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130 黄昏の道(スケスケベダンジョン②)

2019/10/23 23:00頃に一度更新してます。

俺 魔法少女


 壁を、超えたことはあるだろうか。

 努力したり、苦しんだりして、壁を超えたことはあるだろうか。

 俺は……今大切なモノと引き換えに、壁を越えた。

 ああ、なぜだろう。俺があんなにも第三の手で殴りつけても微動だにしなかった壁は、まるで最初からなかったかのように通過出来た。

 でも、間違いだと言って欲しかった。

 

 俺が魔法少女の服を着ているだなんて。


 『魔法少女』とは小学校低学年ぐらいの少女や大人のおじさん達を熱狂させる、いわば『夢』のようなモノで、個人的には一種の『聖域』だった。

 俺が魔法少女の服を着るだなんてことは、その『聖域』を汚してしまったかのような、それでいてその『聖域』と一体化し自らの心が浄化されるような、不思議な気分にさせた。

 

 多分、生まれ変わった、というのが一番近いと思う。

 

 今いるのは薄暗くてジメジメしているダンジョンではあるが、俺の心は広大な大草原に両腕を広げて寝転んでいるような、そんな気分だった。


 もう何も怖くなかった。


「プッ、プププ、た瀧音さん、に、似合ってますよっ」

「そうか」

「そ、そうですわね、ブフゥ、ええ、その。思ったよりも似合っておりますわッッ」


 ギャビー、お前もか。

 だが今の俺はそんなちっぽけなことを気にしない。


「ああ、良い空気だな……」

「ここダンジョンなんですけど、あまりに嬉しくて壊れちゃいましたかね?」

「まるで悟りを開いたかのようですわ。瀧音様、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。世界がキラ★キラして見えるぜ」

「なーんか、駄目そうですね。私ウィッグなら持ってますけど、被せます?」

「……それは素晴らしい案ですわ」


 俺をおいて女装レベルを上げないでいただけないでしょうか。てかなんでお前らそんな普通に会話してんの? 俺を女装させる時に結託でもしたの?

 

「ほら、シャキッとしてください!」

「でもなぁ。テンション上がんないんだよな」

「じゃあ、決めポーズでもしましょう。ななみさんが言ってましたよ? 決めポーズをすると身も心も引き締まるって」

 ななみと結花の会話ってどんな世界が広がってるんだろうか。姉さんとななみの会話よりは常識的なのが展開されてるとは思うが。


「三脚は持っているので撮りましょう。実はななみさんから貸りてたんですよねぇ」

「お前らは黒歴史をわざわざ形に残すのか……?」

「最初は恥ずかしかったんですけど、なんか今はもう面白くなって来ちゃって。それに瀧音さん、しっかり全身が映った姿を見てみたいと思いませんか?」

 まあ恐い物見たさで、自分がどうなっているのか見たいっちゃあ見たい。てかななみから三脚を借りたと言っていたけど、どういう経緯で借りたんですかね。


 てか、なんでギャビーは杖もってポーズをとってるんだ? あんなに恥ずかしそうにしていたのに、俺を見て恥ずかしさが軽減したのだろうか。

「さ、瀧音さん。一番大事な真ん中をお願いします。ギャビーさんがそっちなら、私は反対側にしますかね」

わたくしの腕はもう少し上の方が良いかしら?」

「その辺りが良いと思いますよ!」


 なんか、仲よさげ? に二人が話している姿を見ると、あまりイヤと言えないんだが。いつ仲良くなった? 二人が着替えてるときか、俺が着替えている間に何かあったんだろうなぁ。あんなにいがみ合っていたのに何があったんだろう。


 ……ほんと楽しそうに話してるなぁ。


 覚悟を決めるか。 

「やればいいんだろ、やれば!!」

 既にポーズを取ってるギャビーの横に立ち、腰を落とし刀に手を添え、抜刀の構えをする。

 結花がツクヨミトラベラーを三脚にセットして、こちらに来ると俺の頭に何かをかぶせた。これは。

「ウィッグ?」

「動かないでくださいね……! これはここに流しましょう」

 

 スッと白い腕が伸びる。彼女は髪をつまむと髪を整えてくれるが、忘れていないだろうか。その服は脇オープンなんだぞ? 

 その白くて綺麗でなぜか神秘的で背徳的な脇を見せられると、体というか心が揺れ動いちゃうんだけど。


 うん。余った一着を自分の荷物に入れておいたのは正解だった。

 

「ふふっよーしっ! じゃあ撮影しますよ」

 そして結花は俺の後ろに回ると、はいチーズ! と声をかける。

 

 そして撮影された写真を見て理解した。

 たった今、黒歴史が誕生したのだと。


----


 魔法陣の先は依然と同じ洞窟型のダンジョンが続いていた。しかし、今までとは違うことをはっきり理解しなければならない。

 ここからはトラップ大量のフロアである。残念なことに俺の持つ指輪では感知できない最上級の罠達である。

 これさ、色んな意味で俺を殺しに来ているよな。

 

 ゲームの伊織はどうして壁に阻まれなかったのだろう? 描写はなかったが着ていた可能性が微粒子レベルで存在している? 見たい。

 予定外といえば、ななみと初めて会った時もそうだった。ゲームに無い選択肢が出てきて……すべてがゲーム通りと考えるのは止めていたつもりだが、まだ意識が低かったかもしれない。今回はただの服だし、何らかのイベントで致命的なミスをしたわけでは無い。


 精神的な意味で致命傷を負いかけているが。

 

