表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/172

114 ガブリエッラ・エヴァンジェリスタ

2019/08/04 更新1回目


 さて、どう回答するかと思案していると代わりにといって良いのか、口を開いたのは結花だった。

「ま、まあまあエヴァンジェリスタさん、落ち着きましょう」

「あら、どちら様ですの?」


「初めまして、聖結花といいます。それで、ちょっと話が見えないのでいったいどうしたのかなーと?」

「簡単なことですわっ! そこの彼が、卑怯なことをして学年一位を得たんですのよ!」

 まあ確かにテスト日にダンジョン潜るって、見方によっては卑怯だとは思う。そんなのありかよ! となるし。


「まあまあ、確かに卑怯かもしれないですけれど、ルールの裏側をついたってことで見逃しませんか? 次回から皆がダンジョンへ挑むでしょうし、今の順位も大きく変わると思いますよ。それで見返してやりましょう!」


 それで引き下がってくれればいいんだけど、ギャビーなんだよなぁ。あと次回のランキングだが、俺以外の台頭によって彼女の順位はさらに下がると思う。ただ、ギャビーがダンジョン攻略とテストをめちゃくちゃ頑張れば俺には勝つことが出来るかもしれない。次回一位なんて絶対狙わないし。


 そもそも今回は可能性の種と三会入会を中軸に計画を考えていたから一位を狙ったのであって、次回一位になったところで貰えるのはアイテムとポイントぐらいだ。

 ダンジョンでそれ以上の価値のあるアイテムを入手できるのに、わざわざ一週間をつぶしてテストを受けるなんて時間の無駄にもほどがある。もしテストを受けるぐらいなら、気分転換に数日の休みを取った方がいい。風紀会や生徒会に入会していたら話は変わってくるんだけど。


「まあ次回は私が一位であることは当然ですわね」

 ギャビーらしいセリフだ。自慢げにそういう事をさらりと言うところがすごく良いんだよな。ついでに言えば結構な頻度で負けるところも好きだ。


 そして一位を取る宣言したところ悪いのだが、次回はリュディが一位をとると予想する。もしくは俺と一緒にダンジョン攻略をして、さらにテストを真面目に受ける人だ。次いで伊織たちか? もしななみが真面目にやれば一位も取れそうだけど、彼女は俺がテストをさぼれば確実にさぼるだろう。究極的には卒業すらどうでもいいとかいいそうだ。まあ「就職先は未来永劫ご主人様です」ってガチで言っちゃうからな。頼りになりすぎて本当に居てほしいわ。


「だが、ですわっ! ズルをしたことは許せません! そして何より、何よりもです!」

 傘を持った手でビシッと俺に指を指す。

「あなたがお兄様を懐柔して利用しようと企んでいるのだけは、絶対にずぇえええええっったいに許せませんことよ!」


 ……聞く限りだとベニート卿が引き金だったぽいなぁ。ベニート卿の一言で暴走してイベント発生なんてこともあったし、今回もそれなのだろうか。結花もだけど、重度のブラコンなんだよなぁ。

 と俺が悟りを開いていると結花がぼそりと小さな声で耳打ちしてくる。


「瀧音さんって何か企んでるんですか?」

「企んでるわけ無いだろ。逆に聞きたいんだが、企んでるように見えるか……?」

 企んでるとしたら式部会としてどう行動していくかをだ。それはもちろん式部会メンバーで話し合って決めている。決してベニート卿をどうこうしようだなんて思ってない。


「聖結花さんでしたわね。この卑怯者のそばに居るのはおやめなさい。自身を下げることにつながりますわ。でも今なら取り返しがつきます」

 

 ギャビーがそう言うと、結花は首をかしげる。

「瀧音さんって卑怯者ですかねぇ? 紳士的ですし、強いし、何より優しいですよ」

 そう言って結花は俺の腕を取るとにっこり笑う。そして俺を見てパチッとウインクした。

 伊織はこの子にお兄ちゃん呼ばわりされているのか……天地がひっくり返って俺のことをお兄ちゃんと呼び始めたりしないだろうか。


 ギャビーは俺の顔を見てわなわなと震えていたが、やがて耐えきれず吹き出した。

「プップフー。あらやだ申し訳ございません、思わず吹き出してしまいましたわ。それにしてもププ、紳、士っ的っっっですか」

 まあ強い優しいはともかく、紳士であることには自信を持っている。変態が付くけど。

「冗談もっっほどっっっ、ククク……、ほどほどっ、に、していただけないかしらっ。ふ、ふふぅ、こんなのを紳士だなんて、結花さんもずいぶんとまあ悲しい生活を送ってきたようで」


