118 忍者スキル②
2019/08/30 更新1回目
マジカル★エクスプローラーにおいて忍者とは優遇された職の一つである。
風紀会に所属している男キャラの一人は、その忍者という職業のおかげで男キャラの中ではマシな性能をしていたし、新聞部の彼女も優遇のおかげでメインヒロインと渡り合える強さを持っていた。
さて、この忍者のスキルではあるが、入手の方法はいくつかある。忍者スキル、忍術を覚えている講師やキャラクターから伝授してもらうか、特殊なダンジョンへ行くことである。
単純にいくつかのスキルを得るだけなら講師や該当のキャラへ教わりに行くのが早い。しかし、どうしても覚えておきたいスキルの一つはダンジョンでしか手に入らないことと、その他やらなければならないこと、アイテム入手などの効率を考えるとダンジョンへ来た方が良い。
そうなればダンジョンへ来るのは必然と言えるだろう。
ただダンジョンの進み方次第では、講師やそのキャラに教えを請うても良いのかもしれない。あまりにもダンジョン攻略に手間取るなら、という条件が付くが。
どうしても必要なのは一つだけだから、それさえ入手してしまえば……そのあたりは進み具合で判断するとしよう。
まあ、それは後で考えるか。
今はダンジョンに集中すべきだ。すべきなのだが。
「……それにしても変な気分だなぁ」
なんだか集中しきれない。
「何がよ?」
リュディはきょとんとした表情で俺を見る。
「ほら、畳を靴で歩くのがだよ」
そう言って、俺は自分の足下を指さした。
今回挑んでいるダンジョン『からくりの城』は三会会員になるか、ツクヨミ学園ダンジョンのある程度の階層を攻略すると挑戦出来るダンジョンの一つである。
そのからくりの城は名前で察せられるとおり、日本の城にトラップや特殊なギミックを混ぜたような、そんなダンジョンだった。
見た目は江戸城にあった大奥のようなところであろうか。
通路の壁はふすまだったり障子だったりで、まるで室内を歩いているような気分になる。
もしかしてと思い、ふすまを強めにぶん殴ってみたものの、しなったりはするが壊れそうもない。何らかの不思議な力が働いているのだろう、ショートカットは出来そうに無い。まあ今までの経験上、ダンジョンは何でも有りだから、壊れないふすまがあってもなんとも思わないが。
さて、それはいい。問題は床だ。木の床は何も感じなかったが、畳となると話は別である。なんというか微妙な弾力があって、ゴムを踏んでいるような変な違和感がある。そもそもだが畳に土足で上がる時点で、忌避感みたいなのがある。
「確かに変な気分になるわね」
畳をフミフミしているリュディとななみ、そして結花を見てふと思う。畳ってフェチの心を満たしてくれる秀逸なポジションなのでは? 畳になれば合法的に踏んでもらえるし、尻をおいてもらえるかもしれない。
なんだこれ、俺が変な気分になってるんだけど。
畳に対して少なくない嫉妬心を燃やしていると、ななみがスッと弓を構える。それとほぼ同時に先輩が薙刀に手をかけた。
すぐさまストールを構え刀に手をかけると既に真剣な表情になっているリュディに目配せする。
「ご主人様、来ます」
少しして現れたのは、数匹の妖怪モンスターだった。
からくりの城はその名前と見た目通りと言って良いのか、出てくるモンスターはすべて和風で統一されている。
「小豆洗いと一反木綿だな」
小豆洗いも一反木綿もからくりの城に限らず、和風系のダンジョンの低階層に出現する雑魚モンスターである。
「飛んでるのは任せて」
そう言うリュディとななみに一反木綿を任せると、俺と結花は小豆洗いを処理するために走り出す。
小豆洗いのやっかいなところは、遠距離攻撃持ちであることだ。小豆のような魔力の塊を弾丸のように飛ばし、こちらを攻撃してくる。
とはいえ。速度は速くないし、ストール壁で簡単に弾き飛ばせる。
それに俺の横に居る彼女だって……。
「? どうかしたんですかー?」
よそ見をしながら装備しているガントレットで小豆弾を弾く。
「余裕だな」
結花の戦闘スタイルを一言で表すと、接近戦闘が出来るヒーラーと言ったところであろうか。一応最も得意なのは体術では有るが、メイスや剣も得意武器だから、体術にこだわらなくても良いのだが。