 ただストールを装備したまま来られたことは不幸中の幸いだろう。武器扱いなのだろうか? 上下左右から水でも飛ばしてみろ、俺が光の速さで防御してやる。


 しかし体にストールをかぶせて隠そうとすると壁に阻まれるんだよなぁ。服の周りに何らかの魔力が放たれているのだろうか。まあそこら辺はエッロサイエンティストなら分かるかもしれないが、俺には分からん。だいたいの準備が終わったし、彼女に会いに行かなければならないな。


 てか防御できなかったら、二人はエロハプニングで俺は放送事故だ。必ずなんとかしなければならない。

 

 気合いを入れ集中しよう。

 

「あら、なんですのあれは?」

 そう言う彼女の視線の先を見る。石造りのダンジョンの天井から、なぜかくす玉の紐のようなモノが伸びている。どう考えても怪しい。

 そしてそれに向かって歩き出すギャビー。


「待て待て待て!!!!!!!」

「ストーップです、ギャビーさん!!」


「? 大丈夫ですわ、さすがに引きませんもの」

 確かに引かないかもしれないけれど、ギャビーだったらその手前で躓いて紐を引っ張る未来が見える。


「! 瀧音さん私、何かイヤな予感がします……!」

「本当かっ!?」

「ええ、あの辺りがヤバイと私のカンが言ってます」

 結花のカンがそう言うんだ、間違いないだろう。

 すぐさま荷物をあさり、土の下級陣刻魔石を取り出す。紐の辺りを狙って陣刻魔石を発動させた。

 すると魔法陣が俺の前に浮かび上がり、そこから人の頭ぐらいの石が飛んでいく。そして紐の横の地面にぶつかった。瞬間、下から水が噴き出した。

 それはすぐに勢いを失ったが、ヌレヌレにさせるには十分な量である。


「なんですの。ただの水ですわ。こんなのでわたくし達を止められるとおもっているのでしょうか」

「……な、なんて卑劣な罠なんだ」

「や、やっばぁいですよこれ!? 的確に急所を狙ってます」


 眉を寄せ、俺たちを見るギャビー、すまないが話すことは出来ない。


 それよりもあの罠だ。結花の言う通り、この水は下半身という急所を的確に狙ってきてる。確かに戦闘では急所を狙うのは当然なのだが、こんなところでそんなものを仕掛けるとか頭おかしい。

 

「一撃で、俺たちを仕留める気だ……」

「た、瀧音さん。私たちってここに来たばかりですよね? 殺傷力高すぎじゃないですか」

 俺もそう思う。紐というフェイントからの足下だ。初っぱなからこれだぞ!?


 意識を入れ替えるんだ。集中、集中するのだ。滝で打たれながら瞑想したあのときを思い出せ。あのとき一緒に滝に打たれたぬれぬれ巫女服姿の先輩さいっこ……駄目だ駄目だ駄目だ。心が迷走している。


 今はマジでそんなことを考えていられないんだ。俺は自分を、二人を守らなければならない。


「お二人とも、いったいどうされたんですの……? まあいいですわ、進みましょう」

 そう言って先へ進もうとするギャビー。


「ちょっと待ってくれギャビー、君に大切な話がある」

 慌てて彼女の手を取ると、こちらに引き寄せた。そして小さく深呼吸し、邪念を追い払う。


「君は俺の事をどう思っているかは知らないが、俺は君や結花を大切な人だと思っている」

「はえっ! な、なんですの!?」

「守りたいし、今、守ろうと思っている」

 ぽかん、とした様子で俺を見つめるギャビー。

 掴んだ手を俺の胸に持ってくると、呆けたギャビーの目をじっと見つめた。


「俺はさ、ギャビーに傷を負って欲しくないんだ」

 そう、心に傷を負って欲しくない。その一心だ。だがギャビーは何をするかが分からない。最悪俺らも巻き込まれる可能性がある。だから。


「ここは危険だ。だから俺が前に出る。君は俺の後ろを付いてきてくれ、何かあっても俺が守るから」

 せめて後ろにいて。変な事をしないで。頼む。


 この思い、届け。

「はい……!」


 小さく頷く彼女を見て手を離す。そしてよし行こうと結花に視線を移すと、彼女は口を半開きにして『うっわぁー』といった様子で俺を見ていた。

「どうした、結花?」

「いえー。何でもないです」

「そうか、結花。お前もストールの近くにいてくれ。最悪、俺が壁になる」


 スケスケベで一番ダメージが少ないのは多分俺だからな。でも極力そんな事にはなりたくないし、なるつもりはない。

「何か思ったらすぐに言ってくれ。信頼している、共に乗り越えよう!」


 使えるモノはすべて使おう。必要ならば土とかの陣刻魔石をも使ってしまえ。

 どうせ一部以外はあまり使わないんだ。ケチっている場合ではない。


「魔法少女」「もう何も恐くない」うっ頭が……(物理)


自分を追い込むために宣言しときます。次の更新は26日。3話目標(最低2話)。

@1話でこのアホダンジョン終わらせ、そのあと一気に色々話が進む予定です。


ちなみにエロゲの魔法少女だとスマガが一番印象に残ってます。すごかった(小並)

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― 新着の感想 ―
[一言] >「魔法少女」「もう何も恐くない」うっ頭が……(物理) 酷いブラックジョークを見た。 但しブラックジョークが公式な件。
[一言] 面白い作品と思っていたはずなのに、この話に栞を入れたままブックマークの海に埋もれていたのを今になって再発見しました。 読んで納得。 かつての私は「魔法少女(男)」に耐えられずに逃げ出して…
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