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131 黄昏の道(スケスケベダンジョン③)

今回はギャビーと結花の落ち?回ですので、コメディ控えめに書いたつもりですん。

 

 予想と反して、というべきだろうか。かなりスムーズに進んでいる。

 それは結花とギャビーのおかげだろう。

 結花は危険を察知して危ない所を教えてくれるし、ギャビーは遠距離魔法で怪しい場所を攻撃して調べてくれる。

 

 今回一番役立たずなのは俺なのでは疑惑すらある。

 しかしこの順調さは俺たちを油断させているという可能性もある。ここで気を抜いてはいけないのだ。


「まて、あれはなんだと思う?」

 皆を制止させ、通路にぽつんと置かれた箱を指さす。魔法少女服が入っていた箱とはまた違う。それよりも豪華な箱だ。

 

 それを見たギャビーは目を輝かせた。しかし結花は渋い顔をしている。

「たっ宝箱ですわっ!」

「罠ですねっ…………!」

「ああ、間違いなく罠だなっ……!」

 目を輝かせていたギャビーは、しらけた顔で俺達を見る。


「いや、まってくれギャビー。喜ぶ気持ちは分かるんだ」

 宝箱を見つけたら嬉しいのは俺だって同じだ。しかし、このフロアに入ってすぐの事を思い出して欲しい。


 下半身を狙い撃ちしてきただろう?


「開けた瞬間、水が噴き出してくるかもしれない」

「それくらいでしたら特に問題はないように思えますわ」

「瀧音さん、違いますよ、もうちょっとひねくれて考えましょう。さっきは紐自体がフェイクでした。今回は宝箱自体がフェイクではないですか」


「……確かに」


 迂闊だった。目的は宝箱に意識を持っていくこと。ならば。

「ギャビー、頼みがある。魔法であの辺りを攻撃してくれないだろうか」

 不承不承といった様子でギャビーは魔法を唱える。ギャビーの得意な光魔法、光弾が宝箱の横に当たった瞬間、壁から勢いよく水が噴き出した。

 やはり、宝箱自体が罠だったのだ。


「ギャビー。君がいてくれて良かった。こんなに頼りになる人が後ろにいてくれて、俺は安心して進めるよ」

「……そ、そうですの? なんだか複雑な気分ですわ」

「いえ、瀧音さん。まだ安心するのは早いですよ。あそこを見てください」


 結花が指さす場所を目を凝らして見てみる。そこにいたのは頭が魚の……。

「ぎょ、ギョブリン?」


 ギョブリンと言えばゴブリンの体に魚の頭を合体させたようなモンスターで、筆舌に尽くしがたいザコである。以前出会ったのは初心者ダンジョンで、先輩が見守る中リュディと一緒に倒した。

 某国民的RPGで言えば青くて柔らかそうなヤツよりも下、むしろ比べるのもおこがましいぐらいの雑魚。今ならこいつらにどんな攻撃をされても、俺たちはダメージを受けないであろう。肉体的には。


 しかし、今この場では最高の攻撃力を持つ雑魚である。

 彼らの得意技は水鉄砲。濡れるだけでダメージはほぼ無い。強いて言うなら滑って転ばないようにねぐらいだ。

 

 しかし今はどうだ? 急所にかすりでもしてみろ。控えめに言って致命傷だ。

 

 ただ体力は少ないはずだ。俺や結花が1発殴るだけで奴らは倒せるだろう。しかし1体だけでは無い。複数体なのだ。

 何らかのミスで放送事故になりかねない。

「一旦隠れるぞ」

 1匹の様子がおかしいのを見て、結花に視線を送る。そしてギャビーを引っ張ると、出っ張っていた岩の影に隠れる。

 少ししてペタペタとギョブリンが歩く音が聞こえた。

 

「ギョギョギョ、ギョッギョギョーギョゥ」

 おかしいなあ、とでも言っていたのだろうか。

 

 ペタペタと引き返すギョブリンを見ながらため息をつく。

「どうする?」

「こんな所にあんな強敵がいるだなんて聞いてないですよ」

「……先ほどの『朽ちたヘルハウンド』ではあんなに余裕でしたのに、なぜギョブリンごときに」

 ブツブツとギャビーが呟く。俺は首を振ると「そうじゃないんだ」と声をかける。

「当たり所が悪いと、回復魔法では癒やせない傷が刻まれるんだ」

「余計に分からなくなりましたわ」


「どうします?」

「幸い、あいつらはまだこちらに気がついていない。一本道だしあそこは抜けなければならない。たたみかけるか?」

「敵・即・破で行きましょう、ギャビーさんお願いします!」

「はいはい、分かりましたわ……」

 

