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117 忍者スキル①

2019/08/18 24:00 更新2回目 19日? いいえ18日24:00です。


 RTAを走るに当たって大切な物がある。効率は言わずもがなであるが、連打力、反射神経などもだろう。世界一を狙うなら根気も必要であるか。

 さて、いくつか述べたがそれら以外にも重要な物がある。

 それはチャート作りである。


 チャートとは、どのように攻略するかを書いた手順書みたいな物である。効率や安定性を追求し、その手順書チャート通りにやれば目標タイムを狙える、そう設計しなければならない。

 

 またチャート通りに行動すれば目標タイムを狙えるのだから、RTA走者(RTAをする人)はチャート通りに行動する事が非常に重要になる。逆に言えばチャートがゴミならば、自ずとタイムもゴミになってしまう。


 ではチャートはどのようにして作るか。一番簡単なのは先駆者(同じゲームのRTAを行っている人)を探すことである。動画を見ればどう行動しているかが分かるし、何よりチャートを配布してくれる走者もいる。


 それを一度自分で試し、『こうしたら良いのではないか』と改変をしながら、実際に何度も何度も試走して完成度を更に高めるのだ。


 もし先駆者がいなければ……サイトなどで情報を集めたり、自分で調査をしなければならない。

 マジエロに関して言えば、自分が先駆者のようなものだったから、それはもう調査やら試走を繰り返した。それは良い方向に働いたのだと思う。何度も繰り返してたおかげで、今このときも頭にある程度の情報が残っているからだ。多分誰かのチャートをそのまま利用させて貰っていたならば、今頃はほぼ覚えていなかったのではなかろうか。


 さて、いくつかチャートを作り上げたが、忍者スキルはほぼ必須といって良かった。伊織は主人公補正で大抵のスキルが入手出来たから、それはもういろんな意味で有用な忍者スキルを得ない訳がなかった。

 そしてどうせ取りに行くなら、一石二鳥、三鳥、四鳥を狙う方が良い。もちろん俺が作ったチャートもそう設計されていた。だからこそ、皆で行くつもりで幾人かの人も誘っていた。


 少し休んだら、集合場所に――。

 

「なあ瀧音。早朝の訓練から思っていたが、なんだか疲れてないか」


 と考え事をしていると、声をかけられる。

 いつの間に来ていたのだろうか? 先輩は俺の顔をのぞき込み、目に掛かった髪を払いながらそんなことを言っていた。先輩の均一な美しい顔を見て心臓がはねるも、平静を装い「ああ」とつぶやいた。


「確かに少し疲れているかもしれません。まあ色々あったんですよ……」

 疲れているといえば疲れている。結局ギャビーに宣戦布告されるわ、家に帰れば爆笑している紫苑さんから電話が来るわ、ベニート卿からは申し訳なさそうに謝られる上に頼んだよ、と目的も言わず何かを頼まれるわ。


