13 水守雪音②
彼女は何度も繰り返していた素振りを不意に止める。そして彼女は今までの上段の構えからの型を止めて、脇に構えた。
「ふっ」
彼女が息を吐くと同時に、一瞬何かが光る。気が付けば薙刀は前に突き出ており、水のカーテンが縦に二つに割れていた。
ああ、この技はゲームで見たことがある。これはあの技だろう、それ以外に考えられない。
『紫電一閃』
彼女の技の一つであり、彼女がゲーム内で優遇されているといわれる原因の一つでもある。
その突きは目で追うことが出来なかった。
長刀の舞いは、まだまだ終わらない。切り上げ、切り下げ、横払い。
その美しい連続技を見ていると、体の中がだんだんと熱くなっていくことに気がついた。居ても立っても居られない、そういう気持ちだ。今すぐ駆け出したい。そんな衝動に襲われる。
すぐにその原因には行き着いた。
俺は未だ長刀を振るう水守雪音に背を向け、滝の裏から出る。そしてありったけの力を足に込めて駆けだした。
熱くなる心臓。まるで台風で氾濫しそうな川のように血液と魔力が流れ、体は酷くほてっている。
ああ、クソッ。と心の中で悪態をつく。
心奪われるほどの美貌に、拳を壁に打ち付けたくなるほどの羨望に、そして体をくすぶる嫉妬。それらがごちゃ混ぜになって、火が付いたのだ。
早く鍛えたい。あれぐらい美しく武器を振るいたい。あれぐらい強くなりたい。
いや、あれ以上に強くなりたい。
体中がそう訴えていた。
滝から少し山を登り、開けた場所に出る。そこで俺はありったけの魔力を循環させながら、勢いよく走る。燃えた体を消火するかのように、これでもかと走った。
どれくらい走っただろうか。照らしていた日は沈みかけ、辺りは暗くなっている。これ以上ここで修行することは無理だろう。灯りもないし、何よりご飯時には帰る約束をしている。
「帰ろう……」
そう呟いて、家に向って走り出した。
頭に浮かぶのは水守雪音のことばかりだ。
薙刀の動きがまったく見えないなんて本当にばかげている。それも距離があったというのに全く見えなかった。どうすればあれだけ速く武器を振るえるのだろうか。
そしてだ。俺はあの速さにどう対抗する?
あの速さに対応出来なければ、俺は一生彼女に勝つことが出来ないだろう。
だとすればどうすれば良いのだろうか。
一番簡単で確実な対策は、相手が動く前にこちらが動くことだろう。こちらの動きで相手の行動を封じるのだ。幸いにも俺のストールの壁は面積が広い。動かれる前にガードすればなんとかなる。
しかし、本当にそれでいいのだろうか。
靴を脱ぎ、玄関を上がる。そして風呂に向って一直線に進みながら、考える。
彼女と同じように、高速で動ける人間や魔物が現れるかも知れない。そのとき初見で対応出来るか、と問われればそうではないだろう。
特に魔物だ。やられたら死につながるのだ。セーブ&ロードが出来るならば、何ら問題はないかも知れない。でも今は現実なのだ。
目を鍛えたい。反射神経もだ。
ストールを外し、汗で張り付いたシャツを脱ぐ。
スポーツ選手は目を良くする訓練や、反射神経を鍛える訓練をしているらしい。俺もそれをしてはどうだろうか。そしていくつかのスキルを獲得するのもいいか…………!
俺がノブに手をかけようとした瞬間、ガチャリとドアが開く音がする。
「……」
「……」
現れたのは白い素肌をほんのり桜色に染めたはつみさんだった。湯上がりなのだろう。肌にぺたりと張り付いた濡れた髪に、顔や体を伝う滴。そして全身からうっすら湯気がたちのぼり、体中が熱を持っていることが見て取れる。また彼女は着やせするタイプなのだろう、服を着ている時には感じなかったそのボリューミーな果実に、吸い付きたくなるような可愛らしくピンク色の……。そして肉がつきすぎず、やせすぎでもない胴から、安産型の尻。なんとか大切なところはタオルでぎりぎり隠れていたが……アウトだよな、この状況。
頭のメモリーに永久保存しながら、急いでドアを閉める。今すぐこの画像をバックアップしたい。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ」
はつみさんから今まで聞いたことがないような音量で叫ばれ、体中に罪悪感がわき上がる。
「すいませんでしたぁぁぁぁぁあああ!」
そのとき、廊下からどたどたどたと足音が聞こえた。
「どうしたの!?」
どうやら毬乃さんが帰宅していたらしい。すぐにこの場所に来たようだ。そして俺の全身を見て顔を赤くする。
「きゃぁぁぁぁ♪」
なぜか楽しそうな叫び声だ。って、叫ばれた? え、なぜ。
ふと自分の体を見つめる。それなりに引き締まっていると自負している健康的な肉体。綺麗に割れている胸と腹筋は少し自慢したい気持ちもある。しないが。そしてその下には地球にいた俺以上にある、このミサイル。
なるほど、俺は全裸なのか。
服は脱衣所におきっぱなしだ。隠す布はない。
「うぇええええええええええええい!」
急いで両手でミサイルを隠す。まさかの2次災害だ。
「幸助くんったら気が早いわああぁぁぁぁ♪」
毬乃さんは両手で顔を覆っているが、指の隙間からしっかり俺の体を凝視している。膨らんだ股間を。
ああ、どうすれば良い、どうすれば良い。ああ、ダメだ頭の中がごちゃごちゃして、何も考えられない。
ふとドアが開き、下着姿のはつみさんが出てくる。そしてその手から魔法が放たれた。防御は確実に間に合わない。というかストールがない。
「あ、これ死ぬ」
目の前が光でいっぱいになった。
同居しているのに風呂シーンのないエロゲは、はたしてエロゲなのだろうか(疑問)
むしろエロゲとはなんだろうか(哲学)
哲学(結論)