 とギャビーが魔法の詠唱を始めると、俺と結花は飛び出す準備をする。すぐさま叩き潰せるように、ストールへ魔力を。

 結花はガントレットを装備していないが、ギョブリンなら一撃で粉砕出来るだろう。


「いきますわっ!」

 魔法陣から光弾が飛んでいくと同時に、俺と結花も飛び出した。

 

 光弾は1匹のギョブリンに直撃し吹き飛ばす。アレは耐えられないだろう。残りは4匹。すぐさまストールを展開し動揺しているギョブリンを殴り飛ばす。

 そしてそのまま近くにいたギョブリンを殴り飛ばすと、結花の方に視線を向けた。


 結花も同じように2匹目を倒す所だった。

 しかし彼女は気づいていなかった。足下の色が少しだけおかしいことに。


「まずい!」


 バシャリという水音。そして結花の叫び声。

 すぐ行動したのが、良かったのだろう。結花は尻餅をついているが無事そうだ。知ってたけれど白だった。


「あ、ああ…………」

 結花は俺を見て狼狽していた。仕方ない。水がじわじわと染みこんでいき、肩がだんだん露出していく。


「た、瀧音さんっ…………! わ、私を庇って……!」

「なぁーに、かすり傷さ」

「強がらないでくださいっ……目がイっちゃってますよっ!?」


「た、瀧音様!? それはいったい?」

「ああ、ギャビー、見てしまったか……」

 肩から片方の胸にかけてスケスケになってしまった俺を。

 自分が着ている服の危険性が分かったのだろう。彼女は自分の体を抱きしめ、狼狽している。


「大丈夫だ、ギャビー。落ち着いてくれ。言わなかったことは謝る。でも信じてくれ、決してわざとじゃ無いんだ。言わない方が良いと思ったんだ」

 泣きそうな顔で俺を見るギャビー、そして一歩二歩と後退し壁にぶつかったときだった。カチリと音がしたのは。


「っ! ギャビー、危ない!」

 壁の隙間から放たれる水。ストールを広げギャビーを守る。しかし。

「あ、あああ、たっ瀧音様」

 自分は守ることが出来なかった。どうやらこの罠は胸を狙っていたらしい、とことん急所を狙ってきやがる。


「いったろ、ギャビーは俺が守るって」

「でも、瀧音様が……」

 

「おいおいギャビー。なんて顔をしているんだ。大丈夫さっ、俺はこんな姿になってしまったけど、ギャビーと結花の事は守る。だから見ててくれ」


 俺の生き様を。

 

「結花、安全と判断したら俺の後を来てくれ。ギャビーは頼んだぞ」

「た、瀧音さん? な、何をするつもりですか?」

「道を切り開くのさ」

 そう言って俺は駆け出す。もう、ヤケだ。罠なんて俺が全部踏み抜いてやればいいんだ! 

 

 様々な罠が発動し四方八方から飛んでくる水をなるべくいなす。そして前へ、前へと一心不乱に突き進んでいく。時折現れたギョブリンも粉砕して。

 

 幸いだったのはゴールが近かったことだろう。光り輝く転移魔法陣が見えたのはすぐだった。

 

 立ち止まると自分の体を恐る恐る確認する。意識が飛びかけるも、なんとか持ちこたえ後ろを向く。

 そして綺麗な魔法少女服の二人を見て実感した。


 守りきれた。

 湧き上がる達成感と不思議な開放感でいっぱいだった。

「見てください、転移魔法陣ですわ!」

 俺が頷くと結花とギャビーが魔法陣へ駆けていく。嬉しそうに。


 もうすぐ魔法陣という所だった。ギャビーがなにかにつまずいて転び、カチリと音がしたのは。

 

 その音を聞いた瞬間、すぐさまストールに魔力を込める。転移魔法陣目の前、ここが最後の試練となるだろう。

 ゴゴゴゴという、今までの比じゃ無い音を聞きながら全方向を警戒する。

 

 いったいどこから来る。上か、下か、右か、左か、前か、後ろ……後ろだっ……うしろから大量の……たいりょ…………いや、まってくれ。


「あ、あわわわわわわ」

「ど、どーするんですかこれっ!?」

 

 なんだろあの水の量。最後の最後にデカいの用意してたんだな。それにしても、プールかな? うーん。無理。


「転移魔法陣に駆け込め、って、あーあ。なんか変な檻みたいなので囲まれてるし」


 これ無理だな。ストールに送っていた魔力を霧散させる。

 俺さ、結構頑張ったんだぜ? 身を張ったりもしたさ。

 でもさ、なんとなく、なんとなくこうなる気がしていた。

 

 だってさ、ギャビーだぜ。ギャビーだしねぇ。ギャビーだもんなぁ。


 あー泣きそうな顔で慌ててるギャビー超かわいい。本当に焦ってる結花もかわいいな。

 

「瀧音さーん、諦めないでください!」

「いや、あれは無理」

 

 そうして俺たちは水に飲み込まれた。


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