 そして……何でいるんだろうね。何で一緒にランニングとか模擬戦してるんだろうね。


 先輩から視線を外し、石に腰掛ける結花を見つめる。彼女はこちらを見てにぱーと笑うとウインクした。あざとカワイイ。可愛いんだけどな。


「はぁぁぁぁ」

「なんですかーそのため息? 私がいて嬉しくないんですかー?」

 俺のため息が聞こえたのか、肩を落としたのが見えたのか。彼女は不満げな様子でこちらに歩いてきた。


「あー、めちゃくちゃ嬉しいよー」

「なんですか、そのすっごいやる気の無いトーンは。私がいるんですよ? ほら元気出してください元気!」

 いてくれた方が華やかであることは否定しない。ただ昨日のことを思い出すから、今はちょっとというべきか。


「……何でいるんだ?」

「あ、それ聞いちゃいます?」


 だなんて小さくつぶやくと、目線を外す。そして何やら言いにくそうに。

「えーと、ほら……そのですね」

 と、モゴモゴと言葉を濁す。


「瀧音、彼女のことは任せろ。リュディにも伝えてる」

 先輩の言葉を聞いてようやく察した。

 相談の件だろう。あの食事の後も先輩を強く売り込んだ甲斐があった。先輩は相談を受けたのだろう。そしてもちろんだが、先輩は快く引き受けた。


 そう、先輩はぶれることはなく先輩で、やっぱり俺が大好きな先輩である。


 彼女が言いにくい事に、俺から口を出すのは野暮だろう。察したのだから余計にそうだ。ならば……。 背中をぽんと叩く。

「なんですかーそんなにニヤニヤして。ちょっと気持ち悪いですよ? …………でも、ありがとうございます」

 もう、この話は良いだろう。少しだけしょんぼりした結花を見ていて気分が良いわけではない。

「礼なんていらねえよ。でも先輩には死ぬほど感謝してくれ。そうだな……ちょうど良いし、結花も行かないか」

 そう俺がいうと先輩は苦笑する。


「そこまで感謝されても困るが……まだ完全に解決したわけじゃないというのに」

 先輩になら身を捧げても良いぐらい素敵な人なんだけどな。まあそれはいい。

「まあ、感謝はしますよ。それよりも……行くってどこへですか?」

「強くなりに行くんだよ。伊織に負けたくない、そう思わないか? ギャ……いやガブリエッラの件もあるしな」

「そりゃぁ負けたくないですけど……」

「今日の予定は?」

「ないですけどぉ……ずいぶんとぐいぐい来ますね? そこら辺のナンパよりしつこいですよ」


「まあ別に行かなくても良いんだが、絶対に結花にとって有益だからさ」

 顔に「ええ、何言ってるんですかこの人」って書いてあるな。でも結花の戦闘スタイルには確実にプラスになるからオススメなんだが。

「どうせだからどうだ? 先輩もいるし、だまされたと思って今回だけでも」


 俺がそう言うと反応したのは結花ではなく先輩だった。

 ふっと息が漏れる音が聞こえ、俺と結花の視線が先輩へ向かう。とても優しい微笑を浮かべていた。


「どうしたんですか?」

 結花は首をかしげながら先輩に問う。

「いや、私もそう思うこともあったなと思ってな。瀧音はちょっと大げさなところが有ったからな。だが」

「だが……?」


「私は今までのお前を見てきた。心から信頼しているよ」

 ははは、と笑いながらそう言う先輩を見て、胸が熱くなっていく。なんて心が満たされる言葉なのだろうか。


「俺だって先輩のこと、心から信頼していますよ」

 リュディもななみも姉さんも毬乃さんもだが。まあ先輩も同じようなものだと思う。

「……分かりました。水守先輩がそう言うなら、ちょーっと不安ですけど一緒に行きます」

 俺たちの様子を見ていた結花はそう言った。

 残念ながら結花はまだジト目のままだ。


--


 準備のために一旦寮へ戻った結花を見送りながら、俺たちも帰路につく。休日の朝であるからか、あまり人の気配のしない住宅地を歩きながら俺は先輩にお礼を言った。

「先輩、ありがとうございます」

「? なんの話だ?」

 何かしただろうかと首をかしげる先輩。惚けてるんじゃなくて、普通になんとも思ってないだけだろう。結花を助けてあげるのは当然。そう思っているのだ。


「結花の件ですよ」

「ああ、その件か。むしろ私は瀧音を褒めたい」

 そう言って先輩は花が咲いたようにほほえみ、パンパンと背を叩く。

「俺をですか?」

「ああ、結花からきいたぞ。とても気遣って貰いながら相談に乗ってくれたと」

 なるべく気遣ったのは事実ではあるが、相談に乗った覚えはない。まあ無理矢理解決しようとは思っているが。

「相談は受けてないですよ?」


「確かに詳しく話してはいない、と結花は言っていた。だけど結花は『相談に乗ってくれた』といっていたんだ。だからそうなんだよ……それで、だな」

 先輩は笑顔のまま頬を少し赤くそめ小さく深呼吸する。

 

「私は瀧音のそういう所が好きだぞ」


 正直、反則だと思った。不意打ちにもほどがあった。

 心臓がこれ以上無いぐらいにはねて、口から飛び出してしまいそうだった。


「そうですか。俺は先輩の全部が好きですね」

 平静を装うのは無理だと思った。だから道連れにしよう。

「ぜ、全部好きぃ!?」

 あれだけ普段凜々しい先輩が声を裏返し、目線が右往左往する姿は、とんでもなく可愛い。

「ば、馬鹿者。冗談は止せ。お前は何をいってるんだ」

「いや、でも本当の事ですし」


 そう言って先輩から貰ったお守りを懐から取り出す。それを先輩に見せびらかしながら微笑むと、先輩は恥ずかしそうに顔を赤らめ俺の服を掴む。

「こ、こんな誰もいないところで口説いてどうする! 憎悪を集めるんだろう、私しかいないここで言っても意味ないんだぞ!?」


 先輩にだったら、いつどこだって愛をささやいたって良いのだけれど、今日はここまでにしよう。俺の心臓も限界だ。

「先輩、冗談ですよ冗談」


 あっ、と先輩から言葉が漏れる。

「な、なんだ。そ……そうか。そのだな、私をからかうのもほどほどにしろ……」

 すこし寂しそうというか、残念そうにしている先輩を見て、

「まあ大好きは冗談ですけど、超大好きでは有りますね」

 そう言わずにはいられなかった。


「っっっ! 同じじゃないかっ!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 先輩が可愛すぎる [気になる点] 先輩が可愛すぎるために生活に支障をきたす [一言] ありがとうございます
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