128 黄昏の道⑤
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幸助視点に戻ります。
ええい、何を今更迷っているのだ。ここに来る前に覚悟は出来ていたじゃないか。
結花の手に握られているのは、服。それも魔法少女が着てそうな服。残念なことに日曜日の朝……ではなく深夜に放送されそうな際どいヤツだ。
「なんだか不思議な力を感じますわ」
「何らかの魔法がかけられているのは間違いないですねぇ」
「それにしてもですわ……そのこの服デザイン……」
「ホント、すっごく際どいし恥ずかしいんですけど。性能が良くても着るのは躊躇われますね」
いやいや、喜んで着るやつ何人かいるから! それに一部のキャラは魔法少女のコスプレをさせると能力が大きく上がるのもいるんだぜ! 見た目は真面目清楚系メガネ娘な生徒会副会長フランとか。あの人って恥ずかしいからイヤとか言うんだけど、実は着たがってるんだよな。そしてすっごく似合う。
いや、今はそんなことどうでも良いんだ。
どうする? とりあえず魔法陣に魔力を込めて投影機を起動させるべきか。一応ゲームと同じであることを確認しておきたい。
と投影機の魔法陣に魔力を込める。すると結花は驚いて俺を見たが、画像と古代文字が映し出されたため後で聞こうと画像を見つめる。
「なんですの、これは?」
「……なんでしょうねぇ? 文字は読めないですけど、絵の方はなんとなく分かります。ええと宝箱の服を来て冒険している絵ですね」
俺も字は読めない、でもこの絵を見て確信した。やっぱりそうだよな。この服着て進んでるしな。
「それにしてもなんですの? この水をかけられて両腕で胸を守るような絵は?」
「目が×マークになってますし、単純にトラップがあると言うことではないんですかね? ……あれ、どうしたんですか瀧音さん、挙動不審ですよ?」
「な、何でもない」
「……もしかして、瀧音さん古代語分かります?」
ジト目でこちらを見る結花。俺は何かしただろうか? 鋭すぎる。
だがどうする? 普通に考えたら伝えなければ進めない。かといって全部伝えるのには抵抗がある。
「す、少しだけなら分かるぜ」
「ほんとですか!? じゃあアレは?」
そう言って彼女は服を着た女性を指さす。その横にはクネクネした道が描かれていた。
「まず、ここのダンジョンはこれで終わりではないらしい。これからもう少し続くみたいなのだが……」
「このクネクネしているのは通路でしたのね」
「それでだ。書かれている事によるとだな。ええと、女性達がこの服を着ないとこの先へ進めないみたいなんだ……!」
俺がそう言うと結花の表情が変わる。ジト目から威嚇に。
「っはぁーっ?」
「ゆ、結花、君は今他人に見せてはいけない顔になってるぞ」
「だってそうじゃないですか。瀧音さん、自分の言葉をもう一度咀嚼してください。なんで私がこんなの着なくちゃいけないんですか?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくれ。ほら、あれだ、開放感あふれてて良さそうじゃないか?」
「っはぁーっ? 頭沸騰しちゃったんですか!? じゃあ瀧音さん、穴だらけでギリギリ見えないパンツはいて、開放感あふれてて最高とか言ってくださいよ!」
「ド変態じゃないか!」
「瀧音さんがさっき言った事じゃないですか!」
「だ、だって俺書いてあることを喋っただけだし……それ着ないと先進めないみたいだし……そ、それにだ、アレを見ろって」
と俺は壁に描かれた丸い物と四角い物を指さす。
「優秀な成績を収めれば、記念のメダルがもらえる上に、賞状ももらえるみたいだぜ」
「競技会じゃないんですよっバカですかっ! そんなのいるわけないじゃないですか! そもそも優秀な成績ってなんですか!?」
俺もそう思う、とてつもなくいらないわ。だがな、それゲームでは賞状が大切なアイテム扱いで、捨てることの出来なくなるアイテムでもあるんだぜ。それをすてるなんてとんでもない!
「その、だ。この先に罠がいっぱいあるらしくてだな、それをうまくくぐり抜ける事で優秀な成績になるんじゃないかな……?」
「り、理解しましたわ。両腕で胸を守る絵は罠を踏んでしまって身を守ってる絵なのですね」
そうなんだけど、違う。そうなんだけど、ちがうんだぁぁぁぁあああっっっ!