また彼女はとても人気があるキャラだったからもちろん優遇されていた。しかし、かわいそうな点もある。それは『最終兵器』初代聖女と戦闘面での役割が少し被っていたことだろう。
だけど結花はウザ可愛いし、太ももと黒ニーソの破壊力は抜群だし、お兄ちゃんと呼んでくれるし、あっちの役割は被ってないし、控えめに言って嫁だ。使わない訳がない。
まあヒーラーはパーティに二人いてもRTAのような事をしない限り問題なかったから、初代聖女と一緒に使っても何ら問題ない……それどころか、初代聖女とかなり相性良いんだよなぁ。まあ、それだけ初代聖女が異質だからでもあるが。
「やだなぁ、瀧音さんだって余裕じゃないですかぁ」
まあ、俺の場合はななみやリュディの協力ありきで鍛えているから、むしろ出来ないとまずい。
ただ、そこまで魔素を集めていないはずの彼女が、これほど動けるのが驚きだ。やはり才能なのか。ゲーム内では学年屈指の才能と言われていただけある。
「じゃあ俺が一匹こっちにぶん投げるから、その後は頼むぞ」
そう言って駆け出すと飛んでくる小豆を弾きながら前に進む。小豆洗いは2匹。第四の手で1匹の頭を強く叩くとそいつを掴み、結花の方にぶん投げながら刀を抜く。
真っ二つになった小豆洗いを確認し、結花の方を見つめる。
「せぇぇぇぃ!」
魔力とスキルのためか、ガントレットが白く発光している。彼女は体全体を使い、飛んでくる小豆洗いに拳をぶち当てた。
「一撃必殺だよなぁ」
「瀧音さんには言われたくはないですね……正直今の私では勝てるイメージが浮かびませんよ。私が真っ二つになるイメージは出来るんですけどぉ」
じとーっとこちらを見る結花に、思わず苦笑する。
そりゃあ考え得る最高の自分強化をしているつもりだ。知識をフル活用しているのに、ここで結花に負けてたら伊織どころか三強やメインヒロインにも劣ってしまうかもしれない。
「結花も強くなれるよ。やる気次第で、それも確実に」
「何でそんなに自信を持って言えるんですかねぇ……?」
知ってるからだな。
「みんな、よくやったぞ。素晴らしいコンビネーションだった」
と俺らの様子を見守っていた先輩が笑顔でそう言った。
今回は先輩にお願いして、基本的に俺たちに戦わせて貰うことにしている。こういうのは経験になるから。
もちろん先輩は快く承諾してくれた。
一反木綿のドロップである木綿と魔石、そして小豆洗の魔石を回収すると、先輩はつぶやく。
「さて先へ進もうか……」
「あ、いや、少し待ってくれませんか先輩。ななみどうだ?」
と言いながらななみに目配せする。
「ええ、ななみのセンサーにビビッときましたね。このあたりでしょう」
と、あらかじめ根回ししておいたななみにそう言って貰うと、ふすまを強く叩く。しかし反応はない。確かここら辺だったよな? と今度は反対側を叩く。
隣だったろうか? とその隣を叩くとふすまから『ガコン、カチ』と何かが嵌まったような音がすると、ゆっくりと横に開いていく。
現れたのは通路である。それも欲しいスキルを得るためには、必ず通らなければならない隠し通路である。
「先輩、こちらに行きましょう!」
「……また君に借りを作りそうな予感がするな」
苦笑する先輩は一番にその通路に歩いて行く。
すぐに後を追おうとしたものの、強く腕を引っ張られたため進むことは出来なかった。
「ちょ、ちょっと待ってください。も、もしかして隠し扉ですかっ!? え、瀧音さんって初めてここに来たんじゃないんですかっ!? てゆーか、なんで皆さんは隠し扉が出てきたのに平然としてるんですかぁ!?」
腕を引っ張ったのは結花だった。用意していた言い訳を言おうとしたものの、回答したのはリュディだった。
「そういうものだと思ってなさい。幸助は何をしでかすか分からないから」
前なんてソロで40層攻略してきたりするし、と結花に言いながらリュディは先輩の後を追い隠し通路を歩いて行く。
呆然と隠し扉を見ている結花にななみは声をかける。
「結花様、行きましょう」
顔には腑に落ちないと書いてあったが、結局何も言わず、秘密の通路を歩いて行く。