアなファンが多いダークエルフの女性である。背の高さはクラリスさん並みであろうか。ただスレンダーなクラリスさんと違い胸は大きい。
「初めまして、式部少輔の瀧音幸助です」
「……風紀会副会長を拝命しました、リュディヴィーヌです。お久しぶりでございます」
「幸助ご主人様に仕えております、美少女メイドななみです」
「ああ、会いたかったよ、後輩君達。君とななみさんの噂はかねがね聞いているぞ。そしてリュディヴィーヌ殿下、以前お目にかかったのは10年以上前か、ずいぶんお綺麗になられた」
「そんな、アネモーヌ様もお綺麗ではありませんか」
アネモーヌはもちろん美人ではあるが、妖艶と言う言葉が似合うと思う。
「ふふ。何、私に敬語は不要だよ。後輩君もだ、いいね?」
「はい。ではアネモーヌさんで。それにしても今日はなかなかのメンバーがそろってますね」
俺は後ろにいる眼鏡の女性と、ポテチを背に隠し顔をそらしながら言葉を発しないピンク髪の先生を見つめる。
「こんにちは瀧音君、リュディヴィーヌ様、ななみさん」
くいっと眼鏡をあげながら、にこりと笑うフラン副会長。
「…………こんにちは」
なぜか目線を合わせないルイージャ先生。
エッロサイエンティストとルイージャ先生。いやな予感がする組み合わせだ。見なかったことにしよう。まあ無理だよな。
「フラン副会長はどうされたんですか?」
「ええ、本日は生徒会からお願いしていた物ができたとのことで、それを回収しに来たのです。アネモーヌ大丞は素晴らしい物を作ってくださいますよ。ただ、たまに目的の品とは別で、変な物を渡されるんですけどね」
俺たち紳士淑女からすれば、変な物の方が欲しいし、むしろ依頼して作って貰うんだけどな。
「変な物とはなんだ? 変な物とは。素晴らしい物ばかりではないか。ちなみにだが、ルイージャ先生はとある件でここにいるよ」
「うっわ…………」
なんだろう、いやな予感しかしない。リュディは俺の立場が分かっているから、俺とななみのいやそうな表情を見て苦笑している。笑っているアネモーヌも俺とルイージャ先生の関係を知っているのだろう。そして状況が分からないフラン副会長だけが首をかしげていた。
思わずそう呟くと、ルイージャ先生は慌て、もう、と言いたげな顔でアネモーヌを見ていた。身長の高いアネモーヌと低めなルイージャ先生を見ていると、どちらが教師か分からない。
「それで、今日は自分に用事があるとの事だったが」
チラリとリュディを見る。リュディは頷くと、まずは私からと、収納袋をそのままアネモーヌに渡した。
「風紀会からです」
「ああ、届いたのか。いやぁ、これで作ることが出来るよ。ありがとう!」
「ちなみに何を作られるのですか?」
多分、リュディは深く考えず、興味本位で聞いたのだろう。
「これか、ふふっ。これはな、衝撃を与えると触手が生えてくるアイテムを作るために必要な素材なんだ。うむ、想像するだけで素晴らしいな」
……………………。
いきなりどでかいのが来た。この空気どうするんだろう。初っぱなからぶっ飛ばしすぎだろ。アネモーヌと出会って10分も経過してないよな?