 たまたま結花が俺の腕を取っていたからだろうが俺には聞こえてしまった。彼女が「は?」と小声で言うのを。

 そして腕に巻き付く力がだんだんと強くなっていく。

 俺は全神経を腕に集中させ、小ぶりだけど柔らかさとほんのすこしの堅さがあるその…………って痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


「ゆ、ゆいか。落ち着け、落ち着くんだ」

 小声でそう言うも、結花は抱腹絶倒のギャビーを見て、顔に笑顔を貼り付けたまま微動だにしない。

「ええとですねぇ、そもそもですけどー、あなたはぁ式部会のことをぉ詳しく知っているんですかぁ?」

 声ぇぇぇ、声が怖くなってるよ!


「あら、私はお兄様が式部卿ですのよ。無論、存じ上げておりますわ! そうそう、紳士とは私のお兄様のことを言うのですわ!」

「あっ、そーですか。なら察せるんじゃないんですかぁ? 式部会はぁ色々と話せないことがあるんですよ?」

「いーえ、私は学年一位ですわよ、三会に内定していますの。ですから結花さんが知らないようなことも聞いておりますわ」

 さらっと自分を一位にしちゃうところがまたギャビーの良いところだよな。


「そもそもお兄様が私に隠し事をするなんてあり得ませんわ。ですのに瀧音幸助のことであんな言いよどむ上に、私が文句を言うと変なフォローを入れるだなんて、この男が何かしたに違いありませんことよ!」


「へーお兄さんはあなたのブラコンぶりにドン引きして言いよどんだのではー?」

 ちょ!?!??!?!?!?!?!?!?!?!!


「そういえばあなたのお兄さんって式部卿なんですよね、あなたを見ていると式部卿のお里が知れますよ。式部卿さんはすぐに辞任して瀧音さんに譲った方が良さそうですね」

 ちょっと待って、結花さん! な、なんで煽ってんデスカ!? ギャビーに煽られるのは想定内だけど、こっちは想定外だよ!? あと腕痛いです、締め付け強くなってる!


「……お兄様の悪口は許しませんわよ?」

「いやだぁ。そう見えただけですよ。それにしてもエヴァンジェリスタさんって、髪型だけで無く頭の中もくるくるなんですね。びっくりしちゃいました!」

 ああああああああああ!


「……謝罪なさい」

「じゃあまず瀧音さんへ謝ってください」

「謝罪する必要なんてございませんわ」

「じゃあ、私も謝る必要ないですねー」


 ちょっと待って何この状況!? 二人とも体から魔力があふれ出てるんだけど!? ゲームでもこいつらの対立なんて全くなかったぞ!? しかもブラコンキャラ同士の仲良しまであったぐらいだってのに、一体どうしてこうなってるんだ!?

 

「……ここには倒さなければならない虫が2匹居るようですわね。口の悪い虫共が」

「ええと自己紹介ですかねー? あとここには1匹しか虫はいらっしゃいませんよ? 回復魔法を頭に唱えたらどうですか? あ、それがデフォルトでしたか、失礼しましたっ!」

 だれか助けて……! だれかこの状況なんとかして! あと腕に回復魔法かけて……。


「……覚悟はよろしくて?」

「私の台詞ですよ? 今謝れば許してあげなくもないです」

 目線が交差し、バチバチと音を立てている。


 今すぐにでも戦闘が始まるのではと内心ビクビクしていたが、どうやらそれはないようだ。

 にらみ合っていたギャビーはふふっと笑うときびすを返し、転移魔方陣へ歩き出す。


「数日中に訓練場かダンジョンを使えるよう準備しておきますわ! お二人とも逃げても良いんですのよ、おーっほっほっほ!」

 高笑いしながら去って行くギャビーを見て、結花は笑顔のまま舌打ちをしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミック版も応援よろしくお願いします


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