そこら辺のギャルゲだったら確かにそれで終了かもしれない。でもな、これはエロゲでマジエクだぜ? こんなので終わるわけないじゃないか!!
「…………瀧音さん。何悶絶しているんですか」
「えっ、いやその」
「……………………ちょっとこっち来てください。ギャビーはそこで少し待っててください!」
結花に腕をがっしりと掴まれ、ブツブツ言うギャビーをおいて一つ前のフロアに戻る。
「さー、瀧音さん。吐いてください」
すごくかわいい女性に壁ドンされて嬉しいんだけど恐怖が勝ってる。でもやっぱり嬉しい。
「な、何をかな?」
「ほんとは何か知っているんですよね、怒りませんからはっきり仰ってください」
何で分かるんだよ! 俺何も言ってないぞ!?
どうしようか悩んで居ると、不意に結花が少しだけ寂しそうな顔でため息をついた。
「ねぇ……瀧音さん。瀧音さんはご理解されてないかもしれませんが、私は瀧音さんにとても感謝しているんです」
「それは――」
「すみません、もうちょっと私の話を聞いてください。私は感謝していると同時に信頼もしているんです。リュディさんや雪音さん、そしてななみさんも心から信頼しているようですし、何より今まで私にしてくださったこともありますし」
そして結花は目に掛かった茶髪を耳にかけ、あどけない笑顔を浮かべた。
「後ほど……私の悩んでいたことも全部包み隠さずお話しします。そうですねぇ、なんならスリーサイズもお教えしますよ! だから瀧音さんも話してくださいっ♪」
ゑ?
「しゅ、しゅりーさいず!?」
ちょ、お前、何アホなこと言い出してんだ! 変な薬でも飲んだのか!?
「それくらいの覚悟があるって事と、そういった内容なんじゃないかって想像していただけですってば! あれぇ? もしかして瀧音さんったら私のスリーサイズ気になっちゃうんですか!? この瀧音エロ助っ♪」
指で胸をつつくな!
それと悪いんだけどな、俺はもうお前のスリーサイズ知ってるんだよ!!!!
てか。なんでエロい内容だなんて分かるんだよ!? 俺何も言ってないよな?
ああもう、ここまで来たら包み隠さず話してしまった方が良いか? でもアレだぞ? しかし話さない方が…………あ゛あ゛あ゛あ゛!
駄目だ、ちょっと深呼吸しよう。
話すべきか話さざるべきか。完全に知らんぷりする事も有りだった。何かあったとしても命に関しては別状はないだろうし、強いて言うならダンジョンで転ばないように注意してぐらいな物だ。
だがここまで読まれているなら話さざるを得ない、か。
何かあったら結花に冷たい目で見られるのは確定だ。まあ、この後の事を話すだけで冷たい目で見られるような気がしなくもないが。
でもこんなに話して欲しいと言われて、隠し続ける方が無理だ。
「わ、分かった。ただ、怒らないで落ち着いて聞いて欲しい」
「怒りませんよ……! そもそも瀧音さんのせいではないじゃないですか」
そうだよな。俺もそう思う。
「う、うん。よし、では……実はだがな、あの古代語に書かれていることは服を着ろだとか、そう言ったことだけではないんだ」
「まあそれは分かってました」
だよなぁ。
「それでな、絵にはその、水がかけられる絵があっただろ? 実はさ、罠が発動すると水が吹き出るんだが……アレは罠を踏んで水を被った時のやつでな」
「へぇ、あの絵は水だったんですね」
どう言えばダメージが少ないだろうか? なんとかクッションをはさんでダメージを小さくしたいのだが。水、水、水と言ったら?
ヤバイ、何も思い浮かばない! ならば適当な事でいい。何かを!
「そ、それでだな。やっぱ水って透明じゃん?」
「……急に何言い出してるんですかね? 当然ですよ?」
「そして服ってさ、暖かいじゃん? だから水をかけると透明になりたくなる種類の物ってあると思うんだ」
「言ってることの何もかもが目茶苦茶なんですけど? そんなの、あるわけないじゃないですか。透明になりたくなる服とか頭おかし…………ん? 水をかけ、かけ…………っっ!」
「じ、実はあの服っ。水をかけると、スケスケになるんだっ!」
「……っっっっっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああーっ?」
「み、水をかけるとスッケスケになるんですぅぅぅぅう!」
バカだよなぁぁぁこの作品の制作陣んん! もちろんロードしまくり、自ら水に突っ込みまくりで全員のCG集めさせていただきましたぁぁぁぁああああ!!