せめて0から1に行ってくれ、0からいきなり100までぶっ飛ぶようなことは言わないで欲しい。ほら、リュディ絶句だよ。フラン副会長とルイージャ先生は慣れてるのかジト目で見ているだけだけど。
「ねえ幸助。私って、触手の材料を運んでいたの……?」
リュディのショックは大きそうだ。多分先輩も知らなかったと思う。知っていたら他人に被害が行かないよう自分で持って来てただろうし。
それにしても、触手か。非常に、とてつもなく、死ぬほど気になるが、何も聞かなかったことにしよう。俺以外の皆の目がヤバイ。ただし、できあがったらこっそり購入を検討しなければならない。
「どうだ、欲しくなったか?」
めちゃくちゃ欲しいよ。でもどうして何事も無かったかのように終わらせようとした瞬間、貴方は話しかけてくるの? そしてすっごく良い笑顔でこっちを見ないでくれ。
「素晴らしいアイテムです、ご主人様にぴったりですね」
どこがぴったりなのか小一時間問い詰めたい。
「……アホなこと言ってないで、さっさと話進めようぜ」
だが欲しいことは否定しないし、なんなら開発援助してもいいぐらいだが。
「それで、後輩君の用はなんだったんだい?」
「ああそうでした」
あまりにインパクトが強すぎて、なんのためにここに来たのか分からなくなっていた。
「ええと、どうしても作っていただきたい物があるんです」
「ほう、自分に作って貰いたい物、ね?」
マジエクでは、いくつかある研究所へ行けるようになることで、アイテム開発が可能になる。一番早いのは三会に入会する事だろう。そして幾人かのキャラを研究所においてアイテム開発をして貰う、それが幾人かの最強武器を手に入れる為に必要だったりもする。
またそれとは別に彼女や教授達にお金とアイテムを払い、アイテムを作って貰うことも出来た。今回欲しいアイテムはそれのひとつある。
「天使と悪魔の捕縛用アイテムです。それもかなりの量」
と俺が言うとななみが俺の体をツンツンつついてくる。見てみると頬に手を当て、恥ずかしそうに首を振っていた。
「もう、言っていただければ……私はいつでも準備万端ですっ♪」
いや、お前はナニを想像しているんだ!? 決してお前に使うわけじゃないから、むしろ想像しちゃうから、恥ずかしいから止めて!
「なるほど、そう言う意図だったか……俄然やる気が出てきたぞ!」
「すっごいしらけた目が飛んでくるからこれ以上はやめてくださいね。普通にダンジョンで使いますよ?」
「ダンジョンプレイだと……」
「ダンジョンプレイですかご主人様……尊敬ポイントが1000億ポイント入りました」
やめて、変なの呟かないで! 視線が突き刺さってるの。特に副会長からのがヤバイ。てかポイント入りすぎ!
「まあ冗談は置いておこう、それを作るのに当たって一つ条件がある」
「条件ですか?」
「そうだ。ちょっと今回作る物とは別件で欲しい物があってな。それを持ってきて貰いたい。ああ、後輩君の件が急ぎなら後輩君のを優先させよう、式部会に入会できる人物なら、それぐらいの信用はあるからな」
「ありがとうございます、優先して貰って良いですか」
「そうか、では真面目な話をしよう。使用対象を詳しく教えて貰えるだろうか。そして作るにあたって陣刻魔石やどうしても欲しい物があるのだが……」
ああ、それですかと俺は頷く。
「一反木綿の『木綿』は用意してあります。陣刻魔石もいくつか用意致しました」
「……ほお」
なんで忍者スキルを取るためにあそこに行ったかって、もちろん強くなるが第一ではある。だけどこの『木綿』が欲しいのもあった。
そう、今ここで使うために。ひいては彼女のために。
アネモーヌの目が鋭くなったのが分かった。そしてその顔をするときは、対象に興味を持っていることも理解している。
そんな彼女を見て、ルイージャ先生とフラン副会長もまた、俺を見る目が変わった。
「なら早速仕様を相談するぞ、フラン。先生。用事が終わったら出て行ってくれ」
「ああ、先生には後で俺から話があるのでよろしくお願いしますね」
ここでナニをしていたか問い詰めなければならない。一応。また変なマシンを用意していたりしないことを祈りたい。
俺がそう言うとアネモーヌは笑った。
「ああ、後輩君。君は先生の事を心配しなくても大丈夫だ」
「……? どういうことですか?」
「なぜなら彼女は後輩君の体質を調べるためにここに通っているのだからな」
「せ、先生?」
先生は少し恥ずかしそうに笑うと、実はと話し始める。
「……やっぱり心配じゃないですか。ただ、やはりよく分からないの……だからまだ話すべきではないかなって」
「せ、先生……っ」
「後輩君は良い先生に目をつけられたな」
「本当、そうですね」
なんかすごく嬉しくなってきた、調べてくれてただなんて。
おお、とアネモーヌは手を叩く。
「そうだそうだ、たまにここにあるお菓子を目的に来るときもあるぞ。大量に持って行かれて少し困っていたんだ。なんでもお小遣いが少ないらしい」
ルイージャ先生は顔を真っ赤にしてうつむいた。
この後先生のお小遣い少し増えたらしいっすよ。