「バカじゃないですかっ!? 何でそんな服宝箱に入ってるんですかっ? 何でそんな服着ないと先に進めないんですかっ!?」
普通に考えてみろよ、宝箱にエッッッなシーンで使うアイテムが入ってるのは当然だろ! そしたら着るのは当然だろ!?
「ゆ、結花?」
顔を下に向け握りこぶしを作りプルプルと震える結花。表情はよく見えないが耳まで顔を真っ赤にしている。
「り、理解しました。罠を踏んで水を被ると、胸が丸見えになるんですね…………! だから隠すために胸の前で×マーク……!」
「す、すまん。ただこれだけは言いたい、俺のせいじゃないんだっ!」
「そんなの分かりきってますよ!?」
何が悪いかって制作陣が悪いんだっ! 決して俺のせいではないんだけど、やっぱりこう言ったボス戦イベントの後に、紳士達はエロシーンを求めているのであって、それを制作陣はしっかり理解していて、彼らが期待に応えたのかもしれないのだけれど、俺達エロゲユーザーはしっかり口だししたわけではないし、どうであろうと、ここにエッッッなシーンを入れたのは制作陣だ。
だから悪いのは全部制作陣だ!! なーんて言えるわけないよなぁ!
って現実逃避しても駄目なんだよ! なにかフォローを、スケスケ水着を着るというマイナスを多少緩和させるような何かプラスなこと……!
そ、そうだっ! あれがあったじゃないか!
「ま、待ってくれ。だけどな。朗報もある。水を一度も浴びずにここを抜けると記念のメダルがもらえる上に、なんと賞状も貰えるんだぜ!?」
「やったー賞状ゲットですっ! ってなるわけないじゃないですか、ムカデの足ぐらい要りませんよ!? さっき言ってた優秀な成績って水を一度も浴びないって事ですか!?」
ムカデの足は言い過ぎダルルォ! 一応賞状だぞ!? でも『賞状』と『水を浴びて入手出来るエロCG』を比べたら、賞状なんてクソゴミはムカデの足と同程度の価値です!! って賞状はムカデの足並みだった!?
「うぅぅぅぅぅ! 分かりました、ええ、分かりました!!」
「わ、分かった?」
「決めました、着ます」
「は?」
「着ます! 着てやりますよ! 着て進んでやります、罠を回避して水を一度も被らなければ良いんですよっ」
そう言って俺の胸ぐらを掴む。顔は真っ赤のままで、血色の良い唇はプルプル震えていて、決意の目で俺を見ていた。
インパクトある話が続いたから、実はあの魔法少女服自体がエッッで際どいことを忘れているような気がするけど、やぶ蛇だろうから何も言わない。
「ギャビーには……この件は伝えないでおきましょう。何が起こるか分からないので」
言っても言わなくても何か起こりそうな気がするのは俺だけか?
「じゃあ、私はあっちで着替えてきますね、呼ぶまでここで待っていてください」
そう言って俺から手を離し、くるりと後ろを向く。
その姿を見て俺は慌てて呼び止める。
「まった、まった。良いのか!? 何かあったら……」
スケスケなんだぞっ!?
「どっちにしろ着なきゃ進めないんですよね? それに」
振り返ると彼女はゆっくりこちらに近づいて近づいて、俺の胸におでこを当てた。
「瀧音さんは、もし私が罠を踏んでも……体をはって守ってくれますよね?」
「……あ、当たり前だろ!?」
「ですよねっ! じゃ、着替えてきます!」
タッタッタと転移魔法陣のそばへ行くと彼女は不意に立ち止まる。そして後ろを向いたまま「瀧音さん」と俺を呼ぶ。
「どうかしたのか?」
「あのですね。一応、言っておこうかと思って」
「言っておくって何をだよ?」
「他の男性には絶対にイヤなんですけど、瀧音さんには……少しくらいなら見られても大丈夫ですから」
そう言って彼女は魔法陣の中へ入っていった。
単純な話、罠を踏んで水を被らなければ良いんだよ!
え? パーティメンバーにギャビー? あっ(察し)
※次の話で色々説明がありますが、罠は瀧音の持っている指輪では見つけられない上位の罠だったり、上に服着るのを禁止されてますん